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3章:森を越えて ― 広がる脅威と探索
第14話:二体一組の探索隊
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洞窟の外に、朝の光が差し込んでいた。
森はまだ静かだった。
湿った空気が木々の間を流れ、葉の上に溜まった露が光を弾いている。
どこからか、小鳥のさえずりが聞こえていた。
その中を、2体のファシムが並んで歩いていた。
ラウルの命を受けて出発した探索隊の第一組。
二人は互いの足音を乱さず、一定の距離を保ちながら前へ進んでいく。
その背には、簡素な布袋と、折れにくい枝で作られた即席の棍棒。
もしものときに備えた、最低限の装備だった。
森を抜けたあたりで、彼らは一度足を止める。
「……風が変わった」
先に進んでいたファシムのひとりが言った。
空気に混じるにおいが、さっきまでとは違っていた。
もうひとりが鼻をひくつかせ、うなずく。
「湿気が強い。……この先、谷か沼がある」
風向きと臭いから、おおまかな地形を推測する。
ラウルと同じ知識を持つ彼らは、判断力も同様だった。
一人きりで進んでいた以前の探索とは、安心感が違う。
森の奥へ、さらに歩を進める。
陽の光が弱くなり、葉の重なりが空を覆い隠していく。
ぬかるんだ地面に足跡が残るたび、注意深く後ろを振り返る。
帰り道を忘れないために。
やがて、一体が立ち止まった。
「これ……」
その視線の先、柔らかい地面の表面に、妙な跡が残されていた。
人間の足跡とはまったく異なる。
大きな体を地面に引きずったような、くねった線。
それも、一つや二つではなく、幾重にも折り重なるように続いていた。
「……這った跡、だな。やわらかい体の何かが、ここを通った」
相棒が、地面にしゃがみ込み、泥を指先でなぞる。
つい最近のもののようだ。乾ききっておらず、跡の輪郭も鮮明に残っている。
「大きさは……俺たちの倍はある」
二人は顔を見合わせ、小さくうなずいた。
即座に追跡を開始する。
跡は森の奥へと続いていた。
それを辿るように進んだ先――木々が切れ、開けた岩場に出た。
その中央、木々の陰に隠れるようにして、ぽっかりと黒い穴が口を開けていた。
洞窟だ。
「……あったな」
「でも、中は暗い」
ふたりは距離を取りながら、洞窟の周囲を慎重に確認する。
風が流れていない。中は深い。空気の入れ替わりがないことが分かる。
何より、そこに立っているだけで分かった。
この場所には、かつて魔物がいた。
洞窟の手前、踏み荒らされた草地の中に、乾いた体液のような痕跡が残っていた。
よく見ると、土の上に落ちていたのは、黒く透けるような“羽の破片”。
「これ……あの時の、成虫の……」
「間違いない。似てる。羽の構造も、色も」
ふたりはしばらく洞窟の前に立ち尽くし、風の流れ、光の入り方、地形の高低差を確かめた。
だが、中には入らない。
「引き返すぞ。今は、報告の方が大事だ」
「……ああ。俺たちは、“見つけた”。それでいい」
ふたりは背を向け、森を戻り始めた。
夜。洞窟の中。焚き火の火が、ぱちぱちと乾いた音を立てていた。
主人公は、戻ってきた2体のファシムと焚き火を囲むように腰を下ろしていた。
火に照らされたファシムの顔は、自分のものとよく似ている。
けれど、ほんの少し、疲れたように見えた。
「……ありがとう。無事に戻ってくれて、まずはそれが一番だ」
ラウルがそう言うと、ファシムのひとりが口を開いた。
「報告する。指定された範囲内、南東方向、距離は想定通り。
その先に……洞窟があった。入り口は狭く、風はなく、光も届いていなかった」
もう一人が続く。
「洞窟の前に、羽の破片があった。……前に戦った成虫型の、あれと同じようなもの」
ラウルは目を細め、火を見つめた。
黒い羽、乾いた体液、腐敗の臭い――それらの言葉を頭の中で繋げていく。
「中には、魔物はいなかったか?」
「いなかった。けれど、痕跡はあった。……“いた”痕跡」
“いた”のか、あるいは“これから出る”のか。
判断はつかない。けれど、確かなことがひとつある。
「……やっぱり、あるんだな。俺たちがいた場所と、同じような場所が」
ラウルは小さく息を吐き、枝を火の中へ投げ入れた。
火花が一瞬、炎の外へ飛んだ。
「明日も継続して調査する。中には入らなくていい。周囲を詳しく見て、痕跡が増えていないか確かめてほしい」
「了解」
二人は同時に頷き、静かに立ち上がった。
ラウルは、焚き火の炎をじっと見つめながら考えていた。
この世界には、まだまだ“知らない場所”がある。
“あの仕組み”が、他にも存在しているのなら――
それを知ることが、生き延びる道につながる。
闇の奥に潜むものを見つけるために。
自分たちは、また歩き出さなければならない。
現在のファシムの数:14体
(探索2体、警戒2体、拠点作業8体、予備2体)
森はまだ静かだった。
湿った空気が木々の間を流れ、葉の上に溜まった露が光を弾いている。
どこからか、小鳥のさえずりが聞こえていた。
その中を、2体のファシムが並んで歩いていた。
ラウルの命を受けて出発した探索隊の第一組。
二人は互いの足音を乱さず、一定の距離を保ちながら前へ進んでいく。
その背には、簡素な布袋と、折れにくい枝で作られた即席の棍棒。
もしものときに備えた、最低限の装備だった。
森を抜けたあたりで、彼らは一度足を止める。
「……風が変わった」
先に進んでいたファシムのひとりが言った。
空気に混じるにおいが、さっきまでとは違っていた。
もうひとりが鼻をひくつかせ、うなずく。
「湿気が強い。……この先、谷か沼がある」
風向きと臭いから、おおまかな地形を推測する。
ラウルと同じ知識を持つ彼らは、判断力も同様だった。
一人きりで進んでいた以前の探索とは、安心感が違う。
森の奥へ、さらに歩を進める。
陽の光が弱くなり、葉の重なりが空を覆い隠していく。
ぬかるんだ地面に足跡が残るたび、注意深く後ろを振り返る。
帰り道を忘れないために。
やがて、一体が立ち止まった。
「これ……」
その視線の先、柔らかい地面の表面に、妙な跡が残されていた。
人間の足跡とはまったく異なる。
大きな体を地面に引きずったような、くねった線。
それも、一つや二つではなく、幾重にも折り重なるように続いていた。
「……這った跡、だな。やわらかい体の何かが、ここを通った」
相棒が、地面にしゃがみ込み、泥を指先でなぞる。
つい最近のもののようだ。乾ききっておらず、跡の輪郭も鮮明に残っている。
「大きさは……俺たちの倍はある」
二人は顔を見合わせ、小さくうなずいた。
即座に追跡を開始する。
跡は森の奥へと続いていた。
それを辿るように進んだ先――木々が切れ、開けた岩場に出た。
その中央、木々の陰に隠れるようにして、ぽっかりと黒い穴が口を開けていた。
洞窟だ。
「……あったな」
「でも、中は暗い」
ふたりは距離を取りながら、洞窟の周囲を慎重に確認する。
風が流れていない。中は深い。空気の入れ替わりがないことが分かる。
何より、そこに立っているだけで分かった。
この場所には、かつて魔物がいた。
洞窟の手前、踏み荒らされた草地の中に、乾いた体液のような痕跡が残っていた。
よく見ると、土の上に落ちていたのは、黒く透けるような“羽の破片”。
「これ……あの時の、成虫の……」
「間違いない。似てる。羽の構造も、色も」
ふたりはしばらく洞窟の前に立ち尽くし、風の流れ、光の入り方、地形の高低差を確かめた。
だが、中には入らない。
「引き返すぞ。今は、報告の方が大事だ」
「……ああ。俺たちは、“見つけた”。それでいい」
ふたりは背を向け、森を戻り始めた。
夜。洞窟の中。焚き火の火が、ぱちぱちと乾いた音を立てていた。
主人公は、戻ってきた2体のファシムと焚き火を囲むように腰を下ろしていた。
火に照らされたファシムの顔は、自分のものとよく似ている。
けれど、ほんの少し、疲れたように見えた。
「……ありがとう。無事に戻ってくれて、まずはそれが一番だ」
ラウルがそう言うと、ファシムのひとりが口を開いた。
「報告する。指定された範囲内、南東方向、距離は想定通り。
その先に……洞窟があった。入り口は狭く、風はなく、光も届いていなかった」
もう一人が続く。
「洞窟の前に、羽の破片があった。……前に戦った成虫型の、あれと同じようなもの」
ラウルは目を細め、火を見つめた。
黒い羽、乾いた体液、腐敗の臭い――それらの言葉を頭の中で繋げていく。
「中には、魔物はいなかったか?」
「いなかった。けれど、痕跡はあった。……“いた”痕跡」
“いた”のか、あるいは“これから出る”のか。
判断はつかない。けれど、確かなことがひとつある。
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