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真・らぶ・TRY・あんぐる 二十二
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「佑さんと仰しゃいましたね? よく見れば佑美先輩に生き写し……」
いや、そこまでのことはないのだが、長々と会っていないので少し似ているだけでも留加の目にはそう映ったらしい。
余談だが、世間(というか主に学校)では佑のことを評して『水瀬さんとはつりあわない』とか言う評判なのだが、それは飽くまでも世間様とやらの印象であって別に顔はまずくはない。
絶世の美形とはいかぬにせよ、まあそれなりにイケメンだといえなくもないレベルである。
いかに留美でもそこまでイカモノ食いではない。
もっとも、留美が好きになったのは佑の顔かたちではないのだけれど。
ただ、そのおどおどとした態度というか、気の弱さというか、自信のなさというか……がすべてを台なしにしているのである。
だから、留美と二人で歩いていたところで、ちらっと見かけた限りでは別段そんなに釣り合いのとれないツーショットではない。
だが、しげしげと見られた日にはもう駄目である。
フツーはそうしげしげと見られることはないのだが、学校ではそうはいかない。
純情なところが年上のおねーさんがたにある意味人気がある……といいたいところだ。
しかし、ものには限度があるし、そういうおねーさんがたの興味は、彼の親友たちや、また別口の純情少年の方に向いているのだ。
それに、佑は父の血を引いているせいか目立たないのである。
そのところは母の血をもろに引いている妹・冴英とは対極といってよかった。
深々と頭を下げて、
「この通りです。 留美をよろしくお頼み申します」
急にそんなことを頼まれても困る、と言いたいのだがさっきからのショックでそれどころではない。
もちろん、そんなことがなかったとしても言えないだろうことは想像に難くない。
「あたしがあんニャロと仲違いしたせいで留美には苦労かけるんですが……佑美先輩の息子さんなら安心してこの子を任せられます」
そう言いながら留加が姐さんかぶりを取ると佑は驚いた。
いや、留美の可愛らしさで充分予測できたはずなのだが、留加はかなりの美人だったのである。
何に驚いたのかと言うと、佑は大人の女性でそれだけの美人を間近に見たことがなかったのだ。 母の佑美より気品の点などで多少落ちるのだが、普通肉親はそういうことの対象外なものである。
そんな美人が屋台をやっているのだから、ヘンな男たちに絡まれるのは当然かもしれない。
かてて加えて、佑にとって留加の乱暴な口の利き方はつい後ずさりしてしまいそうな位だったのだ。
もっとも留美は慣れているのかもしれない。
外見と態度のギャップが留美に負けず劣らず大きいのは血のなせる業かもしれなかった。
いろいろな意味で逃げ出したい佑だったが、それでもなんとか
「あ、あの……あんニャロって言うのは?」
とだけ尋ねると留美が代わって
「パパのことよ。 まったくもう……」
と答え、溜息をついた。
そして、可愛らしく上目づかいになって
「……ね、ママ?」
「ん? なんだい」
にこにこ微笑みながら応える留加。
「パパのこと『あんニャロ』っていうの、もうやめない?」
と疑問形のお願いをするが、その答えは
「やめない」
という身も蓋もないものだった。
「そう堂々と言われると……困っちゃうんだけど……」
「だってさ、佑美先輩に告白できなかったのもあんニャロのせいだ! 英の字に佑美先輩かっさらわれちまったのも! 空の雲が白いのも! 郵便ポストが赤いのも!」
留美もさすがに呆れて
「あたしが生まれたのもあんニャロのせいよね?」
冷たい口調でそういうと
「…………留美……そんな悲しいこと言わないでよ……」
態度をコロッと変えて涙ぐむ留加。
とどめとばかりに留美は続けた。
「だって、事実じゃない? 違う、ママ?」
「………………そうだけど……」
(そんなこと忘れてたいのに…………でも、本当に留美はあんニャロの種とは思えないよねぇ)
と口の中で呟きつつ、佑の両手を押しいただくように握って
「よろしくお願いします。 近いうちに佑美さんにも」
そこまで言って佑の父への反感を隠すように言いなおした。
「いえ、おうちの方にもご挨拶に伺いますから」
「は、はあ……」
どんどん逃げ場がなくなっていくのを感じ、途方に暮れる佑だった。
もっとも、佑でなくてもこういう状況になればかなり困惑するだろうが。
しかし、ただ途方に暮れていたわけでもない。 今更ながら佑はふと
(母さんのあの歓迎っぷりって、母さんと留美ちゃんのお母さんが友達だったからなのか……)
と思い当たった。
いくら佑がニブくても、事ここに至っては母と留加が昔かなり仲が良かった事が解ったのだった。
では、何故近ごろは交流がないのか?と普通なら思う筈だがそんなことまで思い至るような心境ではなかったのだ。
『責任』をとることがどんどん確定的になっていっているのだから無理もない。
自分の母と留美の母との仲が良い、と見当をつけただけでも上出来といえるだろう。
いや、そこまでのことはないのだが、長々と会っていないので少し似ているだけでも留加の目にはそう映ったらしい。
余談だが、世間(というか主に学校)では佑のことを評して『水瀬さんとはつりあわない』とか言う評判なのだが、それは飽くまでも世間様とやらの印象であって別に顔はまずくはない。
絶世の美形とはいかぬにせよ、まあそれなりにイケメンだといえなくもないレベルである。
いかに留美でもそこまでイカモノ食いではない。
もっとも、留美が好きになったのは佑の顔かたちではないのだけれど。
ただ、そのおどおどとした態度というか、気の弱さというか、自信のなさというか……がすべてを台なしにしているのである。
だから、留美と二人で歩いていたところで、ちらっと見かけた限りでは別段そんなに釣り合いのとれないツーショットではない。
だが、しげしげと見られた日にはもう駄目である。
フツーはそうしげしげと見られることはないのだが、学校ではそうはいかない。
純情なところが年上のおねーさんがたにある意味人気がある……といいたいところだ。
しかし、ものには限度があるし、そういうおねーさんがたの興味は、彼の親友たちや、また別口の純情少年の方に向いているのだ。
それに、佑は父の血を引いているせいか目立たないのである。
そのところは母の血をもろに引いている妹・冴英とは対極といってよかった。
深々と頭を下げて、
「この通りです。 留美をよろしくお頼み申します」
急にそんなことを頼まれても困る、と言いたいのだがさっきからのショックでそれどころではない。
もちろん、そんなことがなかったとしても言えないだろうことは想像に難くない。
「あたしがあんニャロと仲違いしたせいで留美には苦労かけるんですが……佑美先輩の息子さんなら安心してこの子を任せられます」
そう言いながら留加が姐さんかぶりを取ると佑は驚いた。
いや、留美の可愛らしさで充分予測できたはずなのだが、留加はかなりの美人だったのである。
何に驚いたのかと言うと、佑は大人の女性でそれだけの美人を間近に見たことがなかったのだ。 母の佑美より気品の点などで多少落ちるのだが、普通肉親はそういうことの対象外なものである。
そんな美人が屋台をやっているのだから、ヘンな男たちに絡まれるのは当然かもしれない。
かてて加えて、佑にとって留加の乱暴な口の利き方はつい後ずさりしてしまいそうな位だったのだ。
もっとも留美は慣れているのかもしれない。
外見と態度のギャップが留美に負けず劣らず大きいのは血のなせる業かもしれなかった。
いろいろな意味で逃げ出したい佑だったが、それでもなんとか
「あ、あの……あんニャロって言うのは?」
とだけ尋ねると留美が代わって
「パパのことよ。 まったくもう……」
と答え、溜息をついた。
そして、可愛らしく上目づかいになって
「……ね、ママ?」
「ん? なんだい」
にこにこ微笑みながら応える留加。
「パパのこと『あんニャロ』っていうの、もうやめない?」
と疑問形のお願いをするが、その答えは
「やめない」
という身も蓋もないものだった。
「そう堂々と言われると……困っちゃうんだけど……」
「だってさ、佑美先輩に告白できなかったのもあんニャロのせいだ! 英の字に佑美先輩かっさらわれちまったのも! 空の雲が白いのも! 郵便ポストが赤いのも!」
留美もさすがに呆れて
「あたしが生まれたのもあんニャロのせいよね?」
冷たい口調でそういうと
「…………留美……そんな悲しいこと言わないでよ……」
態度をコロッと変えて涙ぐむ留加。
とどめとばかりに留美は続けた。
「だって、事実じゃない? 違う、ママ?」
「………………そうだけど……」
(そんなこと忘れてたいのに…………でも、本当に留美はあんニャロの種とは思えないよねぇ)
と口の中で呟きつつ、佑の両手を押しいただくように握って
「よろしくお願いします。 近いうちに佑美さんにも」
そこまで言って佑の父への反感を隠すように言いなおした。
「いえ、おうちの方にもご挨拶に伺いますから」
「は、はあ……」
どんどん逃げ場がなくなっていくのを感じ、途方に暮れる佑だった。
もっとも、佑でなくてもこういう状況になればかなり困惑するだろうが。
しかし、ただ途方に暮れていたわけでもない。 今更ながら佑はふと
(母さんのあの歓迎っぷりって、母さんと留美ちゃんのお母さんが友達だったからなのか……)
と思い当たった。
いくら佑がニブくても、事ここに至っては母と留加が昔かなり仲が良かった事が解ったのだった。
では、何故近ごろは交流がないのか?と普通なら思う筈だがそんなことまで思い至るような心境ではなかったのだ。
『責任』をとることがどんどん確定的になっていっているのだから無理もない。
自分の母と留美の母との仲が良い、と見当をつけただけでも上出来といえるだろう。
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