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真・らぶ・CAL・てっと 五十一

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―――――そして
コトが終わってから少しの間、治は放心していた。
愛しの先輩と結ばれたのである。
これで感慨にふけらなくては、薄幸の美少年の面目丸つぶれというものだ。
ふと横へ目をやると、佑も佑で放心していた。
感慨にふけって……ではない。
肉体的疲労でというわけでもない。
あまりのやることの多さに、まるでメモリがスタックオーバーフローを起こしてしまったパソコンのように……つまり、一言でいうと
『頭が真っ白』になっていたのである。
対象が同性とはいえ初心うぶなネンネというわけでもない佑がそうなったのはそれはつまり、『参考書』を鵜呑みにしてしまったからであった。
初心者の場合、いくらなんでもそこまでしないだろう、というような同時進行型の行為を義務と思ってしまったのである。
これはやはり、飛弾野茗の罪であると言わねばなるまいが、その『参考書』いわゆる『BL本』にも罪なしとは言えまい。
ましてや、茗は佑以上に「その実際」については知らないのである。
知っていたら知っていたでそれは別の大問題なのだが。

それを抜きにするなら―――
治とのそれは、思ったより平気で、嫌悪感を感じなかった。
治のからだがまだ子供こどもしていたせいもある。
同性を感じさせないほどたおやかだったこともある。
だが主たる原因は、何よりも彼が愛おしいから、なのだがそれと意識していない佑であった。
ともあれ、治はそんな込み入ったことは露知らず、なのであった。
ややあって、なんとか正気を取り戻した佑に、治はそれと知ってか知らずか
「こんなのって」
呟くとも訴えるともつかない細い声で
「初めてです」
そう言った。
「え?」
その『初めて』というのが引っかかり、首をかしげながら治に尋ねた。
「もしかしたら、神道はこうはしなかったの?」
今まで頼りにしてきた『参考書』に疑いを持ったのだ。
世間様には『もっとはやく疑いを持て』という声もあるだろうことは想像に難くない。
「あ、でも」
「でも?」
反射的に聞き返す。
「気持ちよかったです」
つい先輩に口を滑らせてしまってから顔を真っ赤にした治と、愛おしさのあまり可愛い後輩を胸に抱いてその頭を撫でてやる佑なのだった。


閑話

「え? すると」
眉をしかめつつ視線を上方にやる結城弘。 柔和そうな顔が台無しである。
「最後まではしてない、ってこと?」
「当たり前だろ」
苦笑いしつつ神道直也が答える。
「だいたい、当時俺は中学生だったし、相手は」
「何さ?」
口の中だけでもごもご言って続ける。
「…だぞ? いくらなんでもそこまでできるか」
天井向いたまま憮然とした表情だが、それが照れているのだと悟った弘は少々気色ばんで
「じゃあどこまで?」
ジェラシー丸出しなのが弘本人にも解っているかどうか。
「キスして、触わり合って……そしてちょっと出させただけだ」
寝物語に弘に話す直也。
その頃は年齢的に『様々なテクニック』を知らなかったのである。
「だったら、育嶋に言ってやればよかったじゃないか」
くす、と笑って
「いい薬さ」
父性愛にでも目覚めたのか、ほのかに微笑む直也。
彼を見て
「しょうがないなー」
口ではそう言いながら、しばらくぶりにやわらぐ弘の顔だった。
しかしながら、考えてみるととんでもない話である。
それに思い当たったのか
「でも、僕には」
と声を荒げて
「悪い薬だよ」
ぷいと横を向く弘。
「なんだ、スネてるのか?」
ぷくっとふくれた恋人の頬に口づける。
「今はおまえだけだよ」
顔を赤くしながら
「うるさい」
と、まあ、彼らは彼らで仲良くやっているようであった。

閑話休題


くすぐったそうに目を細めて先輩の胸に顔を埋めている治に、ふと心配になった佑が
「ね、治? このこととか、あんまり誰にでも言っちゃいけないよ?」
そうやんわりと釘を刺した。
「あ」
叫んで、びくん、と体を震わせる治。
「ど、どうしたの?」

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