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第一章(約11万字)

第65話:計画の失敗

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 ◇

 月明かり以外は一切の光がない真っ暗闇の森の中を、ランプの灯り一つを頼りに進む二人。

 積もった雪のせいで思っていた以上に一歩が重いが、ここが最大の踏ん張りどころ。ラッシュはアリアを励ましつつ無理やり足を動かしていた。

「それで、どこに向かってるの?」

「ああ、それなんだけど……」

 十歳のアリアにどう説明すれば理解できるか考えながら、話そうとするラッシュ。

 と、その時だった。

「こんな真夜中にお散歩かな?」

 ラッシュたちの前に、壮年の男が立ちはだかっていた。

「あれ、司祭様?」

 事情を知らないアリアは、見知った人物の姿に安堵の表情を浮かべる。

 しかし、ラッシュは対照的に頭が真っ白になっていた。

「え……? な、なんで⁉︎ グレイ様が……」

「私がここにいる理由か。……ふむ、それは君が一番よく知っているのではないかね?」

「……え?」

「お前がろくでもない思想を持っていたことはとっくの昔に把握しておる。あまり魔族を舐めるもものではないぞ?」

 (全部……バレてた?)

 ラッシュは数ヶ月前からひっそりと計画を立て、海が凍るほどに冷えるこの日を待っていた。

 アリアにすら、今この瞬間に至るまで何も話していなかった。

 どうして魔大陸から脱出しようとしていたことがバレていたのか全く見当がつかない。

 一つ考えられるとすれば、ラッシュが良からぬことを考えていたことがバレていたという事実から、海が凍るこの日の警戒を高めていた——くらいだろうか。

 兎にも角にも、この状況は不味い。

「アリア、こっちに……」

 この場から急いで逃れようとするラッシュだったが——

「私が一人でここに来るとでも思ったか?」

「なっ……」

 気付けば、背後からにも魔族たちが迫っていた。

 グレイ司祭が手を回していたようだ。

 あっという間に二人は取り囲まれてしまい、万事休すの状況。

「ラッシュ……? どうしよう……?」

 アリアは困惑してしまい、固まっている。

 もはや、どうしようもない。

「すまない、アリア……」

 こうして、収容施設から抜け出した二人は、その日のうちに連れ戻されたのだった。

 ◇

 収容施設内の懲罰室。

 一切の日の光が入らないこの場所で、ラッシュは今回の脱走の処分が下る時を待っていた。

 ラッシュとアリアは別々の場所に隔離されており、もう何日も会えていない。

 ガチャ。

 扉が開き、グレイ司祭が入ってくる。

「さて、お前の処分についてだが……」

「俺の処分はなんでも受け入れます。ですが……アリアだけは、どうか何もしないでください。全部俺が計画したことです」

 お願いをしたところで意味があるのかは分からない。

 それでも、ラッシュにとっては頼み込む以外に選択肢がなかった。

「今はお前の処分について話している。途中で遮るでない」

「……はい」

「それで、結論から言おう。死罪が決定した」
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