2 / 52
真・らぶ・TRY・あんぐる 二
しおりを挟む
しかし、そのとき『あること』が頭をよぎり、佑は青ざめた。
といっても、もともと色白なのでほぼ目立たず、本人以外だれも気づかなかったが。
顔を上げつつ留美はつづけた。 ……より正確には由香による口移しが続いた。
(知っててくれたんですか?)
「知っててくれたんだ……。 うれしい!」
だんだんと緊張のほぐれてきた留美はいつもの調子を取り戻しはじめ、ホッとして留美の背後からの口移しを中止した由香なのだった。
それ以上続けても意味がないから当然である。
「……で、有名ってどんなふうに?」
「え」
次から次へとたたみ込まれる感じで、今や完全に受け身になった佑。 とてもそんな質問に答えられるものではない。
もともと受け身で生きてきた彼であるからなおさらのこと。
「ねえ、どんなふうに?」
佑の当惑顔も、ましてや背後の由香のあきれ顔も意に介さず、ニコニコほほえみながらたずねる留美。
「いや……あの……その……そんなことより、なんの御用件でしょう?」
やっと話を本筋にもどすべくそれだけを言うと、留美は改まって
「あ、ごめんなさい」
ぺこん、と可愛らしく頭を下げ、そして向き直る。
「育嶋佑クン、……その……あたし」
んくっ、と生唾を飲み込む仕草をして続ける。
「あなたが好きなんです。 お付き合いして下さい」
「え」
一瞬の沈黙ののち、教室は騒然となった。
教室のほぼ全員が聞き耳をたてていたのである。
教師がいなくて幸いだった。 休み時間だから当然とはいえ。
「あ……あの……水瀨さん……」
「『水瀨さん』はやめて」
そして上目づかいに
「『留美』って呼んでくれる? 佑クン?」
とおねだりするのだった。
だが、佑の方はそう簡単に『留美』と呼ぶわけにはいかない。
なにせ、相手は校内人気ベスト二〇に入ろうかという美少女だ。
あまつさえ、ここは自分の教室で級友たちの目の前なのである。 なかなかその告白に応えられるものではない。
ましてや、もともと気の弱い彼にしてみればなおさらだ。
しかも、ナイショにしていたが実を言えば、佑は、彼に告白した留美ではなく、付き添いである由香の方に想いを寄せていたのだ。
いや、現在進行形で想いを寄せているのである。
さあ、困った。
何せ、目の前に可愛い女の子が二人で、しかも、そのうち一人は自分に愛を告白した校内でもかなりの美人。
かたや、その友人にして佑が想いを募らせている相手。
板挟みもいいところである。
断って突き放せばいい、と考える人は育嶋佑という男子のことがよく解っていない。
それに、『ある事情』がすげなく断り突き放すことが出来ない状態に佑を追い込んでいたのである。
(じ、地獄だ……)
と佑は思っていた。
しかし、それは間違っていた。
彼にとっての、今以上の『地獄』が待っていることを知らなかったのだ。
当たり前と言えば当たり前である。
予知能力がない、それどころかインスピレーション関係がダメダメな佑なのだ。
分かったらそっちの方がびっくりである。
「ね? 留美って呼んで」
「は、はい、留美さん……」
「留美ちゃん」
「は?」
「留美ちゃんって呼んで。 さん付けなんて堅苦しいでしょ?」
口元に笑みを浮かべたいたずらっぽそうな表情で留美が要望する。
「じ、じゃあ……留美ちゃん……」
「なあに?」
「そ、その……つまり……」
佑は答えに窮し、その場から消えるか逃げるかしたいと真剣に考え始めた。
と、そのとき神の助けか悪魔の慈悲か、次の授業開始を告げるチャイムが鳴った。
由香がハッとして
「あ、戻らなきゃ! 先生に叱られちゃうわよ。 留美、先に行くわよ?」
と言うと、留美は振り返り
「あン、ユカちゃん、待ってよ」
そしてまた佑に向き直った。
「あ、次の授業始まるから、また後で。 ね?」
にこ、と微笑んでそう言った彼女は、由香を追って小走りに自分の教室に戻っていった。
……呆然としている佑、及び彼のクラスメートをおきざりにして。
間の悪いことに、佑のクラスの次の授業は数学だった。
あまつさえ抜き打ちテスト。
採点後、数学教師の近藤先生は他のクラスと比べてこのクラスだけ平均点があまりに悪いのに頭をかかえた。
が、この際、近藤先生の苦悩に言及している場合ではない。
そして、昼休み。
佑のクラスメイトの間では、水瀬留美が育嶋佑に告った、と言う話題で持ち切りだった。
しかしどうひいき目に見ても、『佑が留美に』ならわかるが、『留美が佑に』というのはいくら目の前で見たとはいえ
「水瀨さんが育嶋に告白るなんて……まるっきり信じられない!」
という意見が大多数であった。
無理もない。
佑は影の薄い、これといった特徴のない生徒である。
少なくとも、あまり親しくない知り合い……といったレベルのクラスメイトたちにはそういう印象であった。
クラスメイトですらそうなのだから、世間一般のイメージは推して知るべし。
この事件があるまでは。
そんな彼に校内人気ベスト二〇以内の美少女が告白したのだから、それはもう驚天動地が青天の霹靂を引きつれて、優曇華の花を見にきたような騒ぎだったのである。
といっても、もともと色白なのでほぼ目立たず、本人以外だれも気づかなかったが。
顔を上げつつ留美はつづけた。 ……より正確には由香による口移しが続いた。
(知っててくれたんですか?)
「知っててくれたんだ……。 うれしい!」
だんだんと緊張のほぐれてきた留美はいつもの調子を取り戻しはじめ、ホッとして留美の背後からの口移しを中止した由香なのだった。
それ以上続けても意味がないから当然である。
「……で、有名ってどんなふうに?」
「え」
次から次へとたたみ込まれる感じで、今や完全に受け身になった佑。 とてもそんな質問に答えられるものではない。
もともと受け身で生きてきた彼であるからなおさらのこと。
「ねえ、どんなふうに?」
佑の当惑顔も、ましてや背後の由香のあきれ顔も意に介さず、ニコニコほほえみながらたずねる留美。
「いや……あの……その……そんなことより、なんの御用件でしょう?」
やっと話を本筋にもどすべくそれだけを言うと、留美は改まって
「あ、ごめんなさい」
ぺこん、と可愛らしく頭を下げ、そして向き直る。
「育嶋佑クン、……その……あたし」
んくっ、と生唾を飲み込む仕草をして続ける。
「あなたが好きなんです。 お付き合いして下さい」
「え」
一瞬の沈黙ののち、教室は騒然となった。
教室のほぼ全員が聞き耳をたてていたのである。
教師がいなくて幸いだった。 休み時間だから当然とはいえ。
「あ……あの……水瀨さん……」
「『水瀨さん』はやめて」
そして上目づかいに
「『留美』って呼んでくれる? 佑クン?」
とおねだりするのだった。
だが、佑の方はそう簡単に『留美』と呼ぶわけにはいかない。
なにせ、相手は校内人気ベスト二〇に入ろうかという美少女だ。
あまつさえ、ここは自分の教室で級友たちの目の前なのである。 なかなかその告白に応えられるものではない。
ましてや、もともと気の弱い彼にしてみればなおさらだ。
しかも、ナイショにしていたが実を言えば、佑は、彼に告白した留美ではなく、付き添いである由香の方に想いを寄せていたのだ。
いや、現在進行形で想いを寄せているのである。
さあ、困った。
何せ、目の前に可愛い女の子が二人で、しかも、そのうち一人は自分に愛を告白した校内でもかなりの美人。
かたや、その友人にして佑が想いを募らせている相手。
板挟みもいいところである。
断って突き放せばいい、と考える人は育嶋佑という男子のことがよく解っていない。
それに、『ある事情』がすげなく断り突き放すことが出来ない状態に佑を追い込んでいたのである。
(じ、地獄だ……)
と佑は思っていた。
しかし、それは間違っていた。
彼にとっての、今以上の『地獄』が待っていることを知らなかったのだ。
当たり前と言えば当たり前である。
予知能力がない、それどころかインスピレーション関係がダメダメな佑なのだ。
分かったらそっちの方がびっくりである。
「ね? 留美って呼んで」
「は、はい、留美さん……」
「留美ちゃん」
「は?」
「留美ちゃんって呼んで。 さん付けなんて堅苦しいでしょ?」
口元に笑みを浮かべたいたずらっぽそうな表情で留美が要望する。
「じ、じゃあ……留美ちゃん……」
「なあに?」
「そ、その……つまり……」
佑は答えに窮し、その場から消えるか逃げるかしたいと真剣に考え始めた。
と、そのとき神の助けか悪魔の慈悲か、次の授業開始を告げるチャイムが鳴った。
由香がハッとして
「あ、戻らなきゃ! 先生に叱られちゃうわよ。 留美、先に行くわよ?」
と言うと、留美は振り返り
「あン、ユカちゃん、待ってよ」
そしてまた佑に向き直った。
「あ、次の授業始まるから、また後で。 ね?」
にこ、と微笑んでそう言った彼女は、由香を追って小走りに自分の教室に戻っていった。
……呆然としている佑、及び彼のクラスメートをおきざりにして。
間の悪いことに、佑のクラスの次の授業は数学だった。
あまつさえ抜き打ちテスト。
採点後、数学教師の近藤先生は他のクラスと比べてこのクラスだけ平均点があまりに悪いのに頭をかかえた。
が、この際、近藤先生の苦悩に言及している場合ではない。
そして、昼休み。
佑のクラスメイトの間では、水瀬留美が育嶋佑に告った、と言う話題で持ち切りだった。
しかしどうひいき目に見ても、『佑が留美に』ならわかるが、『留美が佑に』というのはいくら目の前で見たとはいえ
「水瀨さんが育嶋に告白るなんて……まるっきり信じられない!」
という意見が大多数であった。
無理もない。
佑は影の薄い、これといった特徴のない生徒である。
少なくとも、あまり親しくない知り合い……といったレベルのクラスメイトたちにはそういう印象であった。
クラスメイトですらそうなのだから、世間一般のイメージは推して知るべし。
この事件があるまでは。
そんな彼に校内人気ベスト二〇以内の美少女が告白したのだから、それはもう驚天動地が青天の霹靂を引きつれて、優曇華の花を見にきたような騒ぎだったのである。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
天満堂へようこそ 4
浅井 ことは
キャラ文芸
♪¨̮⑅*⋆。˚✩.*・゚
寂れた商店街から、住宅街のビルへと発展を遂げた天満堂。
更なる発展を遂げ自社ビルを持つまでに成長した天満堂だが……
相変わらずの賑やかな薬屋には問題が勃発していたが、やっと落ち着きを取り戻し始めた天満堂で働く者達に新たなる試練が?
試練の先にまた試練。
住宅街にある天満堂では、普通のお薬・日用品をお求めください。
人外の方は天満堂ビル横のBER TENMANのカウンターまでお越しください。
※どんなお薬でも作ります。
※材料高価買取。
※お支払いは日本円でお願い致します。
※その他応相談。
♪¨̮⑅*⋆。˚✩.*・゚
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
下宿屋 東風荘 7
浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆
四つの巻物と本の解読で段々と力を身につけだした雪翔。
狐の国で保護されながら、五つ目の巻物を持つ九堂の居所をつかみ、自身を鍵とする場所に辿り着けるのか!
四社の狐に天狐が大集結。
第七弾始動!
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆
表紙の無断使用は固くお断りさせて頂いております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
透明な僕たちが色づいていく
川奈あさ
青春
誰かの一番になれない僕は、今日も感情を下書き保存する
空気を読むのが得意で、周りの人の為に動いているはずなのに。どうして誰の一番にもなれないんだろう。
家族にも友達にも特別に必要とされていないと感じる雫。
そんな雫の一番大切な居場所は、”150文字”の感情を投稿するSNS「Letter」
苦手に感じていたクラスメイトの駆に「俺と一緒に物語を作って欲しい」と頼まれる。
ある秘密を抱える駆は「letter」で開催されるコンテストに作品を応募したいのだと言う。
二人は”150文字”の種になる季節や色を探しに出かけ始める。
誰かになりたくて、なれなかった。
透明な二人が150文字の物語を紡いでいく。
表紙イラスト aki様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる