41 / 43
そのよんじゅう
大体人のせい
しおりを挟む
「捕まえましたよ、リシェ!!」
そんな嬉々とした言葉と同時に響くリシェの「うわー!!」という悲痛な叫び声。保健室の前を普通に歩いていただけだったが、通過した途端に保健医のロシュに腕を掴まれて引き寄せられていた。
うわうわと喚くリシェの体をぬいぐるみのように背後から抱き竦めるロシュは、美しいだけの外見を駆使しありったけの魅力的な笑みを浮かべる。
「お久しぶりです、私のリシェ」
「………??」
何なんだ、と怯えるあまり涙目になるリシェ。自分がいつの間にこの変質者のものになったのか全く理解出来ず、混乱しながら相手を見上げていた。
他の生徒達はそんな二人をまるで景色か何かのようにスルーして歩いて行く。他人だからこそどうでもいいのだろう。
「どこか痛い所はありませんか?異常があればいつでも保健室に来て下さってもいいのですよ」
「異常なのはあんたの頭じゃ…」
というか離せ、とぐいぐいもがく。
この学校に来てからというもの、ラスは元よりこの保健医に謎に懐かれているのが解せない。一介の生徒相手に過剰なまでのスキンシップは教師としてどうなのだろうか。
「ほら、少し前にちょっと入院していましたのでね…慢性的なあなた不足というか、何というか。退院してあなたの顔を見に行こうとしたら…邪魔してくる人が居たものですから」
「………」
そういえばしばらく見ていなかったな、と思い出すのと同時に、部屋まで来ていたのをラスが防いでいた記憶が蘇る。明らかな他人相手に良くそこまで出来るものだ、と余計ロシュが気持ち悪くなってきた。
リシェは強引にロシュの腕を振り払う。
あっ、と名残惜しそうに彼は切ない顔を向けると「あぁ」と悲しそうな声を上げた。
「何なんだあんたは。俺に構ってくるな!」
「そ、そんなぁ」
「そもそも俺はあんたに何の関係も無いじゃないか。一方的に変な気を起こされても困る!」
…まぁ確かに。
ロシュは可愛い顔でギリギリと歯軋りをして威嚇するリシェを前に、ううんと腕を組んで考え込んだ。
残念ながら、リシェには元々の記憶が全く無いので普通に説明しても理解出来ないだろう。いっその事、一思いに彼の頭を強く殴打したら記憶が蘇るかもしれないが流石にそれは別の問題が生じてくる。
ここからどうやって本来のリシェになってくれるのだろう、と本人を前に悩んだ。その間、リシェは延々とロシュに対する苦情を言い続ける。
「俺は平和に暮らしたいだけなんだ。それなのにお前らが勝手に変な事を言い出して俺を引き摺り込もうとしてくる。一体何なんだ?正直に言えば非常に気持ち悪い。とにかく気色悪い。お前だけじゃなくラスだって意味不明に近寄ってきて、部屋は同室にされるし延々と纏わりつかれるし、お前に至っては歩けば網を撒いてくる。俺は底引き網に釣られる魚か?大体、一人の時間が欲しくても取れない。ほぼ取れない。オマケにハトまで攻撃的だ。俺が何をしたっていうんだ?全部お前らのせいだ。この前中庭を歩いててゴミ箱が降ってきて頭に被ったり、帰り道に犬の糞を踏んだのだって、お前のせいに決まってる」
半分言い掛かりに近いが、自分の言いたい事を言い終えた後、妙にスッキリした面持ちでリシェは怒鳴った。
「分かったか?今後一切俺に変な気を起こしてくるなよ!」
長い言葉を言い終え、はぁはぁと息を吐く彼を、ロシュはきょとんとした面持ちで見下ろしていた。そしてしばらくした後、中性的な美しい顔を困惑の色に変えながら「…ご、ごめんなさい」と謝る。
「………」
ようやく理解してくれたのか、とリシェは内心ホッとした。これで変に付き纏われなくて済むかもしれない、と。念願の平和に過ごせる時がやってくるのだと。
しかし相手の言葉は、大変愕然とさせられるものだった。
「あの…聞いていませんでした…すみません」
「………」
…ずっと怒鳴り散らして不満をぶちまけたというのに、この馬鹿は聞いてもいなかっただと?何だこいつ?
一人の教師として生徒の話を聞かないというのは致命的なのではないか。呆れてものも言えない。
「お前、本当に生粋の馬鹿なんだな…」
リシェはぽかーんとした顔でロシュを見上げていた。
そんな嬉々とした言葉と同時に響くリシェの「うわー!!」という悲痛な叫び声。保健室の前を普通に歩いていただけだったが、通過した途端に保健医のロシュに腕を掴まれて引き寄せられていた。
うわうわと喚くリシェの体をぬいぐるみのように背後から抱き竦めるロシュは、美しいだけの外見を駆使しありったけの魅力的な笑みを浮かべる。
「お久しぶりです、私のリシェ」
「………??」
何なんだ、と怯えるあまり涙目になるリシェ。自分がいつの間にこの変質者のものになったのか全く理解出来ず、混乱しながら相手を見上げていた。
他の生徒達はそんな二人をまるで景色か何かのようにスルーして歩いて行く。他人だからこそどうでもいいのだろう。
「どこか痛い所はありませんか?異常があればいつでも保健室に来て下さってもいいのですよ」
「異常なのはあんたの頭じゃ…」
というか離せ、とぐいぐいもがく。
この学校に来てからというもの、ラスは元よりこの保健医に謎に懐かれているのが解せない。一介の生徒相手に過剰なまでのスキンシップは教師としてどうなのだろうか。
「ほら、少し前にちょっと入院していましたのでね…慢性的なあなた不足というか、何というか。退院してあなたの顔を見に行こうとしたら…邪魔してくる人が居たものですから」
「………」
そういえばしばらく見ていなかったな、と思い出すのと同時に、部屋まで来ていたのをラスが防いでいた記憶が蘇る。明らかな他人相手に良くそこまで出来るものだ、と余計ロシュが気持ち悪くなってきた。
リシェは強引にロシュの腕を振り払う。
あっ、と名残惜しそうに彼は切ない顔を向けると「あぁ」と悲しそうな声を上げた。
「何なんだあんたは。俺に構ってくるな!」
「そ、そんなぁ」
「そもそも俺はあんたに何の関係も無いじゃないか。一方的に変な気を起こされても困る!」
…まぁ確かに。
ロシュは可愛い顔でギリギリと歯軋りをして威嚇するリシェを前に、ううんと腕を組んで考え込んだ。
残念ながら、リシェには元々の記憶が全く無いので普通に説明しても理解出来ないだろう。いっその事、一思いに彼の頭を強く殴打したら記憶が蘇るかもしれないが流石にそれは別の問題が生じてくる。
ここからどうやって本来のリシェになってくれるのだろう、と本人を前に悩んだ。その間、リシェは延々とロシュに対する苦情を言い続ける。
「俺は平和に暮らしたいだけなんだ。それなのにお前らが勝手に変な事を言い出して俺を引き摺り込もうとしてくる。一体何なんだ?正直に言えば非常に気持ち悪い。とにかく気色悪い。お前だけじゃなくラスだって意味不明に近寄ってきて、部屋は同室にされるし延々と纏わりつかれるし、お前に至っては歩けば網を撒いてくる。俺は底引き網に釣られる魚か?大体、一人の時間が欲しくても取れない。ほぼ取れない。オマケにハトまで攻撃的だ。俺が何をしたっていうんだ?全部お前らのせいだ。この前中庭を歩いててゴミ箱が降ってきて頭に被ったり、帰り道に犬の糞を踏んだのだって、お前のせいに決まってる」
半分言い掛かりに近いが、自分の言いたい事を言い終えた後、妙にスッキリした面持ちでリシェは怒鳴った。
「分かったか?今後一切俺に変な気を起こしてくるなよ!」
長い言葉を言い終え、はぁはぁと息を吐く彼を、ロシュはきょとんとした面持ちで見下ろしていた。そしてしばらくした後、中性的な美しい顔を困惑の色に変えながら「…ご、ごめんなさい」と謝る。
「………」
ようやく理解してくれたのか、とリシェは内心ホッとした。これで変に付き纏われなくて済むかもしれない、と。念願の平和に過ごせる時がやってくるのだと。
しかし相手の言葉は、大変愕然とさせられるものだった。
「あの…聞いていませんでした…すみません」
「………」
…ずっと怒鳴り散らして不満をぶちまけたというのに、この馬鹿は聞いてもいなかっただと?何だこいつ?
一人の教師として生徒の話を聞かないというのは致命的なのではないか。呆れてものも言えない。
「お前、本当に生粋の馬鹿なんだな…」
リシェはぽかーんとした顔でロシュを見上げていた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった
無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。
そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。
チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。

ボクに構わないで
睡蓮
BL
病み気味の美少年、水無月真白は伯父が運営している全寮制の男子校に転入した。
あまり目立ちたくないという気持ちとは裏腹に、どんどん問題に巻き込まれてしまう。
でも、楽しかった。今までにないほどに…
あいつが来るまでは…
--------------------------------------------------------------------------------------
1個目と同じく非王道学園ものです。
初心者なので結構おかしくなってしまうと思いますが…暖かく見守ってくれると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる