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35話 逢魔ヶ森
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一向に止む気配さえ感じさせない雷雨の中、僕は森の深奥でひっそりと佇む建物を発見した。
白を基調としたどこか神殿を模したような建築物。そこにカメリアの第3皇女、ベルゼ=ルンを背中に負いながら足を踏み入れる。傍らにはノーファが無機質な表情で、ずぶ濡れの身体から雫をぽたぽたと落としている。
中は六畳ほどしかなく、その中央に彼女を横たえた。ミランに対する僕への嫉妬で、いつも毒付く活発な女の子は一向に目を覚まさない。先ほどまで猛烈な雷雨を受けてきた。なんとか雨が凌げる場所がこんな所にあって良かったな、と思う。
一息つき、外に目をやると、僕らを困らせた豪雨はようやくなりを潜め始めているようだ。
それにしてもこの中は、なんか不思議な魔力を感じる。ここなら奴も追ってこないだろう。
2時間前。
僕らは小高い丘から目の前に拡がる平原の先を見渡していた。
「この先にクラシカル本国があるわ。ただ、どのルートで行くか吟味しなくてはならないわね」
「どういうことですの?」
ミランの言葉にエルナが疑問符を浮かべた。
「平原の向こうに森が見えるわよね」
「そうですわね」
「あの森は魔界樹の根元から拡がっていて、ここを越えるのが最短ルートなんだけど……時間さえあれば迂回したいのよ」
「迂回したいってことは、なにか問題があるの?」
今度は僕が質問した。
「森は逢魔ヶ森(おうまがもり)といって、たくさんの魔物が棲みついているの」
聞いただけで通りたくないネーミングの森だな……。
「じゃあ、迂回するに越したことないよね」
「そうなんだけど……まだ問題があるの」
「問題?」
時間のことだろうか。僕らはクラシカル軍が僕らの国に攻撃を仕掛けてくる前に目的地付近には到着しなければならない。いわば急いでいる状況だ。
「ここから西の方向にうっすらと峠が見えるのわかる?」
ミランが視線を移した方向に、僕も視線をシフトさせる。
うっすらとだが、確かにかなり高い山のようなものが視線の先にある。
「うん」
ミランは難しそうな顔をして、
「あの峠は森とくっついていて、あそこの奥に谷があるんだけど、その谷底はドラゴンの住処になってるのよ。通称ドラゴニックバレーと呼ばれているわ」
聞いただけで難所だとわかるネーミング。
「じゃあ、さらにあれも迂回するっていうのは?」
「峠のさらに西には湖があるの」
そう言って、ミランが渋面をする。まさか、湖にもなんか棲みついているのか。
「ほんとは湖上を飛んで行きたいんだけど、絶対監視がいるだろうし……飛ぶと奴らに見つかりかねないし、湖まで迂回するとなるとそれこそ時間が大幅にかかるし……」
そういうことか。飛んでいけるなら森も飛び越えていけばいいもんな。
唇を尖らせて思案するミラン。
「ミラン、森で行くべき」
突如、ノーファが口を開いた。
「珍しいわね。あんたが主張するなんて」
「消去法……湖は監視がいる限り、絶対行けない。谷はドラゴンと戦闘になったら、私達でもかなりの魔力を消耗してしまう。それに誰かを欠く可能性もある。ドラゴンはそれほどに強力凶悪狂暴」
ノーファは目を座らせて、人差し指を立てた。
「まあ、その意見は妥当ね。逢魔ヶ森にはドラゴン以上の魔物は聞いたことがないし。何かに遭遇しても、ユニコーンの足なら逃げ切れると思うし……」
「なら決まりやな」
「そのようですわね」
ルンもエルナも同意した。
逢魔々森……僕はその身の毛もよだつ名前に一抹の不安を抱えていたが、こうして逢魔ヶ森に進路が決まった。
白を基調としたどこか神殿を模したような建築物。そこにカメリアの第3皇女、ベルゼ=ルンを背中に負いながら足を踏み入れる。傍らにはノーファが無機質な表情で、ずぶ濡れの身体から雫をぽたぽたと落としている。
中は六畳ほどしかなく、その中央に彼女を横たえた。ミランに対する僕への嫉妬で、いつも毒付く活発な女の子は一向に目を覚まさない。先ほどまで猛烈な雷雨を受けてきた。なんとか雨が凌げる場所がこんな所にあって良かったな、と思う。
一息つき、外に目をやると、僕らを困らせた豪雨はようやくなりを潜め始めているようだ。
それにしてもこの中は、なんか不思議な魔力を感じる。ここなら奴も追ってこないだろう。
2時間前。
僕らは小高い丘から目の前に拡がる平原の先を見渡していた。
「この先にクラシカル本国があるわ。ただ、どのルートで行くか吟味しなくてはならないわね」
「どういうことですの?」
ミランの言葉にエルナが疑問符を浮かべた。
「平原の向こうに森が見えるわよね」
「そうですわね」
「あの森は魔界樹の根元から拡がっていて、ここを越えるのが最短ルートなんだけど……時間さえあれば迂回したいのよ」
「迂回したいってことは、なにか問題があるの?」
今度は僕が質問した。
「森は逢魔ヶ森(おうまがもり)といって、たくさんの魔物が棲みついているの」
聞いただけで通りたくないネーミングの森だな……。
「じゃあ、迂回するに越したことないよね」
「そうなんだけど……まだ問題があるの」
「問題?」
時間のことだろうか。僕らはクラシカル軍が僕らの国に攻撃を仕掛けてくる前に目的地付近には到着しなければならない。いわば急いでいる状況だ。
「ここから西の方向にうっすらと峠が見えるのわかる?」
ミランが視線を移した方向に、僕も視線をシフトさせる。
うっすらとだが、確かにかなり高い山のようなものが視線の先にある。
「うん」
ミランは難しそうな顔をして、
「あの峠は森とくっついていて、あそこの奥に谷があるんだけど、その谷底はドラゴンの住処になってるのよ。通称ドラゴニックバレーと呼ばれているわ」
聞いただけで難所だとわかるネーミング。
「じゃあ、さらにあれも迂回するっていうのは?」
「峠のさらに西には湖があるの」
そう言って、ミランが渋面をする。まさか、湖にもなんか棲みついているのか。
「ほんとは湖上を飛んで行きたいんだけど、絶対監視がいるだろうし……飛ぶと奴らに見つかりかねないし、湖まで迂回するとなるとそれこそ時間が大幅にかかるし……」
そういうことか。飛んでいけるなら森も飛び越えていけばいいもんな。
唇を尖らせて思案するミラン。
「ミラン、森で行くべき」
突如、ノーファが口を開いた。
「珍しいわね。あんたが主張するなんて」
「消去法……湖は監視がいる限り、絶対行けない。谷はドラゴンと戦闘になったら、私達でもかなりの魔力を消耗してしまう。それに誰かを欠く可能性もある。ドラゴンはそれほどに強力凶悪狂暴」
ノーファは目を座らせて、人差し指を立てた。
「まあ、その意見は妥当ね。逢魔ヶ森にはドラゴン以上の魔物は聞いたことがないし。何かに遭遇しても、ユニコーンの足なら逃げ切れると思うし……」
「なら決まりやな」
「そのようですわね」
ルンもエルナも同意した。
逢魔々森……僕はその身の毛もよだつ名前に一抹の不安を抱えていたが、こうして逢魔ヶ森に進路が決まった。
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