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真・らぶ・CAL・てっと 四十
しおりを挟む「ホテル?」
佑の、唐突な申し出を勘違いする由香。
「佑がホテルに誘うって、どっかのラウンジでコーヒー? それとも何かのイベントにつき合って欲しいの?」
大体において彼らが『する』場合、留美が『ホテル』に誘う事が多く、佑が誘う……ということは今まで一度もなかった。
そのため、佑が誘ってくるなどというのは由香にとって予想外なのである。
「い、いや、そうじゃなくて、その」
動機が動機であるから、単刀直入には切り出しにくいがなんとか
「そ、その、久しぶりに由香や留美としたいと思って」
「したい? 何を?」
まだその意味が脳にしみていないようだ。
そんな由香に耳うちする留美。 いたずらっぽそうに可愛らしく笑う目が、最近では妖しさも含んでいる。
「あ」
理解し、ほんのり頬を赤らめると口でだけ謝った。
「ご、ごめん」
佑は佑で真っ赤になり
「い、いや、わかりにくくてごめんね」
と言ったきり黙っている。
「んーと……今度の土曜日ならいいわよ? 部活が休みだから」
明後日の方向を見るように視線を泳がせて告げると、留美も
「じゃ、あたしも合わせるね。 部活、休んじゃうから」
と屈託なく口にした。
「最近太っちゃって。 クラブの実習での味見が原因だと思うんだけど……でも」
本人は太ったというが、それは主観というやつでまるで当てにならない。
その体を見ればちっとも太ったとは思われず、更衣室などで下手にそんなことを言えば、他の女の子にジェラシーのあまり絞め殺されそうだ。
「その他にも、佑やユカとシてないってのもあるかな、って思って」
佑と由香の腕をとって、二人の間にぶら下がるように戯れながら
「楽しみー」
と子供のようにはしゃぐ留美なのである。
余談だが
教師の思惑で副キャプテンに抜擢されてしまった由香の方はともかく、留美がなぜ料理クラブに入部して部活に邁進しているかというと、つまりソレは……
要するに草食系男子である佑はお菓子男子であるばかりか、お弁当男子でもあったのであった。
言うまでもなく、佑美の教育のたまものである。
さすがに親友である大部正明には及ばないのだが、彼のところは兄一人弟一人であって兄の正一は刑事なのである。 毎日三度の食事を作らざるを得ない彼の腕が佑より劣っていたら、そっちの方が問題があるだろう。
ともあれ、由香はおろか留美よりも、いやひょっとすると料理クラブの平均的クラブ員よりも料理の腕が上な佑であった。
それを知るものは留美と由香だけなのは、残念と言えば残念なことだが、披露する機会がないから致し方ない。
というわけで第一関門は突破したのだが、大事なのはこれからである。
最初に佑、そして留美、最後に由香がシャワーを使った。
「運動の前にシャワー浴びるのって久しぶりだなー」
トレーニングが行き届いているのか、以前よりもすっかり引き締まったボディーだった。
「しっかし、留美や佑とするのも確かにしばらくぶりよねー」
そのすらりとした濡れた身体で、タオルだけを首に掛けたの姿で歩き回るものだから、佑としては目のやり場が無くうつむいている。
それを『寂しかった』の表現だと勘違いした由香は
「あたし近頃ずっと部活で忙しかったからさー。 ごめんね、佑」
と続けた。 留美だって同じである。
「あたしだってそうよ。 ごめんね、佑だけにしちゃってて」
照れたように謝る由香、すまなそうに謝る留美、そして慌てて手を振る佑。
事情が事情なのと、シャワーを浴びた後なので彼はさらに真っ赤になっていた。
が、いつまでもそうしてもいられない。
「あの、お願いがあるんだけど」
おそるおそる切り出す佑。
「お願い? 何?」
それとは逆に快活に訊ね返す留美。 横では、由香がスポーツドリンクを飲んでいる。
「その、二人のね」
「二人の?」
目の奥を覗き込まれ、顔を背けそうになる。 が、何とかこらえて続けた。
「二人のしてるとこ見てていい?」
思いもよらない佑の願いにきょとん、となる二人。
そののち上目遣いに微笑んで
「いいわよ? 佑」
留美が言うと由香もウィンクする。
「ちょっと変則的ね? 興奮するかも」
その答えに、力なく笑う佑だった。
「あン、ユカってば、そんなとこはみはみしちゃ」
「何よ、留美これ好きでしょ?」
「よーし、お返し」
「あっ、あたし首筋弱いのに」
「ほら、こっちも」
「そ、そこはだめ……やっ」
いつもは渦中にいるために観察している余裕がなくて気づかなかったが、なんだかんだで二人はかなり過激な行為をしているのであった。
言うまでもなく佑本人もそれなりに大胆なことをしているのだが、目の前で繰り広げられる恋人たちの有様にそんなことに思いをはせる余裕はない。
もうちょっと血の気が多ければ鼻血ブーな佑である。
もっとも、興奮して鼻血が出る、というのは俗説であって、実のところはビタミンKが足りなくて鼻の粘膜が薄くなっているのが主な原因らしい。
余談はともかく結論から言うと、由香と留美の行為は、完全には参考にならなかった。
彼女らは『彼女』というくらいだから女性なので当然だろう。
しかし、まるっきり無駄だったかというとそうではない。
愛撫の変化の仕方などを客観的に見ることが出来たからだ。
もちろんそれは『詳細』と同義ではない。
気恥ずかしくてとてもとても白い姿態の絡み合いをじっくりと観察することなどできなかったし、当事者でないために脇から見ているだけでは何をやっているのかわからない部分があった。
前者の代表は……への愛撫であり、後者の代表は深いキスのテクニックである。
しかしながら、雰囲気だけでもつかめたのは決してマイナスではない。
同性同士の行為の本質がおぼろげながらでもわかったのだから。
かくして、そちらの知識を何とか得た、と思い微妙に自信を付けた佑は、頭の中色々考えながら帰途についた。
そして家に戻ると身支度も早々に、治の家へ電話をかけた。
「もしもし、北条さんの……あ、北条?」
たまたま電話に出たのは治だったので話は早く済んだ。
これが彼の両親だったなら事態がややこしくなったに違いない。
「え! 明日ですか? ええ、大丈夫です」
電話口から治があたふたする気配が伝わり、何となくほほえましくなった佑。
そのことも手伝って、あらかじめ『行為』の予行演習を念入りに頭の中で行った。
それがどのようなものかは風紀を乱すおそれがあるので割愛するが、なにせ今まで経験したことのない行為であるから、想像による事前の練習は有効なのである。
専門用語では『メンタル・リハーサル』ともいう。
それを知ってか知らずか、佑は布団に入ってからもそれを繰り返していた。
よほど不安だったのだろう。
なにせ今までの体験は総じて出たとこ勝負だったので前もって準備することが出来なかったのだから。
今回はあらかじめ用意できることもあっていろいろと考えながらそのまま寝入ってしまった。
だが、おかげで彼は次の日知恵熱を出し、更に風邪を引いてしまったのだ。
風邪の方は湯冷めが原因だったが、本人は気づいていなかった。
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