上 下
11 / 93
第1章:魔法学院入学編

第10話:最強賢者はリーナを助ける

しおりを挟む
 入学試験の朝がやって来た。
 季節は春だが、まだ少し肌寒い。春って暑いか寒いかしかないんだよな……。
 俺は朝食を済ませてから試験会場である魔法学院へ向かう。
 到着するころには試験十分前だが、特に気にしていない。待つのはあまり好きじゃないからな。

 校門までゆっくりと歩いてくると、女が地面を這いまわっている姿を捉えた。
 その正体は俺の数少ない友達で、聖騎士のあの女だった。
 朝っぱらから派手な金髪を揺らして必死の形相である。

「リーナ、そこで何してるんだ? もしかして俺を待ってた?」

 リーナは俺の声に気づくと、顔を上げた。
 その眼には涙が浮かんでいる。

「アナタを待っていたわけじゃないわ! 会場についてから受験票を探したらなくて、どこかに落としたのかと思って……」

「なんだ、そんなことか」

「そんなことって何!? 一人ライバルが減ってラッキーとか思ってるわけ? 友達って言ってたくせに!」

 かなり興奮している。朝から女特有のキンキンした声で怒鳴るのはやめてくれ。
 まあ焦るのはわかるが、そうカッカしても受験票が見つかるわけじゃないだろうに。

「違う違う。……それより、どこで落としたのかわかるか?」

「多分……落としてない。宿に置きっぱなしにしてたんだと思う」

「じゃあこんなところ探しても無駄だろ。なぜ取りに帰らない?」

「今から宿に帰ったら絶対に遅刻する。……それにもしかしたらこの辺に落としてるかもしれないし……」

 やれやれ。
 忘れ物した時ってどうしてか『落としたのかも』って思っちゃうやついるんだよな。
 受験票なんて大切な物、落とすような管理をするはずがないだろうに。だがまあ、宿に置き忘れているというのなら話は早い。

「それで、どこの宿に泊まってたんだ?」

「……学院から一番近いとこ。エルビィの宿って名前……って、そんなこと聞いてどうするのよ!」

「文句言うな。俺が受験票くらいどうにかしてやる」

 文句をつけてきたリーナだったが、俺がそう言うと静かになった。

 俺は今から【空間転移ゲート】を使おうと思う。
 王都への道中で山賊に使ったのと同じ魔法だ。
 【空間転移】は一度行ったことのある場所と、現在地とを点と点で繋ぎ合わせる魔法だ。……本当の仕組みはよくわからないが、LLOではそう説明されていた。

 しかし、実際に使ってみて分かったことがある。
 一度行ったことのある場所を繋げることはもちろん可能なのだが、行ったことがなくても正確な位置さえ分かれば【空間転移】の使用はできる。

 リーナが泊まっていた部屋がどこかは知らないが、それは彼女を連れて行けばわかることだろう。

 【空間転移ゲート】発動。
 渦の中に顔を突っ込んで覗いてみる。宿の前に掛かっている看板を確かめる。どうやら無事にエルビィの宿の前に繋げたようだ。

「ちょっと! これどういう……!」

 リーナも渦の中に入ってくる。

「こ、ここって!?」

「そういうのは後だ。残り八分しかないぞ。急いでとってこい」

「あっそうだった!」

 リーナは宿の中に急いで入っていき、一分と経たずに受験票を持って戻ってきた。
 ちゃんとあったようでなによりだ。
 戻ってきたリーナは少し頬を赤らめていた。

「そ、そのありがとう」

「どういたしまして」

 ☆

 俺たちは校門から試験会場である校庭まで走って移動していた。
 あと五分というところまで時間が迫っているので、さすがの俺でも急ぐくらいのことはするのだ。

「さっきの魔法……あんなの見たことなかった。でもそれより……どうして詠唱しなかったの?」

 走りながらリーナが質問を投げてきた。

「詠唱? なんか恥ずかしいしな……まあやらなくてもいいなら省いたほうがいいだろ。それがどうかしたのか?」

 リーナは目を丸くしていた。
 そんなに驚く要素あったか? 常識だろう?

「詠唱が恥ずかしい……省く……本気で言ってる?」

「ああ。町の人はなぜかみんな詠唱してたけど、俺はそういう主義じゃないから」

 すると、リーナは『ああ、こいつはダメだ』みたいな顔をするのだ。
 意味がわからない。

「なんかもう……意味が分からないわ」

「なんだよ。聞いてくれたら大抵のことは答えられると思うけど」

「いえ、試験が始まったら多分わかることよ」

 そういう言い方されると気になっちゃうじゃないか……。
 そうこうしているうちに校庭に辿り着いた。
 既に受験生の整列が始まっており、詳しく話を聞く時間はありそうにない。

 まあ、試験が始まったらわかるというならそれでもいいか。

「じゃあなリーナ。俺はLブロックらしいからここでお別れだな」

「え?」

 俺はそのままLブロックの集合場所で立ち止まる。
 するとリーナも立ち止まった。

「行かなくていいのか?」

「私もLブロックなのよ」

 ああ、そういうことね。

「じゃあ、一緒に合格しないとな」
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

神様との賭けに勝ったので異世界で無双したいと思います。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。 突然足元に魔法陣が現れる。 そして、気付けば神様が異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 もっとスキルが欲しいと欲をかいた悠斗は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――― ※チートな主人公が異世界無双する話です。小説家になろう、ノベルバの方にも投稿しています。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

処理中です...