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真・らぶ・CAL・てっと 二十六
しおりを挟むそして、彼らが出て行った後、治と茗はグストで食事をしながら話しだした。
そのことから二人の両親は、あまり行儀にうるさくないことがうかがえる。
もっとも、もしファミレスで食事中のお客が一言も口をきかなかったら、それはそれで不気味である。
「茗ちゃんてば、先輩にご迷惑だよ……」
「あら、そう? あたしとしては援護射撃のつもりだったんだけどな」
「気持ちは嬉しいんだけど……」
口ごもる治。
「ん、なに?」
お冷やを飲んで尋ねかえす。
「先輩に迷惑かけたくないから」
「茗の作業でメイワーク、なんちて」
一瞬、目を点にする治。
しらけた。
どっちらけた。
一昔前なら『ホワイトキック』であった。
「め、茗ちゃん……それはいくら何でも」
「まあスベるとは思ったけど」
では言わない方がよい。
「でも、育嶋センパイも前より」
ニッ、と笑って
「治くんに近よってたみたいだったよ」
「え」
治は、あのあと佑がグストを出るまでのことを思い出してみた。
記憶の中の光景では、確かに自分との距離が以前より短くなっていたようだ。
「あ、治くん赤くなった」
「茗ちゃんてば、からかわないでよ……」
「からかってなんかないよ? 単に事実を指摘しただけ。 からかうっていうのはね『そんな顔したらフツーの男の子なら押し倒しそうなのにどうして育嶋センパイは行動を起こさないのかな? 体に何か欠陥でも……』とかって」
どっちにしたって嬉しくない治である。
この従姉妹のことは嫌いではないのだが、近頃冗談がきつくなっているというのか、なにかと治はからかわれている。
少なくとも治自身はそう感じていた。
茗としてはそんなつもりはない。
ただ、従兄弟がBLに……というのを面白がっているのも確かだ。
実は、彼女の隠し本棚には、BLラノベやBLコミックがずらりと並んでいる。
両親たちはそのことをまるっきり知らないが、治は薄々知っていた。
別に、だからどうだこうだいうのではない。
少なくとも、彼女が悪意を持って自分と佑との仲を見ているのではない、という事はわかる。 それがそういうシュミの故だとしてもである。
しかし、それは自分の恋がからかわれるのとは、また別の話だった。
茗に言わせれば『からかってるつもりはない』だろうが。
しかし、彼女は佑が異様に奥手なのを知らないのだ。
当然、それで治がいろいろ悩んでいるのも知らない。
相談しようかと思っていたが、輝明たちと出逢ったために必要性は薄くなっていた。
彼女は確かに自分の病気のことを知っている。
その意味では輝明たちよりも治のことを知っていることになる。
だが彼女は『彼女』というくらいだから女で、彼らよりも男の生理欲求というものを知ってはいない。
それに、原因はよくわからないのだが、佑といると間違いなく健康が回復している。
というわけでますます従姉妹に相談する意味は薄くなっていた。
さて、こちらは佑と前後してグストを出た輝明・尊のカップル。
彼らは……いや正確には輝明は、見知った顔を見つけ、つい声をかけた。
わりに行き当りばったりな所もある輝明なのだった。
「よお、留美ッペじゃねえか?」
その遭遇には相手も驚いたようである。
「あら、輝明さん? どうしたのこんなとこで」
「実はな」
しかしながら話の本筋にそれほど影響がないため、輝明たちと留美のエピソードは割愛する。
また別の機会にでもご覧いただくことにしよう。
というわけで
グストからでた佑は色々と考えながら歩いていた。
何を考えていたか?というと、主にこれからの治への接し方、そして輝明に指摘された自信についてだった。
(輝明さんはあんなふうに言ってくれたけど、でも僕にそんなことが出来るんだろうか。 いや)
きっとできない!とツッコむとヒンシュクをかう恐れがあるが。
ともあれ、きりっ、前を見た少年の目は今までと違っていた。
(出来る出来ないじゃない。 やるんだ!)
りりしく輝く瞳は決意に溢れ、治も留美も由香も惚れなおすだろうくらいだった。
ひょっとしたら冴英ですら見直してくれるかもしれない。
「あ、佑」
背後から呼びかける留美の声がした。 思わず振り返る。
「留美? どうしたの?」
「佑のおうちに行ったら『グストに行ってるみたいよ』って冴英ちゃんが」
顔つきの変わった恋人の様子に気がつき
「佑、どうしたの?」
「ん? 留美こそどうかした?」
さわやかに笑って問い返す佑に、つい頬を赤らめてしまう。
「し、しばらく二人だけになってなかったからかな? なんだか佑、もっと素敵になったみたい」
左腕に抱きついていく留美。
「僕は変わってないと思うけど」
父・英介のように余裕のある態度であった。
いい加減、ヘタレで消極的で気が弱い佑も覚悟が決まったのだ。
しかしながら、次の日の事件は彼のその覚悟に少なからず影響を与えたのである。
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