妄想魔法~科学を添えて~

るいす

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第7話 商業都市へ②

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 馬車の揺れは静かに続いていたが、突然、勇次の耳に異様な音が響き渡った。遠くでかすかに聞こえる咆哮のような音――それは次第に近づいてくる気配を伴っていた。勇次は瞬時に危険を察知し、視線を鋭く周囲に向けた。中村と高橋もその異変に気づき、不安げに顔を見合わせていた。

「先生、何か聞こえませんか?」中村が小さな声で尋ねた。

「ああ、感じる。恐らく、魔物だ」勇次の声には緊張が滲んでいた。彼は護衛たちに目をやると、ガイを先頭に、リーン、アッシュ、リタが既に武器を手に取り、馬車の周囲を警戒しているのが目に入った。

「ここでじっとしているわけにはいかないようだな」勇次は決意を固め、護衛たちの元へと歩み寄った。

「ゴブリンの群れが接近している。数はそこまで多くはないが、油断はできない」ガイが低い声で説明した。その声には、戦闘を前にした経験豊富な戦士の冷静さが宿っていた。「俺たちが前線を守る。君たちは馬車の中で待機して、安全を確保してくれ」

 勇次は少し考えた後、静かに口を開いた。「ガイ、お願いがある。一体だけでいい、俺に任せてくれないか?」

 その言葉に、リーンが驚いた顔で声を上げた。「何を言ってるんだ? 危険だ!」

 ガイも一瞬眉をひそめたが、勇次の目には決意が込められていることを読み取ると、彼はすぐに頷いた。「君が本気なら、止めるつもりはない。だが、無理はしないでくれ」

「ありがとう」勇次は感謝の意を示し、準備に取りかかった。

 しばらくして、暗闇の中から現れたゴブリンたちが牙を剥き出しにしながら迫ってきた。その姿は小柄でありながら、まるで野生の獣のように凶暴であった。護衛たちは即座に動き出し、武器を構えて迎え撃つ。戦闘が始まり、怒号と武器がぶつかる音が辺り一帯に響き渡った。

 勇次は冷静に呼吸を整えながら、自分に向かってくる一体のゴブリンを見据えた。そのゴブリンは鋭い目つきと引きつった顔で、低い唸り声をあげて突進してきた。勇次はその動きを見極めながら、「ウイング」を展開した。空気が微かに振動し、装備の羽根が淡い光を放ち始める。

 ゴブリンが振りかぶったこん棒が、恐ろしい勢いで勇次の頭上に振り下ろされる。しかし、その一瞬前、勇次はウイングを巧みに動かし、こん棒を滑らせて弾き返した。ゴブリンは一瞬バランスを崩し、攻撃が空を切る。その隙を見逃すことなく、勇次はもう一機のウイングを操り、ゴブリンの頭部に向けてレーザーを放った。閃光が闇を裂き、ゴブリンの頭を正確に撃ち抜く。ゴブリンは悲鳴を上げる間もなく、その場に崩れ落ちた。

 戦闘音が一瞬静まり、護衛たちが驚愕の表情で勇次の方を振り返った。彼の装備が放った異様な光景に、皆が目を奪われていた。

「なんだその武器は?」ガイが口を開き、驚きと興味が入り混じった表情で尋ねた。

「ただの小細工さ」勇次は微笑みを浮かべながら肩をすくめた。「特別なものじゃないよ」

 護衛たちは口々に質問を投げかけたが、勇次は巧みにかわしながら、その場をやり過ごした。ウイングの詳細は話せないが、彼の答えは護衛たちの興味を少しでもそらすためのものだった。

「君の腕前は素晴らしい。旅がさらに安全になるだろう」とガイは感心した様子で言った。

「ありがとう。これからも協力できることがあれば、遠慮なく言ってくれ」と勇次は穏やかに応えた。

 戦闘が終わると、護衛たちはゴブリンの死体を手際よく処理し始めた。勇次はその様子をじっと見守りながら、ある提案を思いついた。

「ガイ、少し頼みがあるんだが」勇次が近づき、静かに切り出した。「倒したゴブリンの素材、特に魔石を買い取りたい。道中で役に立つかもしれないからね」

 その申し出に、護衛たちは互いに顔を見合わせた。魔物の素材は貴重であり、それを売ることには抵抗があるのも無理はなかった。しかし、勇次は懐から金貨を一枚取り出し、それをガイに見せた。「道中倒した魔物をこの金貨一枚でどうだろうか?」

 ガイは少し考えた後、他の護衛たちと目で合図を交わし、やがて頷いた。「いいだろう。その条件で取引をしよう」

 勇次は礼を言い、護衛たちが持ってきた魔石を慎重に受け取った。その魔石は手のひらに収まるほどの小さなもので、淡い光を放っていた。それがどんな力を持っているかはまだ未知数だったが、勇次はその可能性に賭けてみることにした。

 その後、御者が馬車の中へと戻ってきて、静かに伝えた。「今晩はここで野宿することになる。夜明けまで安全を確保するから、しっかりと休んでおいてくれ」

 馬車の中は静けさが戻り、勇次たちはそれぞれ床に身を沈めた。高橋と中村も疲れた体を横たえ、すぐに眠りに落ちていった。勇次は魔石を手に取り、じっとその輝きを見つめていた。彼の心は未来への計画でいっぱいだった。

 馬車は再び静かに揺れながら、夜の闇を進み続けた。勇次は目を閉じながら、明日の戦いと、さらに強くなるための方法を夢の中で模索し続けていた。
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