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そのごじゅうに

ペット目線

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 リシェ欠乏症に陥りやすいラス。
「さ、先輩」
 彼はそう言いながらリシェに抱き着こうとするが、流石にうんざりしてきたのか「近付くな」と冷たく突き放す。
「あっは、振られてんの?ラスぅ、可哀想にねぇ」
 他人事のスティレンは完全に揶揄う口調で笑った。思えば散々リシェを求めては抱き着くというパターンばかりで、鬱陶しくなってきたのだろう。
 リシェも放っても勝手にくっついてくる相手なので諦めているのだろうが、慣れたとはいえ定期的に磁石ばりに抱き着いてくるラスに対して流石に邪魔だと思う時期がやってきたのだ。
 気分によって大丈夫だと思う日もあれば、近付いて欲しくない時もある。いつもは寛容なリシェも、今日はちょうどその珍しい日かもしれない。
 はっきりと拒否の言葉を放たれ、ラスは驚いた顔を見せると次は悲壮感たっぷりの顔で「えぇええええ!?」と嘆く。
「先輩、俺の事が嫌いになったんです?」
 極端なラス。
 一方のリシェは機嫌悪そうな様子で「鬱陶しい」と告げた。
「そりゃ定期的にくっついてこようとする相手なんてウザい事この上ないだろうよ、ラス。少しは控えたらどう?見てて本当気持ち悪いから」
 更に追い討ちをかけるかのようなスティレンの追撃に、ラスは口をあんぐりと開けながら言葉を詰まらせていた。
 確かにやり過ぎ感もあったかもしれないが、リシェは比較的受け入れてくれたので大丈夫だと思っていた。まさか嫌われる要素になりうるとは思ってもいなかったのだ。
 冷や汗を流しながら、ラスはショックを受けたままの顔でツンとした様子のリシェを見る。
「せ、先輩…」
 嫌われたくない。
 恐る恐るラスはリシェに話しかける。
「わ、分かりましたよ。なるべく先輩を使って充電するのは控えますから…俺、先輩に嫌われたらどうしたらいいか分からなくなってしまいますよぉ」
 弱気な様子でリシェに迫るラス。
 その派手な成りで、どちらかと言えば地味なリシェに対し異様に下手に出ている様は側から見てあまりにも滑稽に映る。
「てかさ」
 その弱まるラスを内心面白そうに眺めながら、スティレンは呆れた顔を隠しもせずに口を開いた。
「そもそも死ぬ訳でもないのにさ。いちいち抱き着く意味が分からないんだけど。てか恋人でもそんなにくっついたりしないと思うよ」
 リシェはそっぽを向きながら貰ったスルメに噛み付く。
 やはりマヨネーズが欲しくなる。ぎりぎりと噛みちぎりながら一人でそんな事を考えていた。
 ラスは泣きそうな顔でスティレンの問いかけに「いやいやいや」と反論した。
「一回抱き締めると、何ていうか…感触がもう病みつきになってしまって。先輩、何気に抱き心地良くて。しばらくするとその感覚を思い出すっていうか、先輩の形を求めたくてうずうずするっていうの?とにかく欲しくて堪らなくなってしまうんだ」
 彼はそう言いながら両手をわきわきさせる。
 スティレンはその言い分を聞きながらうわぁ…と引いた表情をしていた。
「ラス」
「何?」
 ここまでリシェに没頭するのも異常だ。
 スティレンはリシェの欠乏症になっているままの彼に、まるで汚れたものを見るような目線を浴びせながら「いやいやいや」と口走る。
「それ、末期症状じゃないの?怖…本当、ちょっと控えた方がいいと思うよ。いくら何でもキツいって。何なら俺が一旦こいつを引き取ろうか?」
 そこまで異常なのだろうか。スティレンの発言に、ラスは「いやいやいや」と首を振った。
「それは困る…せ、先輩と別室だなんて」
「いや、本当依存症みたいだから。こいつの為にもなんないし。だから一旦離れた方がいいって。末期症状になってるっぽいからさ」
 そんなぁ、とラスはひたすらスルメを噛んでいるリシェに目を向けた。彼の様子は依然として苛々する様子が伺える。
「…やけに固いスルメだな…くそっ」
 スティレンはリシェを引き寄せると、「ほら」と続ける。
「こいつも何だか邪悪なオーラを放ってるっぽいから。従兄弟の俺に任せな」
 言われれば確かにいつもとは違う何かを感じる。
 今まで自分の欲求ばかりで、何かリシェの事を思いやれていなかったかもしれない。
「先輩…俺、ひたすら先輩を求めるばっかりで何もしてなかった…」
 お互い冷静になった方がいいよ?とスティレンは宥める。
 悲しげなラスに、「こいつもあんたと同じように息抜きも必要なのさ」とまるでペットか何かを扱うような飼い主目線で言い放った。
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