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16話 レベルレッドのミラン
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何かが僕の中で息づこうとしたときだった。視界の中に赤い閃光が煌めいた。突如、僕を絶望の淵に追い込んでいた炎が消え去る。
ケルベロスを見ると、炎を吐いていた凶悪な首が切断されている。
そして、深緑のスカートをなびかせ、赤い尾をした一人の悪魔の後ろ姿を視界に捉えた。刀のようなものを手にしている。
あれは……この国唯一無二のレベルレッド……!!!
「ミラン!」
僕は自然と張り裂けんばかりの声で叫んでいた。
彼女はこちらを振り返り、口元に笑みを浮かべ頷いた。もう大丈夫だから、と言わんばかりに。
僕はまだケルベロスがいるにも関わらず安心した。先生達に視線を移す。ロップ先生も安堵からか口元を綻ばせている。
「アレルっちがあきらめなかったから勝利の女神が微笑んでくれたんだぞ」
「でもまだケルベロスが……それになんでミランは刀なんか……」
何故、僕が刀を持つことに不思議がるかというと、人間界でいうところの刃物はおろか銃火器でさえ、魔装状態の相手には傷ひとつ付けることは不可能に近いのだ。それほどに魔装というものは優れている。
しかし、基本的には武器に魔装は施せないので、武器はまったくもって無意味なのだ。魔装には魔装(魔法)でしか対抗する術がないはずなのだが……。
当然、ケルベロスも魔装しているし、通常の刃物ではあの針金のような毛すら切ることはできない。
ここで僕はハッとした。
唯一切れるかもしれない武器が魔界には存在することを僕は思い出したのだ。その為に僕らは剣術や槍術なども学校で一通りは習得する。
ロップ先生が僕の疑問に答えた。
「あの刀はレベルレッド以上にだけ操ることができる魔刀、獄炎のイフリート」
そう、魔界には7つの魔装可能な武器が存在する。それはレベルレッド以上の魔力にしか呼応しないのだ。いわば超レアな武器ということだ。それをミランが所持していた事は知らなかった。
「そんなものをミランが……」
ロップ先生から目を離して、ミランに視線を戻す。
ケルベロスの残っている右首が大きく口を開き、氷の塊が生成されていく。その出来上がった氷塊が分断され、数えきれないほどの刃となりミランを襲う。
次の瞬間、ミランの背中に真っ黒い蝶の羽根ようなものが生えた。その羽根はカラスアゲハを彷彿とさせる。美しい、純粋にそう思った。
さらに彼女の真紅のオーラに融合しているかの如く、黒い炎が彼女を纏う。
ケルベロスの氷の刃は蒸発したのか、彼女に当たる前に全て形をなくした。
「す、すごい……!」
僕は驚きのあまり、声を漏らした。
「ブラックパピヨン……」
ロップ先生がそう呟いた。
「……ブラックパピヨン?」
「そう、それが彼女の通り名だぞ。レベルレッド以上の魔力の持ち主が途方もない練魔により発生させることができる黒炎……それをさらに昇華させた黒く美しい姿からそう呼ばれているんだぞ」
そのロップ先生の言葉に耳を傾けている最中、いつのまにかケルベロスの右首も胴体から切り離されていた。決して目を離していたわけではないのにまったくと言っていいほど、ミランの動きが目で追えなかった。
左右の首を切り落とされた漆黒の魔獣は少し後ずさる。残された中央の首が若干怯えているようにさえ見える。
こんな獰猛な魔獣にも本能的に恐怖を感じる器官が備わっているのだろうか。
「駄犬……あんたはやりすぎた。あたしの大切な人を傷つけすぎた。万死に値する」
鬼気迫る感じでミランは言い放つと、左手を前に出した。
「塵と化せ……竜巻蝶(ツイストバタフライ)」
無数の黒い蝶がケルベロスを包み込み巻き上がった。そして、それが姿を消したとき、黒き魔獣の姿はミランの言葉通り塵と化していた。断末魔すらあげる事を許してもらえずに……。
これがレベルレッド……あまりにも圧倒的な強さだった。
ケルベロスを見ると、炎を吐いていた凶悪な首が切断されている。
そして、深緑のスカートをなびかせ、赤い尾をした一人の悪魔の後ろ姿を視界に捉えた。刀のようなものを手にしている。
あれは……この国唯一無二のレベルレッド……!!!
「ミラン!」
僕は自然と張り裂けんばかりの声で叫んでいた。
彼女はこちらを振り返り、口元に笑みを浮かべ頷いた。もう大丈夫だから、と言わんばかりに。
僕はまだケルベロスがいるにも関わらず安心した。先生達に視線を移す。ロップ先生も安堵からか口元を綻ばせている。
「アレルっちがあきらめなかったから勝利の女神が微笑んでくれたんだぞ」
「でもまだケルベロスが……それになんでミランは刀なんか……」
何故、僕が刀を持つことに不思議がるかというと、人間界でいうところの刃物はおろか銃火器でさえ、魔装状態の相手には傷ひとつ付けることは不可能に近いのだ。それほどに魔装というものは優れている。
しかし、基本的には武器に魔装は施せないので、武器はまったくもって無意味なのだ。魔装には魔装(魔法)でしか対抗する術がないはずなのだが……。
当然、ケルベロスも魔装しているし、通常の刃物ではあの針金のような毛すら切ることはできない。
ここで僕はハッとした。
唯一切れるかもしれない武器が魔界には存在することを僕は思い出したのだ。その為に僕らは剣術や槍術なども学校で一通りは習得する。
ロップ先生が僕の疑問に答えた。
「あの刀はレベルレッド以上にだけ操ることができる魔刀、獄炎のイフリート」
そう、魔界には7つの魔装可能な武器が存在する。それはレベルレッド以上の魔力にしか呼応しないのだ。いわば超レアな武器ということだ。それをミランが所持していた事は知らなかった。
「そんなものをミランが……」
ロップ先生から目を離して、ミランに視線を戻す。
ケルベロスの残っている右首が大きく口を開き、氷の塊が生成されていく。その出来上がった氷塊が分断され、数えきれないほどの刃となりミランを襲う。
次の瞬間、ミランの背中に真っ黒い蝶の羽根ようなものが生えた。その羽根はカラスアゲハを彷彿とさせる。美しい、純粋にそう思った。
さらに彼女の真紅のオーラに融合しているかの如く、黒い炎が彼女を纏う。
ケルベロスの氷の刃は蒸発したのか、彼女に当たる前に全て形をなくした。
「す、すごい……!」
僕は驚きのあまり、声を漏らした。
「ブラックパピヨン……」
ロップ先生がそう呟いた。
「……ブラックパピヨン?」
「そう、それが彼女の通り名だぞ。レベルレッド以上の魔力の持ち主が途方もない練魔により発生させることができる黒炎……それをさらに昇華させた黒く美しい姿からそう呼ばれているんだぞ」
そのロップ先生の言葉に耳を傾けている最中、いつのまにかケルベロスの右首も胴体から切り離されていた。決して目を離していたわけではないのにまったくと言っていいほど、ミランの動きが目で追えなかった。
左右の首を切り落とされた漆黒の魔獣は少し後ずさる。残された中央の首が若干怯えているようにさえ見える。
こんな獰猛な魔獣にも本能的に恐怖を感じる器官が備わっているのだろうか。
「駄犬……あんたはやりすぎた。あたしの大切な人を傷つけすぎた。万死に値する」
鬼気迫る感じでミランは言い放つと、左手を前に出した。
「塵と化せ……竜巻蝶(ツイストバタフライ)」
無数の黒い蝶がケルベロスを包み込み巻き上がった。そして、それが姿を消したとき、黒き魔獣の姿はミランの言葉通り塵と化していた。断末魔すらあげる事を許してもらえずに……。
これがレベルレッド……あまりにも圧倒的な強さだった。
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