踏切 電車 向こう側

相坂 舞雉

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【2】僕

(14)あの日の転校生

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新学期初日。

長期の夏休みを終え学業に再度専念する記念すべき1日目にして全ての学生を現実に引き戻すそれはそれは無慈悲な登校日。

他の生徒と同じく憂鬱な気持ちと気だるさを抱えながら全体集会を終えて、クラスに戻り席に着く。
窓側の席で校庭が一度に見渡せる特等席。
今日からまた黒板に書かれたものをノートに記入し飽きたら絵を描きそしてまたノートに記入する。
それをその都度繰り返して果たして僕の未来は明るく輝くのだろうか。
青春と呼べるドラマチックな響きは僕の繰り返すこの習慣のことを指しているのだろうか。

——————憂鬱だ。———————


ボロく開けるたび不穏な音を立てるドアを開けたのは担任の先生。

騒がしくそれぞれのグループで楽しい夏休みの話をするクラスメイト達に席に着くように促し、先生はいつものように
黒板の前に立つ。
僕はノートとスケッチブックを取り出し授業を受ける体制をとった。

「皆んな、今日は授業の前に転校生を紹介する」

こんな田舎町に転校生が来るのは珍しい。学校の生徒数も少なくここらでは高校はここしかない。
渋谷を目にした僕にはさっきの全校集会だってスクランブル交差点で信号待ちをする人々よりも少なく感じていたほどだ。

そんな所に転校してくる子は僕が言うのもなんだが可愛そうに思える。

僕だって出来ることなら都会の学校へ移り住み毎日人が賑わう場所へ行きスケッチブックを埋め尽くすのに。
そんなくだらない妄想にふけっている間にその「転校生」は先生の隣に立った。




『初めまして。』



その声に聞き覚えがあった————



『東京から来ました。』


その声の持ち主とは

決して

多くの言葉を通わせたわけではなかったが、


僕の中には一言一言が印象強く————


『〇〇です』


残っていた—————


『よろしくお願いします。』





彼女は深くみんなにお辞儀をした後
先生の指差した僕の後ろの席へと向かう




彼女が静かに席に着いた後
いつも通り授業が始まった。













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