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【3】私
(35)若い娘
しおりを挟む雲ひとつない町の夜。
星が綺麗に見えた。
子供の時に見た絵本に出てくるような黄色ではないが、金色に輝く星が数えられないほどいくつも。
自然に満ち溢れた土地だからこそ見える絶景とはこの事だろう。
『綺麗ね。—————』
寝間着姿の母は玄関の前で椅子に座っていた私の横へ屈むように空を見上げていた。
思えば母と星を見るのはこれが始めただなと母を見つめると、母も考えている事は一緒だったようで2人して笑みがこぼれた。
母はいつも私に優しく誰よりも私の味方
そんな母だったら本当の事を知っても。
『辛いのは分かるわ。—————』
『○○はまだ若いのにあんな事が起きたのだから辛くない訳ない。』
『お母さんはいつでも○○の味方なんだから、見栄なんて張らなくてもいいんだからね—————?』
母は優しい口調で私の手を握りながら
声をかけてくれた。
何も。
言えなかった。
その優しさが酷く痛くて
気がつけば
両眼から溢れ頬を伝うソレは母が握ってくれていた手にこぼれ落ちた。
母は何も言わずギュッと抱きしめてくれた。
それを冷たく見守るような星は笑うように輝いていた。
————————————————
数分、私はただ母の温もりを感じながら
胸の内に秘めていた決して許されることのない涙を流し続けた。
赤子のように声に出しながら。
きっと限界だったのだろう
許さない事だと分かっていたけれど
悪くない事だと分かっていたけれど
その行いの後に見せられた現実に耐えられなかったのだろう。
私は懺悔を乞うかの様に母の許しを得たいのだろう。
同情を得たいのだろう。
共感を得たいのだろう。
その感情が湧き出た頃には抑えていた物は口から吐き出て、止まる事は無いのだろう。
口に出した事で次に何が起こるかも梅雨知れず未熟で哀れな私は明日から後悔し続けるのであろう。
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