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第0話「契機」
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第0話「契機」
男は荒野を彷徨う。冷たい風が吹き、枯れ草たちが彼を嘲笑うかのように揺れている。息を吐けば白く霧散し、呼吸さえも許されない気がした。
男は孤独だった。私はなぜここに、と男は思う。空を見上げれば、星々が楽しそうに煌めいている。一つ一つの輝きは小さいが、束になった星はまるで温かな家族のようだ。
瞳に光はなく、自身の名前や記憶さえも朧げでなぜ自分が大地を踏み締めているのか、分からないままだった。剣を佩いてはいるが、自死する気力もなく、ただただ道が続く限り歩いていた。
(…………?)
ふと、男は立ち止まり、目を動かした。地平線の向こう側に黒く巨大な塊を見つけたのだ。不思議だ、あれは何だろう? 何かに呼ばれるようにして、男は塊を目指し、歩み始めた。
塊に近づくにつれ、正体が分かった。何層にも積まれた石垣、微かに聞こえる喧騒……男が黒い塊だと思っていたのは、城だったのだ!
男はすんなり城下町へ入ることができた。どうやら門番はいないようだ。食べ物の匂いに気づき、ふらふらと次は荒野ではなく町を彷徨った。
町の中は、夜分だというのに人々は活気づいていた。しかし、男は妙な違和感を覚えた。
活気に溢れてはいるが、人々は大きな声を上げているだけで、生気を感じなかったのだ。久方ぶりの胸騒ぎに、男は頭を働かせた。
(……ここは、なんだ……?)
そのときだ。
男は目を見開いた。
人混みの中、揺れる長髪に、優雅な立ち振舞い……こちらへ向けられた不敵な笑みに、男は釘付けになった。
男は一目見ただけで彼女から圧倒的な力と光、そして「絶対」を見た。
刹那的であったが、淑女の姿はしっかりと脳裏に刻まれ、次の瞬間には血が滾り、心臓がドクドクと鳴っていた。早まる鼓動をそのままに男は、衝動のまま駆け出す。
彼女を知りたい、そんな純粋な心が男の手を血に染めた。
男は荒野を彷徨う。冷たい風が吹き、枯れ草たちが彼を嘲笑うかのように揺れている。息を吐けば白く霧散し、呼吸さえも許されない気がした。
男は孤独だった。私はなぜここに、と男は思う。空を見上げれば、星々が楽しそうに煌めいている。一つ一つの輝きは小さいが、束になった星はまるで温かな家族のようだ。
瞳に光はなく、自身の名前や記憶さえも朧げでなぜ自分が大地を踏み締めているのか、分からないままだった。剣を佩いてはいるが、自死する気力もなく、ただただ道が続く限り歩いていた。
(…………?)
ふと、男は立ち止まり、目を動かした。地平線の向こう側に黒く巨大な塊を見つけたのだ。不思議だ、あれは何だろう? 何かに呼ばれるようにして、男は塊を目指し、歩み始めた。
塊に近づくにつれ、正体が分かった。何層にも積まれた石垣、微かに聞こえる喧騒……男が黒い塊だと思っていたのは、城だったのだ!
男はすんなり城下町へ入ることができた。どうやら門番はいないようだ。食べ物の匂いに気づき、ふらふらと次は荒野ではなく町を彷徨った。
町の中は、夜分だというのに人々は活気づいていた。しかし、男は妙な違和感を覚えた。
活気に溢れてはいるが、人々は大きな声を上げているだけで、生気を感じなかったのだ。久方ぶりの胸騒ぎに、男は頭を働かせた。
(……ここは、なんだ……?)
そのときだ。
男は目を見開いた。
人混みの中、揺れる長髪に、優雅な立ち振舞い……こちらへ向けられた不敵な笑みに、男は釘付けになった。
男は一目見ただけで彼女から圧倒的な力と光、そして「絶対」を見た。
刹那的であったが、淑女の姿はしっかりと脳裏に刻まれ、次の瞬間には血が滾り、心臓がドクドクと鳴っていた。早まる鼓動をそのままに男は、衝動のまま駆け出す。
彼女を知りたい、そんな純粋な心が男の手を血に染めた。
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