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42話 蟻の巣回廊の怪物
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「なんでこんな所にドラゴンが……」
ミランは驚愕と焦燥が混ざり合った声で呟いた。
クラシカル本国に無事潜入を果たしたのだが、バルサロッサの居城は天空までそびえるような山々に防壁の如く、取り囲まれていた。
当初の予定では魔力を使わないように(敵に感知されるため)山を登って越えるつもりだった。
しかしながら、侵攻が始まった時点で急ぐ必要性が生まれ、一番安全パイであるその選択肢は消えた。そう、説明するミランは悔しがるように下唇を噛んだ。
僕らは最短ルートである、山の麓にあるいくつかのトンネルのひとつを抜けることにした。
トンネルといっても、一本道ではなく、入り組んだ洞窟のようになっている。それでも山を越えるより時間は大幅に短縮できる。
まだ、浮遊石の魔石結晶が発見される前に、いわば飛翔できなかった時代に作られたものらしい。
通称、蟻の巣回廊。
「一応、想定内ではあったけど」と普通に行けば迷うのが当たり前の回廊なのだが、大昔に作られたものだけあって、ミランは攻略法である完璧な地図を片手に歩を進める。
ユニコーンは洞窟には階段や狭い道もあるので、入り口でお別れした。もうユニコーンの索敵は使えない。
唯一の懸念材料である敵の待ち伏せがあった場合は回避できない。ミランが顔を曇らせた理由はこれだ。
だが、僕らは隠密行動でここまでやって来た。故にこんな古い回廊にわざわざ敵が配置されていることは限りなくゼロに近いはずなのだ。
ダンジョンのような回廊に進入して、1日目は予定通りの行程で事なきを得た。
「姐様、あとどれくらい?」
「そうね、このまま何もなければ、あと半日もあれば、出口に辿り着けるわ」
ルンとミランの会話に僕も何もない事を祈りながら、足を速めた。
半日、薄明かりの中、ぐるぐると歩いて、
「次の広間を過ぎたら、地上に出られるわ」
ついに目的地まで目と鼻の先までやってきたんだなと思い、気を引き締め直した。昇り階段を上がるにつれ周囲の温度が上がる。
なんだ? この蒸し暑さは。
昇りきると大きな広間が眼前に拡がった。
しかし、それよりも特質すべきは奥に雄々しく現れた巨大な生物。一目でこの怪物が何かわかった。
広間にある魔法灯に照らし出されたその怪物はこういう世界ではお馴染みのテンプレモンスター、ドラゴン。
以前、対峙したケルベロスよりもはるかにでかい。
「なんでこんな所にドラゴンが……」
そうだ、ミランの驚きは正しい。この場にいる全員が思ったことだ。
どこか神秘的な赤い鱗をもつドラゴンは僕らを発見するや否やギロリと目つきを変えた。腹を空かした理性を失った獣が無我夢中で狩りをするかのように。
来る! 直感的にそう思った。
「回避!」
ミランが叫ぶ。
と同時にドラゴンはこちらに突進してきた。地を揺るがす音が響く。
巨体なのにそのスピードはかなり速い……が僕らは各々躱して、ドラゴンの背後に回った。
「ミランさん、どう致します?」
頭上に赤いリングを輝かせたエルナが問う。
このままドラゴンを無視して、奥の階段に逃げることもできるのだが……。
ミランは驚愕と焦燥が混ざり合った声で呟いた。
クラシカル本国に無事潜入を果たしたのだが、バルサロッサの居城は天空までそびえるような山々に防壁の如く、取り囲まれていた。
当初の予定では魔力を使わないように(敵に感知されるため)山を登って越えるつもりだった。
しかしながら、侵攻が始まった時点で急ぐ必要性が生まれ、一番安全パイであるその選択肢は消えた。そう、説明するミランは悔しがるように下唇を噛んだ。
僕らは最短ルートである、山の麓にあるいくつかのトンネルのひとつを抜けることにした。
トンネルといっても、一本道ではなく、入り組んだ洞窟のようになっている。それでも山を越えるより時間は大幅に短縮できる。
まだ、浮遊石の魔石結晶が発見される前に、いわば飛翔できなかった時代に作られたものらしい。
通称、蟻の巣回廊。
「一応、想定内ではあったけど」と普通に行けば迷うのが当たり前の回廊なのだが、大昔に作られたものだけあって、ミランは攻略法である完璧な地図を片手に歩を進める。
ユニコーンは洞窟には階段や狭い道もあるので、入り口でお別れした。もうユニコーンの索敵は使えない。
唯一の懸念材料である敵の待ち伏せがあった場合は回避できない。ミランが顔を曇らせた理由はこれだ。
だが、僕らは隠密行動でここまでやって来た。故にこんな古い回廊にわざわざ敵が配置されていることは限りなくゼロに近いはずなのだ。
ダンジョンのような回廊に進入して、1日目は予定通りの行程で事なきを得た。
「姐様、あとどれくらい?」
「そうね、このまま何もなければ、あと半日もあれば、出口に辿り着けるわ」
ルンとミランの会話に僕も何もない事を祈りながら、足を速めた。
半日、薄明かりの中、ぐるぐると歩いて、
「次の広間を過ぎたら、地上に出られるわ」
ついに目的地まで目と鼻の先までやってきたんだなと思い、気を引き締め直した。昇り階段を上がるにつれ周囲の温度が上がる。
なんだ? この蒸し暑さは。
昇りきると大きな広間が眼前に拡がった。
しかし、それよりも特質すべきは奥に雄々しく現れた巨大な生物。一目でこの怪物が何かわかった。
広間にある魔法灯に照らし出されたその怪物はこういう世界ではお馴染みのテンプレモンスター、ドラゴン。
以前、対峙したケルベロスよりもはるかにでかい。
「なんでこんな所にドラゴンが……」
そうだ、ミランの驚きは正しい。この場にいる全員が思ったことだ。
どこか神秘的な赤い鱗をもつドラゴンは僕らを発見するや否やギロリと目つきを変えた。腹を空かした理性を失った獣が無我夢中で狩りをするかのように。
来る! 直感的にそう思った。
「回避!」
ミランが叫ぶ。
と同時にドラゴンはこちらに突進してきた。地を揺るがす音が響く。
巨体なのにそのスピードはかなり速い……が僕らは各々躱して、ドラゴンの背後に回った。
「ミランさん、どう致します?」
頭上に赤いリングを輝かせたエルナが問う。
このままドラゴンを無視して、奥の階段に逃げることもできるのだが……。
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