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48話 バルサロッサ
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ベルリッタの背後から一人の銀髪の男がゆっくりとこちらに歩んでくる。
その男は研究者が着るような白衣を羽織っていて、体の線も細く、強そうには見えないのに空気が圧迫されたような威圧を感じる。
「バルサロッサ!」
ミランとエルナが同時に声を上げた。こいつがバルサロッサ……まるっきり悪党には見えない顔だ。堀の浅い優顔で、眼鏡をかけている。年齢は30才にも満たないと思われる。
こいつがこの魔界を支配しようとする者なのか。
「久しいな、レミエル……いや、今は君がミカエルだったか」
「バルサ……どうしてですの? あなたほどの人がなぜ堕天して、これほどの悪行を……」
「悪行? 面白いことを言う。魔界征服は私の研究の成功を示すための実験みたいなものだよ。君には到底わからないのだろうな。私の偉大なる研究の成果を評価せず、ただそれに畏怖し、私から四天翼の称号を剥奪した神の犬に成り下がっている君にはな」
汚い物を見るような蔑んだ目をするバルサロッサ。
「……あなたの危険な思想が研究に追随して常軌を逸していたからよ。だから神様は仕方なく……あなたを……」
「君も私の考えがおかしかったと? ふん、世迷いごとを……ただ恐れただけだろう。私は研究を活かせばすべてが支配できると進言してやっただけのこと。だから、それを我が身をもって体現してやるのだよ。魔界征服を遂げたあとは、天界も人間界も私の手中に収めてやろう。そうだ、私からすべてを奪った神を実験のモルモットに使うのも面白いかもしれないな」
「そんなこと……ここであなたを止めますの!」
エルナは一瞬目を落としたあと、強い眼差しで言い放った。
「その通りや! うちはこの時を待ってたんや! ラスボスが自分からやって来るやなんて、飛んで火に入る夏の虫やで!」
ルンは両手を前に出し、
「くらえ! 拡散凍結槍(デフュージョンフリーズランス)!)」
氷系上級魔法。あらゆる角度から氷柱の槍がバルサロッサを襲う。
だが、その槍は奴に当たる前にすべてあっけなく蒸発した。
瞬時に炎の壁が奴を囲み護ったのだ。
「ちっ!」
ルンは大きく舌打ちをして、悔しさを露わにする。あの魔法をいとも簡単に消し去るとはやはりバルサロッサはとんでもない。
その時、僕はミランが奴らの頭上を高く見上げていることに気がついた。
嫌な予感がしつつ、ゆっくりとミランの視線の先に目を向けると、黄色く光る空を背に一人の悪魔が存在していた。
銀仮面の男だ。
僕は奴の姿を認識した途端、学園で奴を見た時と同様に背中を戦慄が走り抜けた。バルサロッサよりもこいつの方が僕にとって、なぜか本能的に逃げ出したくなるくらいに恐怖を感じる。
その男は研究者が着るような白衣を羽織っていて、体の線も細く、強そうには見えないのに空気が圧迫されたような威圧を感じる。
「バルサロッサ!」
ミランとエルナが同時に声を上げた。こいつがバルサロッサ……まるっきり悪党には見えない顔だ。堀の浅い優顔で、眼鏡をかけている。年齢は30才にも満たないと思われる。
こいつがこの魔界を支配しようとする者なのか。
「久しいな、レミエル……いや、今は君がミカエルだったか」
「バルサ……どうしてですの? あなたほどの人がなぜ堕天して、これほどの悪行を……」
「悪行? 面白いことを言う。魔界征服は私の研究の成功を示すための実験みたいなものだよ。君には到底わからないのだろうな。私の偉大なる研究の成果を評価せず、ただそれに畏怖し、私から四天翼の称号を剥奪した神の犬に成り下がっている君にはな」
汚い物を見るような蔑んだ目をするバルサロッサ。
「……あなたの危険な思想が研究に追随して常軌を逸していたからよ。だから神様は仕方なく……あなたを……」
「君も私の考えがおかしかったと? ふん、世迷いごとを……ただ恐れただけだろう。私は研究を活かせばすべてが支配できると進言してやっただけのこと。だから、それを我が身をもって体現してやるのだよ。魔界征服を遂げたあとは、天界も人間界も私の手中に収めてやろう。そうだ、私からすべてを奪った神を実験のモルモットに使うのも面白いかもしれないな」
「そんなこと……ここであなたを止めますの!」
エルナは一瞬目を落としたあと、強い眼差しで言い放った。
「その通りや! うちはこの時を待ってたんや! ラスボスが自分からやって来るやなんて、飛んで火に入る夏の虫やで!」
ルンは両手を前に出し、
「くらえ! 拡散凍結槍(デフュージョンフリーズランス)!)」
氷系上級魔法。あらゆる角度から氷柱の槍がバルサロッサを襲う。
だが、その槍は奴に当たる前にすべてあっけなく蒸発した。
瞬時に炎の壁が奴を囲み護ったのだ。
「ちっ!」
ルンは大きく舌打ちをして、悔しさを露わにする。あの魔法をいとも簡単に消し去るとはやはりバルサロッサはとんでもない。
その時、僕はミランが奴らの頭上を高く見上げていることに気がついた。
嫌な予感がしつつ、ゆっくりとミランの視線の先に目を向けると、黄色く光る空を背に一人の悪魔が存在していた。
銀仮面の男だ。
僕は奴の姿を認識した途端、学園で奴を見た時と同様に背中を戦慄が走り抜けた。バルサロッサよりもこいつの方が僕にとって、なぜか本能的に逃げ出したくなるくらいに恐怖を感じる。
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