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第7話:フェイク

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 急いで牧場の方に走っていく。
 それほど広くない村なので、リアの足に合わせても十分ほどで到着した。

 広い牧場では、口を塞がれ目隠しされた村人が固まっている。全員の身体が縄で縛られていて、身動きがとれなくしてあった。父さんと母さんを見つけたいが、ここからでは奥まで見えない。

 囚われた村人の周りを多数のオークが取り囲んでいる。オークたちの動きはどこか変だった。……まるで、操り人形みたいな動き。まるで中身は人間なのか? と思うほど、連携が取れている。

 オークたちが一斉に右手を上げて、魔法の展開を始める。

「まずい……本当に禁忌魔法を使うつもりなのか……!?」

 これだけ大規模な魔法なら、発動まで三分はかかる。その間に止めなければ、ここにいる村人の命はない。父さんも、母さんも殺されてしまう――。

「リア、お前はここで待っていてくれ」

「わかったわ」

「止めないんだな」

「ええ」

 俺はリアに背を向け、牧場の中に飛び込んだ。
 オークたちが俺の姿に気が付き、右手を下げた。両手で石の槍を構える。

 一度始まった禁忌魔法の発動を中止させる方法は、二つしかない。
 一つ目は、説得して自発的に魔法を中止させる。
 二つ目は、ここにいるオークを皆殺しにする。

 村を襲ってきたオークに説得をしても時間の無駄というものだ。なら、俺はオークを殺してしまうしかない。

「うおおおおぉぉぉぉっっ!」

 鉄の棍棒を右手に握り、高めた移動速度でオークに接近する。フェイントを掛けて、オークの背中に回り込み、一撃で仕留める。

 禁忌の魔法の発動中はさすがに動きが鈍くなってる。ハンデを背負ったオークを倒すのは簡単だった。
 俺は素早く次の敵に接近し、瞬殺する。

 残り二分の時点で、オークの数は半分以下にまで減っている。数が減ったおかげで、猶予時間も延びている。……これなら、いける!

 俺はラストスパートをかけた。
 これまで以上のスピードで地を駆けて、残りのオークを始末する。
 鈍足のオークでは俺のスピードについてくることはできない。一対一の形にできれば、数がいくらいようと関係なかった。

 そして、ついに全てのオークを倒した。
 だが――。

「なんで……なんで魔法が止まらない!?」

 ありえないことだった。
 組み込み魔法を除き、通常の魔法は術者がいないと成立しない。魔法は少なからず魔力を使う。魔力の供給が無ければ、仕組み的に破綻してしまうのだ。

 どこかにまだオークが隠れているのか?
 いや、それはない。一匹も逃していないはずだ。……まさかもっと遠くにいるのか?

 そう思ったが、思い直す。
 魔法は発動までの距離が長ければ長いほど、魔力を無駄に消費する。もし遠くから魔法を使えるほどの魔力があるのなら、最初から村人を一か所に集めるなんて面倒なことはせず、村全体に魔法を掛ければよかった。

 ……となると、この近くにまだオークがいるということになる。

「……もう、大丈夫なの?」

 村人の固まりの中にオークがいないかどうか探していると、隠れていたリアが近づいてきた。
 タイムリミットはあと一分ってところだ。魔法を中止させない限りは、村人を動かすことすらできない。

「いや、まだ近くにオークが隠れているはずだ。ここはまだ危ない。……クソッ見つからない!」

 どこにいるんだ!?
 見つけさえすれば、一瞬で倒せるはずだ。なのに、見つからない。

 あと三十秒。

 このままここに残り続けると、俺も一緒に禁忌魔法の養分になる。
 もう、終わりなのか。

「リア、お前だけでも逃げろ。一人でも生き残って、これから来るルール村の兵士の人に事情を説明するんだ。そうしないと、この村と同じことが起こってしまう」

「……私は行かない」

「なんでだよ! リア、お前は父さんが逃がしてくれて伝令を任されたんだろうが!」

「私はここから離れない」

「リア?」

 リアは村の人たちの近くに歩いていく。
 その瞬間、一瞬だけ魔法の完成が近づいた。

「そうか、そういうことだったのかよ」

 怒りが込み上げてきた。
 静かにリアの後ろに近づく、その頭に向かって、鉄の棍棒を全力で振るった。

 ドオオンッと音がして、が地面を転がる。
 その瞬間、発動しかけて禁忌魔法への魔力供給がストップし、不発に終わった。

 俺が吹き飛ばしたは、リアとは似ても似つかぬ姿になっていた。
 しかし、その見た目はオークではなく、人の形をしていた。魔族というやつだ。

「うぐぐ……なぜバレた」

「決定的なのは最後にお前が近づいたときに少しだけ魔法の発動が早まった。焦りすぎだよ」

「くっ……」

「それだけじゃない。お前、一度も俺の名前を呼んでなかったよな。呼ばなかったんじゃなくて、知らなかったんじゃないか?」

「……」

「なあ魔族、お前の正体はなんだ?」

「ぐっ……死んでも答えんぞ」

「そうかそうか、ところで俺は昨日の十五歳の誕生日だったんだ。それはそれは素晴らしい回復魔法をもらった。もしお前が正体を名乗り、目的を吐くなら助けてやろうと思ったんだけどな」

「なっ……それは本当なのか? ……ゲホッ」

 俺はにっこりと笑った。

「お、俺の名前はゲイル。魔王軍幹部の一人だ。……ゲホッ、副官様から魔王様復活のために人間を襲い魔力を集めてこいとの命を受けたのだ……お、俺は命令されただけで、本当はやりたくなかった! 本当だ!」

「それは嘘偽りのない真実なんだな?」

「もちろんだ……嘘つくはずがねえ!」

 ゲイルの目は本気だった。相手が魔族だとはいえ、必死なことはわかる。信用することにした。

「そうかそうか、どうやら本当のようだな」

「た、助けてくれるんだよな……ゲホッ」

「ああ、助けてやるとも」

 俺は鉄の棍棒を強く握りしめ、ゲイルに突き付ける。

「や、約束を反故にするつもりか!? ゲホッ……このクソが!」

「俺は助けてやると言っただけだ。約束通り、苦しみから救ってやるよ」

 そう言って、俺はトドメを刺した。
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