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真・らぶ・CAL・てっと 二十一

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「ところで、メシまだなんだろ?」
顔色から判断し、輝明はそう尋ねた。
それは確かにそうだったが、佑の顔色が悪かったのは、緊張していたためであって空腹だったからではない。
「もし良かったら、一緒に食っていかねえか? ドリンクバーくらいならおごるぜ?」
「いえ、そんな」
おごらなくてはならないのは、どっちかといえば自分の方なのである。
少なくとも佑の気持ちとしてはそうだった。
それに、輝明たちとなんとなく離れ難いものを感じていたのである。
何故かはわからないが。
ともあれ、佑はチキンカレーを注文した。
まあ定番である。
彼らはドリアとクリームシチューを注文した。
佑が好きな筈のドリアを注文しなかったのは、以前食べた時に不味かったからであった。
じゃあ警告しろよ、って話だが、言うまでもなくそれは性格的に無理であった。

意を決した佑は、輝明に質問した。
「あの……間違ってたらごめんなさい」
「ん? なんだい?」
「お二人は……その……」
「ああ、恋人同士か、って?」
ズバリと核心をつかれ、ドキリとする佑。
そして佑が返事をしないうちに輝明は頷いた。 尊も一緒にだった。
「そうだぜ? タケルは俺の最愛の恋人さ」
「輝明さん……うれしい」
「当たり前じゃねえか……」
そう言いながら、尊を抱きしめる輝明。
そんな人目もはばからない二人に、ついつい治に対する自分の態度を省みる佑。
留美や由香との、ではなく治に対する態度であったのは問題があるのだが、更に問題なのは、そのことに彼自身が気づいていない事である。
ここのところ、いろんな意味で、彼女らとの接触がない、というのは事実であるが、『流されている』という事実も否めない。
「驚かせちまったかな?」
「は、はい、ちょっと」
「すまねえな。 我ながらちょっと一般常識から少し外れてるとこがあってよ」
佑は『少し』と言う部分に首をかしげずにはおられなかったが、まあそれはそれとして。
「少しばかり気になるんだが」
輝明が、その整った眉を寄せ、優に訊ねる。
「今『ちょっと』って言ったよな?」
「え? は、はい」
「ということは、君も同性の恋人がいるってことか?」
「ええええっ!?」
輝明が急いで佑の口をふさいだので、周りには「え」しか聞こえなかった。
「落ちついてくれ。 ……ふーん、そうなんだな?」
輝明の掌で口をふさがれたまま、こくこくと頷く佑。
「大声を出さないって、約束してくれるか?」
これまたこくこく頷く。
そのとき、佑の背後から聞き慣れた声がした。
「あれ?」
それは治の声だった。
「先輩!?」
輝明の掌で口をふさがれたままの佑がふりむく。
「むぐ!?」
もちろん
「北条!?」
と言っているのだが、治はおろか誰にも聞こえていない。
「おや?」
「あれ? 治くん?」
輝明と尊の声が重なった。
「芹沢さん? 尊くん?」
治はそんなふうにいったが、佑は完全に意味不明である。
輝明は、佑の口をふさいでいる側と反対の手をあげて挨拶した。
「よ、元気そうだな?」
「こんにちは、治くん」
にこやかに治に言う二人。
だが、さすがに治も混乱を起こしていた。
「なっ……ななななななな」
「落ち着けって」
落ち着けない。
「やれやれだぜ」
輝明は溜め息をついたが、自分たちが原因なのを忘れている。
それに佑の方は呼吸困難に陥っていた。
もがく佑に、やっと気がつき
「おっと」
おっと、じゃないというのだ。
「大丈夫か?」
手を離せ。
「すまねえな。 静かにしててくれよ?」
佑は一応頷いた。
逆らったってしょうがない。 いろんな意味で。
「ああ、すまねえすまねえ、苦しかったか?」
そりゃもう当然である。
輝明が手を離すと
「ほ、北条……」
ぜえぜえと息を吐きながらなんとかそれだけを言う。
で、次の瞬間、佑と治はお互いに同じことを言った。
異口同音、というやつである。
「どうしてこんなトコに?」
店のオーナーが聞いていたら、憤慨するのが確実であるくらい失礼な言葉だった。
じっと二人を見ていた輝明が口を開く。
「友達なのか?」
佑は頷き、治はかぶりを振った。
「はぁん……」
輝明は訳知り顔をした。 尊も、くす、と微笑む。
「まだ理解してねえのか」
その輝明の言葉に、横で尊は吹き出していた。
ちなみに、それでも佑はわかっていない。 治は真っ赤になっていたのだが。
「佑ってほんとかわういな」
その輝明の言葉に、治も尊も血相を変えた。
「は?」
ちなみに本人はまだわかっていない。
「どういうこと!」
「落ち着け、落ちつけってば」
慌てて尊をなだめる輝明。
治の方は、ほっぽらかしである。
まあしょうがないのだが。
「弟みたいだ、ってことだよ」
「本当?」
「ああ、なんかほっとけなくてな。 俺にゃ弟はいないし」
尊をなだめるため、頭を撫で、また失言を繰返す。
「なんにしてもなあ……二人とも、ほんとかわういな」
「輝明さん!」
尊がギュと輝明をつねる。
「てっ! 悪い悪いタケル……ちょっとな」
「もう!」
「すまねえってば……彼らには触れてすらいねえんだぜ?」
「うそだあ!」
「あ、佑にはふれたっけ?」
ぷくっ、とふくれる尊の頭を優しく撫でる輝明。
「治くんにも触ったよ! タオル越しだけど……」
「すまねえってば。 言葉のあやだ。 その『触れる』ってのはな」
尊に耳打ちすると、彼は顔を真っ赤にした。
「てなことやってねえだろ?」
「う、うん……そうだけど……」
そもそもここは公衆の面前である。 尊が顔を真っ赤にする行為が出来るかどうか、問うまでもない。
「な? 機嫌治せよ? お前以外に俺が振り向くと思うのか?」
「そ、それはそうなのかも……けど」
「お前以上に可愛いコはいやしねえぜ?」
いろいろと失礼なセリフだが、治を尊と同等の可愛さと言っているつもりなのだ。
「ほんと?」
「ああ、当たり前だろ?」
熱いキスを尊に贈る輝明。
「お前以外に、こんなこたしねえさ……」
「輝明さん……」
「でも、ヤキモチ焼いてくれるのはうれしいぜ?」
つん、と尊の頬をつつく輝明。
「やん……」
はにかむ尊。
「あのー」
流石にあきれて佑が口をはさむ。 このままだと話がちっとも進まない。
「馬に蹴られるぜ?」
「はい?」
「恋人たちに水をさすと、馬に蹴られるって言ってんだよ」
慌てて手を振る佑。
「い、いや僕はそんな気持ちは」
「分かってるよ、シャレだ」
「は、はぁ……」
「ほんとかわういな」
にこりと笑って尊に同意を促す。
「な? タケルもわかるだろ?」
「ん、わかる」
こくん、と可愛らしく頷き、次にはぷくっと膨れて
「でも前置きナシに」
「ん?」
「言うのは反則」
バカ、と輝明の頬に尊の拳がめりこむ。
厳密に言えば、触れる程度で、そのまま押し込んでいるだけだ。
「そりゃすまなかったな」
尊のパンチに優しいキスで返す輝明。 本当にラブラブだ。
「これで許してくれよ?」
「ん」
言うまでもなく、尊は許した。
実はじゃれて見せただけなのである。

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