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そのよんじゅう
大体人のせい
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「捕まえましたよ、リシェ!!」
そんな嬉々とした言葉と同時に響くリシェの「うわー!!」という悲痛な叫び声。保健室の前を普通に歩いていただけだったが、通過した途端に保健医のロシュに腕を掴まれて引き寄せられていた。
うわうわと喚くリシェの体をぬいぐるみのように背後から抱き竦めるロシュは、美しいだけの外見を駆使しありったけの魅力的な笑みを浮かべる。
「お久しぶりです、私のリシェ」
「………??」
何なんだ、と怯えるあまり涙目になるリシェ。自分がいつの間にこの変質者のものになったのか全く理解出来ず、混乱しながら相手を見上げていた。
他の生徒達はそんな二人をまるで景色か何かのようにスルーして歩いて行く。他人だからこそどうでもいいのだろう。
「どこか痛い所はありませんか?異常があればいつでも保健室に来て下さってもいいのですよ」
「異常なのはあんたの頭じゃ…」
というか離せ、とぐいぐいもがく。
この学校に来てからというもの、ラスは元よりこの保健医に謎に懐かれているのが解せない。一介の生徒相手に過剰なまでのスキンシップは教師としてどうなのだろうか。
「ほら、少し前にちょっと入院していましたのでね…慢性的なあなた不足というか、何というか。退院してあなたの顔を見に行こうとしたら…邪魔してくる人が居たものですから」
「………」
そういえばしばらく見ていなかったな、と思い出すのと同時に、部屋まで来ていたのをラスが防いでいた記憶が蘇る。明らかな他人相手に良くそこまで出来るものだ、と余計ロシュが気持ち悪くなってきた。
リシェは強引にロシュの腕を振り払う。
あっ、と名残惜しそうに彼は切ない顔を向けると「あぁ」と悲しそうな声を上げた。
「何なんだあんたは。俺に構ってくるな!」
「そ、そんなぁ」
「そもそも俺はあんたに何の関係も無いじゃないか。一方的に変な気を起こされても困る!」
…まぁ確かに。
ロシュは可愛い顔でギリギリと歯軋りをして威嚇するリシェを前に、ううんと腕を組んで考え込んだ。
残念ながら、リシェには元々の記憶が全く無いので普通に説明しても理解出来ないだろう。いっその事、一思いに彼の頭を強く殴打したら記憶が蘇るかもしれないが流石にそれは別の問題が生じてくる。
ここからどうやって本来のリシェになってくれるのだろう、と本人を前に悩んだ。その間、リシェは延々とロシュに対する苦情を言い続ける。
「俺は平和に暮らしたいだけなんだ。それなのにお前らが勝手に変な事を言い出して俺を引き摺り込もうとしてくる。一体何なんだ?正直に言えば非常に気持ち悪い。とにかく気色悪い。お前だけじゃなくラスだって意味不明に近寄ってきて、部屋は同室にされるし延々と纏わりつかれるし、お前に至っては歩けば網を撒いてくる。俺は底引き網に釣られる魚か?大体、一人の時間が欲しくても取れない。ほぼ取れない。オマケにハトまで攻撃的だ。俺が何をしたっていうんだ?全部お前らのせいだ。この前中庭を歩いててゴミ箱が降ってきて頭に被ったり、帰り道に犬の糞を踏んだのだって、お前のせいに決まってる」
半分言い掛かりに近いが、自分の言いたい事を言い終えた後、妙にスッキリした面持ちでリシェは怒鳴った。
「分かったか?今後一切俺に変な気を起こしてくるなよ!」
長い言葉を言い終え、はぁはぁと息を吐く彼を、ロシュはきょとんとした面持ちで見下ろしていた。そしてしばらくした後、中性的な美しい顔を困惑の色に変えながら「…ご、ごめんなさい」と謝る。
「………」
ようやく理解してくれたのか、とリシェは内心ホッとした。これで変に付き纏われなくて済むかもしれない、と。念願の平和に過ごせる時がやってくるのだと。
しかし相手の言葉は、大変愕然とさせられるものだった。
「あの…聞いていませんでした…すみません」
「………」
…ずっと怒鳴り散らして不満をぶちまけたというのに、この馬鹿は聞いてもいなかっただと?何だこいつ?
一人の教師として生徒の話を聞かないというのは致命的なのではないか。呆れてものも言えない。
「お前、本当に生粋の馬鹿なんだな…」
リシェはぽかーんとした顔でロシュを見上げていた。
そんな嬉々とした言葉と同時に響くリシェの「うわー!!」という悲痛な叫び声。保健室の前を普通に歩いていただけだったが、通過した途端に保健医のロシュに腕を掴まれて引き寄せられていた。
うわうわと喚くリシェの体をぬいぐるみのように背後から抱き竦めるロシュは、美しいだけの外見を駆使しありったけの魅力的な笑みを浮かべる。
「お久しぶりです、私のリシェ」
「………??」
何なんだ、と怯えるあまり涙目になるリシェ。自分がいつの間にこの変質者のものになったのか全く理解出来ず、混乱しながら相手を見上げていた。
他の生徒達はそんな二人をまるで景色か何かのようにスルーして歩いて行く。他人だからこそどうでもいいのだろう。
「どこか痛い所はありませんか?異常があればいつでも保健室に来て下さってもいいのですよ」
「異常なのはあんたの頭じゃ…」
というか離せ、とぐいぐいもがく。
この学校に来てからというもの、ラスは元よりこの保健医に謎に懐かれているのが解せない。一介の生徒相手に過剰なまでのスキンシップは教師としてどうなのだろうか。
「ほら、少し前にちょっと入院していましたのでね…慢性的なあなた不足というか、何というか。退院してあなたの顔を見に行こうとしたら…邪魔してくる人が居たものですから」
「………」
そういえばしばらく見ていなかったな、と思い出すのと同時に、部屋まで来ていたのをラスが防いでいた記憶が蘇る。明らかな他人相手に良くそこまで出来るものだ、と余計ロシュが気持ち悪くなってきた。
リシェは強引にロシュの腕を振り払う。
あっ、と名残惜しそうに彼は切ない顔を向けると「あぁ」と悲しそうな声を上げた。
「何なんだあんたは。俺に構ってくるな!」
「そ、そんなぁ」
「そもそも俺はあんたに何の関係も無いじゃないか。一方的に変な気を起こされても困る!」
…まぁ確かに。
ロシュは可愛い顔でギリギリと歯軋りをして威嚇するリシェを前に、ううんと腕を組んで考え込んだ。
残念ながら、リシェには元々の記憶が全く無いので普通に説明しても理解出来ないだろう。いっその事、一思いに彼の頭を強く殴打したら記憶が蘇るかもしれないが流石にそれは別の問題が生じてくる。
ここからどうやって本来のリシェになってくれるのだろう、と本人を前に悩んだ。その間、リシェは延々とロシュに対する苦情を言い続ける。
「俺は平和に暮らしたいだけなんだ。それなのにお前らが勝手に変な事を言い出して俺を引き摺り込もうとしてくる。一体何なんだ?正直に言えば非常に気持ち悪い。とにかく気色悪い。お前だけじゃなくラスだって意味不明に近寄ってきて、部屋は同室にされるし延々と纏わりつかれるし、お前に至っては歩けば網を撒いてくる。俺は底引き網に釣られる魚か?大体、一人の時間が欲しくても取れない。ほぼ取れない。オマケにハトまで攻撃的だ。俺が何をしたっていうんだ?全部お前らのせいだ。この前中庭を歩いててゴミ箱が降ってきて頭に被ったり、帰り道に犬の糞を踏んだのだって、お前のせいに決まってる」
半分言い掛かりに近いが、自分の言いたい事を言い終えた後、妙にスッキリした面持ちでリシェは怒鳴った。
「分かったか?今後一切俺に変な気を起こしてくるなよ!」
長い言葉を言い終え、はぁはぁと息を吐く彼を、ロシュはきょとんとした面持ちで見下ろしていた。そしてしばらくした後、中性的な美しい顔を困惑の色に変えながら「…ご、ごめんなさい」と謝る。
「………」
ようやく理解してくれたのか、とリシェは内心ホッとした。これで変に付き纏われなくて済むかもしれない、と。念願の平和に過ごせる時がやってくるのだと。
しかし相手の言葉は、大変愕然とさせられるものだった。
「あの…聞いていませんでした…すみません」
「………」
…ずっと怒鳴り散らして不満をぶちまけたというのに、この馬鹿は聞いてもいなかっただと?何だこいつ?
一人の教師として生徒の話を聞かないというのは致命的なのではないか。呆れてものも言えない。
「お前、本当に生粋の馬鹿なんだな…」
リシェはぽかーんとした顔でロシュを見上げていた。
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