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そのさんじゅうはち
当社比
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「ちょっと気になる事があるんだけどさ」
晴天のとある昼休み。
それまで屋上でランチを楽しんでいた最中、飲み物を買いに行ったリシェが居なくなったタイミングを見計らってラスはスティレンに話を切り出す。
「ん?」
自前で美容に良いドリンクを作成して持参していたスティレンは、水筒のキャップを捻ってゆっくりと口に運んだ。どうやら最近顔に出来物が出てきたのをきっかけに、肌に良いものを集めてデトックスウォーターを作る事にハマってしまったらしい。
ラスも一口飲んでみたものの、果実系の薄めの味がするだけでそこまで美味だとは思えなかった。
「先輩って、あんな顔して人の不幸を喜んでいるような節がある気がするんだけど」
「今頃気付いたの?」
それまでモヤモヤしていたラスは、あまりの即答振りに「え?」と顔を上げた。
「あいつは人の事に関して何の興味も無さそうな顔してるけど何気に性格悪いからね。外見に騙されちゃいけないのさ」
「………」
「何がきっかけでそれに気付いたの?」
何故かリシェの事に関してはドヤ顔をするスティレン。
まるで彼の事は何でも知っているという風だ。
「この前先輩の前で大量のセミアタックを喰らった事があって」
どんな状況だよ、と心の中で思ったが黙って話を聞く事にした。
「大量のセミに巻かれている時、一瞬奥で待機してる先輩が視界に入ったんだけど。先輩…笑ってたような気がするんだよね」
「ははぁん」
その時は必死でセミから逃げようとしていたのだが、不意に思い出しては気になったようだ。そこから心の中でずっと引っ掛かったまま。
こうして見れば完全にリシェは嫌な奴である。
「あー…でも俺でも笑うかもしれないね。大量のセミに巻かれるとか普通じゃ見ないもの。別にあいつの肩を持つ訳じゃないけど」
「そんなもんなの?」
「てか、あいつの姿に騙されてるの多くない?あいつが良いのは外側だけなんだから。これまで俺が他人に聞いてきた中で、あいつの良さを調査したら外見がいいっていうのが過半数なんだ(当社比)。根暗だし怒りっぽいくせによく泣くし、一体何がいいのか分からないよ」
何がいいのかと言われても返事に困る。しかも当社比とは。
比べ方が謎である。
ラスはううんと少しだけ考えこむ仕草を見せた後、はっきりと答えた。
「先輩の全部が好き」
「………」
スティレンは非常にウザそうな顔を見せていた。
「なんちゃらは盲目っていうけど、そこまでなの…きっつ…きっも…」
人様の好意を気持ち悪いとか言わないで欲しい。内心ショックを受けつつ、ラスは逆にスティレンに問い掛けた。
「じゃあ、スティレンの好きな人って誰なのさ?好きな人じゃなくても、ほら…理想的なタイプとか」
そこまで言うからにはさぞパーフェクトな人間を要求するのだろう。実際、自分が求める完璧な人間など居る訳が無い。誰しも何かしら欠点があってこそいいのだ。
「理想的なタイプだって?」
スティレンは腕を組み、何故かふふんと鼻を鳴らす。
「そうだね…見目麗しくて頭も良くて」
そう言いながら彼は胸ポケットから手鏡を出して身を整え始めた。
「肌はきめ細かくてスラっとしてて…見るからに御伽話の王子様みたいな出で立ちで」
「………」
話が止まらなくなりそうだ。
ラスは展開が読めてきたのでその場から静かに立ち去ろうと動いた。その間、スティレンは完全に自分の世界に入り込んで延々と語っていく。
「パッと見てとっつきにくい高嶺の花のようなさ…あっ、居るじゃん…俺の目の前に!!」
鏡を持ちながら、スティレンはラスに叫ぶように言った。しかしその時は既に彼だけではなく周囲の生徒達の姿は居らず、虚しく一人取り残されたような形になってしまう。
誰も居ない事に気付いたスティレンは、延々と一人で自分を褒める形になっていた現実を知り羞恥で顔を真っ赤にしていった。
「…ちょっと!!何で居なくなってんのさ!?」
彼が怒鳴ると同時に、無常にも昼休みの終わりを告げる鐘が校舎内に響き渡っていた。
晴天のとある昼休み。
それまで屋上でランチを楽しんでいた最中、飲み物を買いに行ったリシェが居なくなったタイミングを見計らってラスはスティレンに話を切り出す。
「ん?」
自前で美容に良いドリンクを作成して持参していたスティレンは、水筒のキャップを捻ってゆっくりと口に運んだ。どうやら最近顔に出来物が出てきたのをきっかけに、肌に良いものを集めてデトックスウォーターを作る事にハマってしまったらしい。
ラスも一口飲んでみたものの、果実系の薄めの味がするだけでそこまで美味だとは思えなかった。
「先輩って、あんな顔して人の不幸を喜んでいるような節がある気がするんだけど」
「今頃気付いたの?」
それまでモヤモヤしていたラスは、あまりの即答振りに「え?」と顔を上げた。
「あいつは人の事に関して何の興味も無さそうな顔してるけど何気に性格悪いからね。外見に騙されちゃいけないのさ」
「………」
「何がきっかけでそれに気付いたの?」
何故かリシェの事に関してはドヤ顔をするスティレン。
まるで彼の事は何でも知っているという風だ。
「この前先輩の前で大量のセミアタックを喰らった事があって」
どんな状況だよ、と心の中で思ったが黙って話を聞く事にした。
「大量のセミに巻かれている時、一瞬奥で待機してる先輩が視界に入ったんだけど。先輩…笑ってたような気がするんだよね」
「ははぁん」
その時は必死でセミから逃げようとしていたのだが、不意に思い出しては気になったようだ。そこから心の中でずっと引っ掛かったまま。
こうして見れば完全にリシェは嫌な奴である。
「あー…でも俺でも笑うかもしれないね。大量のセミに巻かれるとか普通じゃ見ないもの。別にあいつの肩を持つ訳じゃないけど」
「そんなもんなの?」
「てか、あいつの姿に騙されてるの多くない?あいつが良いのは外側だけなんだから。これまで俺が他人に聞いてきた中で、あいつの良さを調査したら外見がいいっていうのが過半数なんだ(当社比)。根暗だし怒りっぽいくせによく泣くし、一体何がいいのか分からないよ」
何がいいのかと言われても返事に困る。しかも当社比とは。
比べ方が謎である。
ラスはううんと少しだけ考えこむ仕草を見せた後、はっきりと答えた。
「先輩の全部が好き」
「………」
スティレンは非常にウザそうな顔を見せていた。
「なんちゃらは盲目っていうけど、そこまでなの…きっつ…きっも…」
人様の好意を気持ち悪いとか言わないで欲しい。内心ショックを受けつつ、ラスは逆にスティレンに問い掛けた。
「じゃあ、スティレンの好きな人って誰なのさ?好きな人じゃなくても、ほら…理想的なタイプとか」
そこまで言うからにはさぞパーフェクトな人間を要求するのだろう。実際、自分が求める完璧な人間など居る訳が無い。誰しも何かしら欠点があってこそいいのだ。
「理想的なタイプだって?」
スティレンは腕を組み、何故かふふんと鼻を鳴らす。
「そうだね…見目麗しくて頭も良くて」
そう言いながら彼は胸ポケットから手鏡を出して身を整え始めた。
「肌はきめ細かくてスラっとしてて…見るからに御伽話の王子様みたいな出で立ちで」
「………」
話が止まらなくなりそうだ。
ラスは展開が読めてきたのでその場から静かに立ち去ろうと動いた。その間、スティレンは完全に自分の世界に入り込んで延々と語っていく。
「パッと見てとっつきにくい高嶺の花のようなさ…あっ、居るじゃん…俺の目の前に!!」
鏡を持ちながら、スティレンはラスに叫ぶように言った。しかしその時は既に彼だけではなく周囲の生徒達の姿は居らず、虚しく一人取り残されたような形になってしまう。
誰も居ない事に気付いたスティレンは、延々と一人で自分を褒める形になっていた現実を知り羞恥で顔を真っ赤にしていった。
「…ちょっと!!何で居なくなってんのさ!?」
彼が怒鳴ると同時に、無常にも昼休みの終わりを告げる鐘が校舎内に響き渡っていた。
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