上 下
8 / 52

真・らぶ・TRY・あんぐる 八

しおりを挟む

……ご期待に添えなくて申し訳ないが、その二人は留美と由香ではなかった。
結城ゆうき大部たいぶ……どうしたの急に?」
「どうしたのって……あのな、僕たちがそんなに友達甲斐がないと思ってるのか?」
「水くさいじゃないか、何で相談に来てくんないんだよ?」
何で……って……まあ佑にも言いたいことは多々あるのだが、さしあたりすぐに口から出てこない。 よって、
「ご、ごめんね二人とも……」
そう謝る佑だった。
佑の親友と自他共に認める二人、結城弘ゆうきひろむ大部正明たいぶまさあきは憮然、とした表情をしながら、一対の彫像のごとく、腕組みをしながら横目で佑を見ていた。


ともかく。
……想像していてしかるべきではあった。
佑も、そこは自分の落ち度だろうと思う。

二人の親友は、早耳なことにかけては人後に落ちないし、早耳じゃなくてもこんな耳の中にむりやりねじ込まれるようなウワサの広がり方では、彼らが知らない、という方が奇跡である。
しかも、ゴールデンウィークを中に挟んでいるから、あれからもう5日は経っているのだ。



「……で?」
「で……って?」
「どうなったんだ?」
「どうなったって言われても……」
弘に核心を訊ねられ、ちぢこまって口ごもる佑に正明は指摘した。
「デートしたんだよな?」
「いっ?」
さすがは情報局ナンバー4、そんなことまで知っているとは!と佑も親友の実力に驚き、つい奇声をあげてしまった。
「いいじゃないか別に。 水瀬さんは可愛いし、性格もみんなに好かれるようなよい子だろう?」
……それは確かに。
「育嶋にふさわしいと思うよ?」
それはどうだか。

由香のことが誰より好きだと思っている佑だが、とっても可愛い、しかも自分のことが好きな女の子が自分にアプローチしてきたのだから、『一番より№2』そう考えて留美とラブラブになってもいいはずだった。
たとえ好きな相手の親友だとしても、である。 一般的な思考としてはままあることだろう。
「押しかけ女房……というか押しかけ彼女というのは確かにちょっと問題あるかもしれないけどね」
正明が苦笑しながら、ほんの少しうらやましそうにそう呟く。
「……僕もどうしていいのか、よくわからなくって……」
「まあ育嶋だったらそうかもなー」
正明がため息混じりにそういうと、弘が口をはさんだ。
「でもさ、いくら積極的だっていっても、相手が女の子なんだから僕よりゃマシだろ?」
「え?」

しばらくの沈黙――――――





「あ」
「『あ』?」
正明の追求するような、首を傾げた意味深なニヤニヤ顔に
(く、口がすべった……)
と、内心あせひろむ
「やっぱり神道とそういう仲に……」
「いいだろそんなこと! 今は僕のことじゃなく、育嶋の相談にのってるんだから……」
「じゃ、結城の恋愛問題については今度追求するとして……」
メモを取る正明に弘は、
「こ、こらちょっとまて! 大部! なんだって僕のことにこだわるんだ?」
「面白そうだから」
「お……お……おまえなぁ…………」
「それに僕、情報局員だし」
そう言って悪戯っぽく微笑む正明を横目に、頭をかかえた弘は
「……と、とんでもない奴と友達になってしまった……」
そう呟くと、正明が血相を変えた。
「なんてこと言うんだ」
その気迫に押され、たじたじとなった弘である。
「なんてことって……」
「育嶋にたいして失礼じゃないか!」

「あのな」
額を押さえ、一拍置いて
「お前だお前! とんでもないっていうのは、大部正明! お前に対する形容だって!」
「そーかぁーちっとも気がつかなかったなあ」
「うそつけ」
いまや完全に自分のことを忘れ去っているような親友たちのじゃれあいをみて、佑はよせばいいのに口を出した。
「あの……そろそろ漫才はやめてくれる?」
「……言うじゃないか?」
「いや、実際、ここで時間潰す余裕が……」
「それはともかく」
まったくもって、『それはともかく』じゃねーだろ!と言いたいが、友人が気を悪くするといけないので言いかねる佑だった。



「それはともかく、あのに惚れられて何が問題なんだ? 全然わかんないよ」
「うん、確かにね」

「何がって……そんなこと言えないよ……」
佑は顔を真っ赤にして、消えて無くなってしまう訓練をしているような仕草をしつつ口ごもる。

「それじゃいくら僕らでも相談に乗りようがないよ」
やれやれ……と言いながら首をすくめる正明。
でも、原因が原因なのだから相談に乗ってもらえなくてもしかたないなあ……と思う佑だった。


だが、この場合、佑が二人に相談を持ちかけたのではないのであって、別に佑が気に病む必要はない。
それでも気に病むのが彼の性格なのではある。
困ったものだ。


ともあれ、
佑にはそう簡単に踏み切れない理由があるのであった。
繰り返すようだが、『由香のことが好きだから』だけではない。

それは………………
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

邪気眼先輩

なすここ
キャラ文芸
†††厨ニ病††† 誰しも一度は通る道と言っても過言ではない、The黒歴史。 そんな黒歴史の真っ只中を最高に楽しんでいる奴らの他愛ない日常の1話完結型の物語。 ※この作品は色々な媒体の方に楽しんで頂くため、Novelism様、小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ様、NOVEL DAYS様にも掲載しております。

青春の方程式

ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ
キャラ文芸
誰もいなくなった部屋。 全てが謎のメッセージ。 この謎はすべてが間違いだと言い張る少年。 推理小説おたくの少年・松井皓平は何も考えなしに入部した文芸部に依頼されたすべての謎を一つ一つ解き明かしていく。 曖昧な少し甘酸っぱい青春ミステリー、ここに開幕。

天満堂へようこそ 4

浅井 ことは
キャラ文芸
♪¨̮⑅*⋆。˚✩.*・゚ 寂れた商店街から、住宅街のビルへと発展を遂げた天満堂。 更なる発展を遂げ自社ビルを持つまでに成長した天満堂だが…… 相変わらずの賑やかな薬屋には問題が勃発していたが、やっと落ち着きを取り戻し始めた天満堂で働く者達に新たなる試練が? 試練の先にまた試練。 住宅街にある天満堂では、普通のお薬・日用品をお求めください。 人外の方は天満堂ビル横のBER TENMANのカウンターまでお越しください。 ※どんなお薬でも作ります。 ※材料高価買取。 ※お支払いは日本円でお願い致します。 ※その他応相談。 ♪¨̮⑅*⋆。˚✩.*・゚

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

下宿屋 東風荘 7

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆ 四つの巻物と本の解読で段々と力を身につけだした雪翔。 狐の国で保護されながら、五つ目の巻物を持つ九堂の居所をつかみ、自身を鍵とする場所に辿り着けるのか! 四社の狐に天狐が大集結。 第七弾始動! ☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆ 表紙の無断使用は固くお断りさせて頂いております。

処理中です...