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真・らぶ・CAL・てっと 五十

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「北条」
囁きながら、ほとんど自動的な動作でベッドに起き上がっている治の細い腰を、引き寄せるようにして……
「あの、先輩……離してください」
治の言葉で佑は、はっ?と我に返ると
「あ」
と声を上げ
「ご、ごめんね」
すまなそうに謝り、恥じ入るかのように後ずさった。
「いえあの、鍵が」
すっと佑の横を過ぎた治は、カチリとドアに鍵をかけて向き直った。
そして今度は自分の方から抱きついていった。
「ほ、北条?」
「鍵、かけておかないと」
恥ずかしそうな小声のその先は聞かなくても分かる。
相手をかき抱く二人の腕に軽く力がこもった。

改めての抱擁の後、少し身体を離して互いの顔を見つめ合うと、まず治が、ついで佑が顔を火照らせた。
「北条」
「名前で、呼んで、くだ、さ」
だんだん声が細くなり、ラストの「い」は辛うじて聞き取れる程度だ。
「うん」
佑はにっこりと優しく微笑みんで軽く頷いた。
「治も」
抱き寄せて
「名前で呼んで、くれるかな?」
と疑問系の要望を耳元に囁く佑。
「ゆ、佑さ、ん」
緊張しているためだろうか。 いつもよりも治の声は高くなり、そのテノールは更に心地よく佑の耳をくすぐる。
パジャマごしに腕に感じる肩は暖かく、鼓動は行動を急かすかのように佑の胸をノックしてきた。
か弱き後輩の肌からたちのぼった香りが鼻腔を刺激する。
「心配し、てくれて、あ、あ、りがと、うございます」
ぎごちなく礼を言う少年の身体は、確かに丈夫になっていっているようだったが、それでも佑より細く、彼の胸に楽々収まっていた。
愛おしさのこみ上げた佑は、ゆっくりと言うには多少性急に、すべすべとした頬を近づけていった。
ふわりと。
ついばむように。
そして緩やかに深く。
以前甘かったそれを確かめるかのように。 そして。
「ん、んんっ」
熱のこもりにこもったそれは、まだ恋人たち相手にもしたことがないほどの、であった。

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