11 / 52
真・らぶ・TRY・あんぐる 十一
しおりを挟む「そっ……その……びびやくって…………いいうのは」
どもっているように聞こえるが、それは佑が震えているためである。
「怪しげな広告に載ってるような……?」
「……仮にもだ」
憮然、とした表情であとを続ける。
「この私がそんなものに興味を持ったり、ましてや調合するなどと思っているのかね? それにいくら会長が物好きとて」
浩も相当なことを言われている。
言われて当然ではあるが、今はすぐ横にいるにもかかわらずである。
「君の悶える姿を見て喜ぶほどではないと思うが?」
正の言葉の合間に、『媚薬』のもうひとつの意味を思い出した佑は
「ま、まさか……」
がたがた震え、完全に蒼白となった口でようやく
「ほ、惚れ薬……?」
「うむ、それだ。 まさか、というのにはいまいち納得がいかないが、な」
よく考えたら、
「じゃあそういう方向には興味を持ってたんじゃないですか!」
……と追求をしてしかるべきだが、いろんな事情で、とてもとても、とてもとても×一〇そんな勇気はない。
「いやー、こーもまともにひっかかってくれるとぼくもうれしいねー。 いやー、ほんとはね飲む前に気づくかなーと思ったんだけどねー。 よーっぽどのどが渇いてたんだねー。 あっはっはっはっはっ。 一気に飲んじゃったもんねー」
正が浩とは対照的な口調で重々しくいう。
「しかたないな。 もっぺんやりなおすか……」
「もっぺんやりなおすかじゃなくて……僕はどうなるんですか……?」
テーブルに向かった正は佑の方へ振り向きもせず、
「心配いらん。 あれは未完成だった」
一瞬沈黙し、そして恐る恐る尋ねる佑。
「……本、当に?」
「ああ、あと加える筈の成分は鉄と……………そうか、麦茶の缶にはふくまれていたな。 じゃ完成しているか……」
「じゃ完成しているか……じゃありませんよ! 僕はどうなるんですっ! 誰かに惚れちゃうんですかっ!?」
正の冷静さとは全く対照的に佑が、大慌ての形相で正に詰めよる。
諸悪の根源であるところの浩は既に、「全ては終わった」とゆーよーな涼しい顔をして本を読んでいる。 どうやら、まったく罪悪感というものを感じてないらしい。
正はめんどくさそうに
「そうじゃない。 女の子、それも特定の女の子に作用する体臭が君から発する……発しているはずだ」
再調剤の手を休めずに続ける。
「その女の子がだれだかはわからん。 肝心の作用を特定する為のパラメータである成分の量が不明だからだ。 だが、君がその女の子に出会う確率は、計算上では一千万分の一だ」
「一千……万分……の一?」
余談だが、一般の人は
『計算上は何パーセント』
とか
『確率では……%』
とかいう言葉に幻惑されるが、確率が低いと言うことは、
『滅多に起きない』
ということであって、
『絶対に起きない』
ということではない。
絶対に起きないと思っても、強ち間違いではない……とは言えるが。
例を言えば、天気情報の場合。
『明日の降水確率は一〇%でしょう』といったとき、世間の人々は『降らない』と思うが、それは間違いである。
正確には、同じ条件の日が一〇日あった場合9日降らずに1日降る……というのが
『降水確率一〇%』
なのである。
もっと正確には、四捨五入とかの要素が加わるのだが、概ねそんなものなのだ。
だから、もし『降水確率一〇%』と言われた日に雨が降っても、
「あ、たまたま十分の一の確率に当たっちゃったんですね」
と言われれば返す言葉がないのだ。
ある条件において、起きにくいかもしれないが、起きないわけではない……というのが
『確率では……%』
の正体なのであった。
「だが、まあそれも人生だろう。 うまくいけば恋人ができるのだからな」
なおも追い打つ正。
「その恋人の容姿、性格はともかくとして……つくしてくれることだけは間違いないぞ」
「そんな無茶な! 僕は……好きな人がいるんですよ!」
普通なら照れてこんなことが言える佑ではないのだが、よっぽど逆上しているらしい。
「それでは、せいせいその娘がその薬のターゲットになることを祈りたまえ」
ちなみに、『せいぜい』が正しい。
「薬の、薬の作用を打ち消すことはできないんですか!?」
「まず無理だろう」
「何故?」
「正確な成分の割り合いが分からないのでは手探り状態で調剤する他はない」
相変わらず手は止めていない。 ここまでくると佑も感服するしかない。
ただ、今はそんな心の余裕がないのである。
「下手に調剤したものを飲んで命取りになった日にはたまったものじゃなかろう?」
「そ……それは僕だってそんな危ない橋を渡りたくなんかないですけど……」
「私も好んで可愛い後輩を危ない目にはあわせたくない」
そう言う正のその目が嘘だと語っている。 単に面倒くさいのだろう。
「それに、そんなに心配することはなかろうさ。 なにしろ一千万分の1なのだからな」
この言葉の欺瞞については、『余談』を参照のこと。
「そ……そんなあ……」
……とまあ、以上のような顛末であった。
佑の災難が誰のせいかは一目瞭然だろう。
実行犯は会長の浅間浩だが、原因となったのは副会長の井沢正であるのは言うまでもない。
つまり、二人の共同責任なのであって、佑は完全に被害者である。
そして正は佑に完全に興味を無くしたように浩の方へ向き直ると、銀ブチの眼鏡をすり上げながら
「あ、それと会長」
「ん?」
「『いっちゃん』はやめて下さい」
「え、気に入らなかった? そっかー、『いっちゃん』って言っちゃまずかったか。 じゃもう『いっちゃん』はやめにするよ。 『いっちゃん』はよしとくね。 もう『いっちゃん』なんて言ったりしないから」
いいほど言っている。
「会長?」
「ん?」
「もう一度言います。 いっちゃんと呼ぶのはやめて下さい」
殺気の塊が会長に向けて発された。
さすがにそれを無視するほど、浅間浩も命知らずではなかった。
「わ、わかった……もう言わない」
ともあれ、
この秘密を知っているのは当事者である佑本人と、原因である井沢正、そして両者の橋渡しをした(物凄く迷惑な橋渡しだが)浅間浩だけであった。
いろんな意味で、こんなことを宣伝するわけにはいかない。
いくわけがない。
親友にすら話すわけにはいかないのだから。
……というわけで、佑は悩んでいたのである。
彼以外の2名は悩んでいなかった。
井沢正はこの程度のこと(!)で罪悪感など感じる性格ではなかったし、そもそも罪悪感を覚えるような状況でもない。
会長の浅間浩にいたっては次の日にはほとんど忘れさり、佑が抗議するまで、これっぽっちも思い出さなかったのであった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
邪気眼先輩
なすここ
キャラ文芸
†††厨ニ病†††
誰しも一度は通る道と言っても過言ではない、The黒歴史。
そんな黒歴史の真っ只中を最高に楽しんでいる奴らの他愛ない日常の1話完結型の物語。
※この作品は色々な媒体の方に楽しんで頂くため、Novelism様、小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ様、NOVEL DAYS様にも掲載しております。
天満堂へようこそ 4
浅井 ことは
キャラ文芸
♪¨̮⑅*⋆。˚✩.*・゚
寂れた商店街から、住宅街のビルへと発展を遂げた天満堂。
更なる発展を遂げ自社ビルを持つまでに成長した天満堂だが……
相変わらずの賑やかな薬屋には問題が勃発していたが、やっと落ち着きを取り戻し始めた天満堂で働く者達に新たなる試練が?
試練の先にまた試練。
住宅街にある天満堂では、普通のお薬・日用品をお求めください。
人外の方は天満堂ビル横のBER TENMANのカウンターまでお越しください。
※どんなお薬でも作ります。
※材料高価買取。
※お支払いは日本円でお願い致します。
※その他応相談。
♪¨̮⑅*⋆。˚✩.*・゚
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
下宿屋 東風荘 7
浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆
四つの巻物と本の解読で段々と力を身につけだした雪翔。
狐の国で保護されながら、五つ目の巻物を持つ九堂の居所をつかみ、自身を鍵とする場所に辿り着けるのか!
四社の狐に天狐が大集結。
第七弾始動!
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆
表紙の無断使用は固くお断りさせて頂いております。
パクチーの王様 ~俺の弟と結婚しろと突然言われて、苦手なパクチー専門店で働いています~
菱沼あゆ
キャラ文芸
クリスマスイブの夜。
幼なじみの圭太に告白された直後にフラれるという奇異な体験をした芽以(めい)。
「家の都合で、お前とは結婚できなくなった。
だから、お前、俺の弟と結婚しろ」
え?
すみません。
もう一度言ってください。
圭太は今まで待たせた詫びに、自分の弟、逸人(はやと)と結婚しろと言う。
いや、全然待ってなかったんですけど……。
しかも、圭太以上にMr.パーフェクトな逸人は、突然、会社を辞め、パクチー専門店を開いているという。
ま、待ってくださいっ。
私、パクチーも貴方の弟さんも苦手なんですけどーっ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる