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第1話:旅立ち
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俺は無言で教会を出た。
「アレル……?」
「……」
リアと目を合わせられない。俺は俯いたまま、彼女を無視して帰路についた。急ぎ足で歩く。
「ちょっと待ってよアレル!」
「放せよ」
リアが追いかけてきて、俺の手を掴んだ。俺はその手を無理やり振りほどく。
それでも、リアは俺の後をついてきた。
「結果が良くなかったのは残念だけど……別に死ぬわけじゃない。スキルがなくたってアレルを嫌いになんてならないから!」
「……」
俺は無言で足を止めた。
「アレル?」
「……お前に俺の何がわかるんだ?」
「何って……す、少なくとも他の誰よりもアレルのことをわかってる! ……だって、家族なんだから」
「家族だと? ああ、そういう設定だったな。お前だけ捨て子で、父さんが可哀想だからとお前を引き取ったんだったな! 血も繋がってねえのに兄弟ごっこをしてたよな! ハハッ、一緒に住んでたら『家族』か。物は言いようだな!」
自分でも何を言っているのかわからなかった。俺自身がリアを本当の家族だと思っているはずなのに、彼女を傷つける言葉が次から次へと零れ落ちた。
早く謝らないといけないと頭ではわかっているのに、言葉が出てこない。出てくるのは醜く汚れた中傷だけ。……俺、ほんと最低だな。
「……そんな風に思ってたんだ」
リアは悲しそうな顔をした。
「家族でもない私なんかがアレルのことを分かった気になって、ごめんね」
リアは泣きだしそうな顔を強引に笑顔に変える。
「先、帰ってるね。アレルもちゃんと帰ってきてね」
「……ちが……まっ……」
待ってくれと言うことはできなかった。
俺はリアを裏切ってしまった。当たりスキルを引けなかったばかりか、俺を家族と想ってくれていた大切な人を突き放し、傷つけてしまった。
もう許してくれないだろうな……。
◇
「……そうか、外れスキルだったか」
「期待を裏切ってしまって本当に悪いと思ってるよ。……ごめん」
あの後俺は一人で家に帰って、父さんに授けられたスキルのことを話した。
「スキルは自分で選べないのだ、アレルは悪くない」
「……父さん」
「とはいえ、王立学院への入学は辞退するしかないだろうな」
「……迷惑ばかりかけてごめん」
王立学院。貴族のための高等教育機関だ。優れたスキルを授けられたものがさらに強くなるために切磋琢磨できるようにと設けられた学校。俺の誕生日まで入学の締め切りを伸ばしてもらっていた。
「それで、今日は折り入って話があるんだ」
「聞こうじゃないか」
居住まいを正して、父さんを真っ直ぐにみる。
「俺、この家を出て冒険者になろうと思う」
「正気か……?」
「俺なりに色々と考えて出した結論なんだ。このスキルを引いてしまった時点で、俺の貴族としての人生は終わってる。……それは父さんもわかってくれるよね?」
「それは……そうかもしれないが」
「一生のお願いだ。……これしか生きる道はないんだ」
父さんは難しい顔をして、無言になった。
真剣に俺の将来を考えてくれているのだろう。本来ならこんなスキルを引いた時点で、俺は勘当されてもおかしくなかった。他の貴族の家なら、間違いなく追い出されている。
「……それがアレルにとって幸せになる道なら、ダメとは言えんよ」
「……感謝します」
「ちょっと待ってろ」
父さんは立ち上がると、部屋の隅に置かれた金庫に向かった。
カチャリ。
金庫を開け、中から何枚かの金貨を取り出す。
それを麻袋に入れて、戻ってきた。
「受け取れ」
「え?」
父さんは金貨が入った麻袋を俺に突き出した。
「この中に金貨十枚が入ってる。これだけあれば当面の生活資金には困らないだろう」
「……良いの? めちゃくちゃ大金なんじゃ……」
「息子が家を出ると言っているんだ。少しくらいは無理させてもらうよ。……これだけあってもすぐに底を尽いてしまうとは思うが、それまでに自分で稼げるようになれ」
「何から何まで……本当にありがとう。このお金は大切に使うよ」
俺は麻袋を受け取った。
このお金は何年も前から父さんが大切に貯金していたものだ。麻袋は、実際の重量以上に重く感じた。
「夜明けにはここを出ようと思う」
「母さんとリアには言わないのか?」
「……ああ」
「本当にそれでいいんだな?」
「……それで構わない」
父さんは何かを察したのか、これ以上は何も言わなかった。
「わかった。アレルが家を出ることは、明日俺から伝えておく。……達者でな」
「……父さんも元気で。みんなにもそう伝えておいてほしい」
「本当に辛くなったら帰ってきていいんだからな。無理だけはするんじゃないぞ」
「……ありがとう」
◇
父さんとの話が終わると、俺は部屋に戻って夜を待った。
最低限の荷物だけをバッグに詰め込み、朝に備える。
朝日が昇ったことを確認して、俺は玄関からこっそりと外に出た。
外には父さんが立っていた。
「今日までお世話になりました。……父さんもお元気で」
「アレルも身体には気を付けるんだぞ。昨日にも言ったが、辛くなったら帰ってこい。言いたいことはこれだけだ」
父さん一人に見送られ、俺は家を離れた。
※このあとアレルは村に戻り、リアと仲直りします。
「アレル……?」
「……」
リアと目を合わせられない。俺は俯いたまま、彼女を無視して帰路についた。急ぎ足で歩く。
「ちょっと待ってよアレル!」
「放せよ」
リアが追いかけてきて、俺の手を掴んだ。俺はその手を無理やり振りほどく。
それでも、リアは俺の後をついてきた。
「結果が良くなかったのは残念だけど……別に死ぬわけじゃない。スキルがなくたってアレルを嫌いになんてならないから!」
「……」
俺は無言で足を止めた。
「アレル?」
「……お前に俺の何がわかるんだ?」
「何って……す、少なくとも他の誰よりもアレルのことをわかってる! ……だって、家族なんだから」
「家族だと? ああ、そういう設定だったな。お前だけ捨て子で、父さんが可哀想だからとお前を引き取ったんだったな! 血も繋がってねえのに兄弟ごっこをしてたよな! ハハッ、一緒に住んでたら『家族』か。物は言いようだな!」
自分でも何を言っているのかわからなかった。俺自身がリアを本当の家族だと思っているはずなのに、彼女を傷つける言葉が次から次へと零れ落ちた。
早く謝らないといけないと頭ではわかっているのに、言葉が出てこない。出てくるのは醜く汚れた中傷だけ。……俺、ほんと最低だな。
「……そんな風に思ってたんだ」
リアは悲しそうな顔をした。
「家族でもない私なんかがアレルのことを分かった気になって、ごめんね」
リアは泣きだしそうな顔を強引に笑顔に変える。
「先、帰ってるね。アレルもちゃんと帰ってきてね」
「……ちが……まっ……」
待ってくれと言うことはできなかった。
俺はリアを裏切ってしまった。当たりスキルを引けなかったばかりか、俺を家族と想ってくれていた大切な人を突き放し、傷つけてしまった。
もう許してくれないだろうな……。
◇
「……そうか、外れスキルだったか」
「期待を裏切ってしまって本当に悪いと思ってるよ。……ごめん」
あの後俺は一人で家に帰って、父さんに授けられたスキルのことを話した。
「スキルは自分で選べないのだ、アレルは悪くない」
「……父さん」
「とはいえ、王立学院への入学は辞退するしかないだろうな」
「……迷惑ばかりかけてごめん」
王立学院。貴族のための高等教育機関だ。優れたスキルを授けられたものがさらに強くなるために切磋琢磨できるようにと設けられた学校。俺の誕生日まで入学の締め切りを伸ばしてもらっていた。
「それで、今日は折り入って話があるんだ」
「聞こうじゃないか」
居住まいを正して、父さんを真っ直ぐにみる。
「俺、この家を出て冒険者になろうと思う」
「正気か……?」
「俺なりに色々と考えて出した結論なんだ。このスキルを引いてしまった時点で、俺の貴族としての人生は終わってる。……それは父さんもわかってくれるよね?」
「それは……そうかもしれないが」
「一生のお願いだ。……これしか生きる道はないんだ」
父さんは難しい顔をして、無言になった。
真剣に俺の将来を考えてくれているのだろう。本来ならこんなスキルを引いた時点で、俺は勘当されてもおかしくなかった。他の貴族の家なら、間違いなく追い出されている。
「……それがアレルにとって幸せになる道なら、ダメとは言えんよ」
「……感謝します」
「ちょっと待ってろ」
父さんは立ち上がると、部屋の隅に置かれた金庫に向かった。
カチャリ。
金庫を開け、中から何枚かの金貨を取り出す。
それを麻袋に入れて、戻ってきた。
「受け取れ」
「え?」
父さんは金貨が入った麻袋を俺に突き出した。
「この中に金貨十枚が入ってる。これだけあれば当面の生活資金には困らないだろう」
「……良いの? めちゃくちゃ大金なんじゃ……」
「息子が家を出ると言っているんだ。少しくらいは無理させてもらうよ。……これだけあってもすぐに底を尽いてしまうとは思うが、それまでに自分で稼げるようになれ」
「何から何まで……本当にありがとう。このお金は大切に使うよ」
俺は麻袋を受け取った。
このお金は何年も前から父さんが大切に貯金していたものだ。麻袋は、実際の重量以上に重く感じた。
「夜明けにはここを出ようと思う」
「母さんとリアには言わないのか?」
「……ああ」
「本当にそれでいいんだな?」
「……それで構わない」
父さんは何かを察したのか、これ以上は何も言わなかった。
「わかった。アレルが家を出ることは、明日俺から伝えておく。……達者でな」
「……父さんも元気で。みんなにもそう伝えておいてほしい」
「本当に辛くなったら帰ってきていいんだからな。無理だけはするんじゃないぞ」
「……ありがとう」
◇
父さんとの話が終わると、俺は部屋に戻って夜を待った。
最低限の荷物だけをバッグに詰め込み、朝に備える。
朝日が昇ったことを確認して、俺は玄関からこっそりと外に出た。
外には父さんが立っていた。
「今日までお世話になりました。……父さんもお元気で」
「アレルも身体には気を付けるんだぞ。昨日にも言ったが、辛くなったら帰ってこい。言いたいことはこれだけだ」
父さん一人に見送られ、俺は家を離れた。
※このあとアレルは村に戻り、リアと仲直りします。
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