32 / 43
そのさんじゅういち
食の恐怖
しおりを挟む
俺はクリスマスに死ぬかもしれない…とリシェは恐々とする。
そんなもやもやした気持ちで寮に戻ると、ラスが続けて室内に入って来た。
リシェを探していたのか、妙に息が切れている。
「…先輩!!俺が迎えに行くまで待ってて下さいって言ったじゃないですかあ!!」
何故か半泣きの状態のラスは、リシェにそう言うなり彼を引き寄せてぎゅうっと抱き締める。ぐえ、と変な声を出しつつも彼の過度なスキンシップには完全に慣れたようで「離せ」と両腕で押しのけた。
「俺は今お前に構っている余裕なんてないのだ」
「?…どうかしたんですか?」
「どうしたも何も…」
それまで起きた事を事細かく説明した後、はぁ…と深い溜息を吐く。
「このままでいくとクリスマスが俺の命日になるだろう。あの女、忘れた頃にやってきて俺に余命宣告してきやがった。何なんだ?悪魔の使いか?」
良かれと思ってやっていたのが、却って裏目に出てしまうというリゼラの運の無さもそうだが、リシェも過剰に反応し過ぎなのではないかと思う。
ラスは「まぁまぁ…」と宥めた。
「そこまで凄かったんですか?前回…」
「お前、あのチョコを見ただろうが。ガッチガチに固いと思ったら急に粘土のような物が流れてきて、クレヨンを食ってるような味がしたんだぞ。後味はまるで泥水だ。俺は一体何を食わされていたんだ?むしろ、果たしてあれはチョコだったのか疑問だ。何か邪術で作り上げた物じゃないのか?」
挙句には見事に腹を壊して熱まで出たんだぞと苛立つ。
完全な健康体を取り戻すまで一週間は経過したかもしれない。
それなのにまた何かを作って持ってくる算段でいるのだあの女は、とリシェは敵意を丸出しにして歯軋りした。
「そこまで不器用には見えなかったんですけどねぇ…ラッピングも綺麗だったし。特に悪意を持っているって訳でも無いとは思いますけど…」
言いながら、ラスはまたライバルの肩を持ってしまったとハッと気付く。心の中で頭を抱え、冷や汗を流していた。
しかしチョコといえども、普通に溶かして成型させればどうにかなるような気もしなくはないのだが彼女はどうアレンジしてそのような物を作り上げてしまったのだろう。
あまりギリギリしてたら癖がついてしまいますよ、とラスはリシェの頰を両手で覆った。彼の頰は柔らかく、甘いものを好んで食べる割には吹き出物が一切無いので非常に触り心地が良い。
ふにふにと軽くマッサージしながら「次はちゃんと美味しいかもしれませんし」と続ける。
気休めを普通に言いのけるラスに、リシェは「適当な事をいうな!!」と吐き捨てた。当事者ではないからそんな悠長な事を言い張れるのだと泣きながら怒り出し、こちらは生命の危険があるんだと主張する。
「それならお前、俺の代わりに食え!!」
「無理です!!それだけは!!」
基本的にリシェの言う事に関しては比較的イエスマンのラスが嫌がるという事は、彼も良く理解しているのだろう。リゼラの調理能力が壊滅的に酷いという事に。
リシェにプレゼントされたバレンタインチョコの残酷な出来栄えを目の当たりにしたせいなのか、完全に嫁にしてはいけないタイプだと本能的に察知したのかもしれない。リシェに食ってみろと言われた瞬間、全身全霊で拒否感を覚えてしまった。
「だっ…大体、俺が貰った物ではないですし!!先輩に贈られた物なんですから、俺が口にするのは向こうにも失礼ですよ!!」
「その贈られた物で俺は命を落としそうになったんだぞ!!」
「命を落としそうな物を俺に薦めないで下さい!!まだ死にたくないです!!う、受け取るだけ受け取って、そのまま口にしなければいいじゃないですか!!」
泣いたままのリシェはぴたりと勢いを停止させた。
「…そ、そうか。別に受け取るだけでいいのかもしれないな…」
「そ、そうですよ…」
気持ちだけ有難いと思うのが一番ですから、と説得する。
ようやく落ち着いてきたのか、リシェは確かに受け取るだけで大丈夫だよな…と泣くのをやめると「別にあの女が中身を出して俺に無理矢理食わせる訳でもないだろうし」と考えを改めた。
それなら大丈夫かもしれない。
「その日に会わなければ良いのだ。真っ先に寮に戻れば何の問題もないはず」
「は…はあ…」
確かに前回の苦しみを目の当たりにすると、リシェがひどく警戒してしまうのは無理もない。
また寝込む姿を見るのも可哀想だと思う。
「上手い事スルー出来たら良いんですけど…」
リシェは恐怖のクリスマスを想像しながら「死ぬか生きるかの瀬戸際だな」と呻いていた。
そんなもやもやした気持ちで寮に戻ると、ラスが続けて室内に入って来た。
リシェを探していたのか、妙に息が切れている。
「…先輩!!俺が迎えに行くまで待ってて下さいって言ったじゃないですかあ!!」
何故か半泣きの状態のラスは、リシェにそう言うなり彼を引き寄せてぎゅうっと抱き締める。ぐえ、と変な声を出しつつも彼の過度なスキンシップには完全に慣れたようで「離せ」と両腕で押しのけた。
「俺は今お前に構っている余裕なんてないのだ」
「?…どうかしたんですか?」
「どうしたも何も…」
それまで起きた事を事細かく説明した後、はぁ…と深い溜息を吐く。
「このままでいくとクリスマスが俺の命日になるだろう。あの女、忘れた頃にやってきて俺に余命宣告してきやがった。何なんだ?悪魔の使いか?」
良かれと思ってやっていたのが、却って裏目に出てしまうというリゼラの運の無さもそうだが、リシェも過剰に反応し過ぎなのではないかと思う。
ラスは「まぁまぁ…」と宥めた。
「そこまで凄かったんですか?前回…」
「お前、あのチョコを見ただろうが。ガッチガチに固いと思ったら急に粘土のような物が流れてきて、クレヨンを食ってるような味がしたんだぞ。後味はまるで泥水だ。俺は一体何を食わされていたんだ?むしろ、果たしてあれはチョコだったのか疑問だ。何か邪術で作り上げた物じゃないのか?」
挙句には見事に腹を壊して熱まで出たんだぞと苛立つ。
完全な健康体を取り戻すまで一週間は経過したかもしれない。
それなのにまた何かを作って持ってくる算段でいるのだあの女は、とリシェは敵意を丸出しにして歯軋りした。
「そこまで不器用には見えなかったんですけどねぇ…ラッピングも綺麗だったし。特に悪意を持っているって訳でも無いとは思いますけど…」
言いながら、ラスはまたライバルの肩を持ってしまったとハッと気付く。心の中で頭を抱え、冷や汗を流していた。
しかしチョコといえども、普通に溶かして成型させればどうにかなるような気もしなくはないのだが彼女はどうアレンジしてそのような物を作り上げてしまったのだろう。
あまりギリギリしてたら癖がついてしまいますよ、とラスはリシェの頰を両手で覆った。彼の頰は柔らかく、甘いものを好んで食べる割には吹き出物が一切無いので非常に触り心地が良い。
ふにふにと軽くマッサージしながら「次はちゃんと美味しいかもしれませんし」と続ける。
気休めを普通に言いのけるラスに、リシェは「適当な事をいうな!!」と吐き捨てた。当事者ではないからそんな悠長な事を言い張れるのだと泣きながら怒り出し、こちらは生命の危険があるんだと主張する。
「それならお前、俺の代わりに食え!!」
「無理です!!それだけは!!」
基本的にリシェの言う事に関しては比較的イエスマンのラスが嫌がるという事は、彼も良く理解しているのだろう。リゼラの調理能力が壊滅的に酷いという事に。
リシェにプレゼントされたバレンタインチョコの残酷な出来栄えを目の当たりにしたせいなのか、完全に嫁にしてはいけないタイプだと本能的に察知したのかもしれない。リシェに食ってみろと言われた瞬間、全身全霊で拒否感を覚えてしまった。
「だっ…大体、俺が貰った物ではないですし!!先輩に贈られた物なんですから、俺が口にするのは向こうにも失礼ですよ!!」
「その贈られた物で俺は命を落としそうになったんだぞ!!」
「命を落としそうな物を俺に薦めないで下さい!!まだ死にたくないです!!う、受け取るだけ受け取って、そのまま口にしなければいいじゃないですか!!」
泣いたままのリシェはぴたりと勢いを停止させた。
「…そ、そうか。別に受け取るだけでいいのかもしれないな…」
「そ、そうですよ…」
気持ちだけ有難いと思うのが一番ですから、と説得する。
ようやく落ち着いてきたのか、リシェは確かに受け取るだけで大丈夫だよな…と泣くのをやめると「別にあの女が中身を出して俺に無理矢理食わせる訳でもないだろうし」と考えを改めた。
それなら大丈夫かもしれない。
「その日に会わなければ良いのだ。真っ先に寮に戻れば何の問題もないはず」
「は…はあ…」
確かに前回の苦しみを目の当たりにすると、リシェがひどく警戒してしまうのは無理もない。
また寝込む姿を見るのも可哀想だと思う。
「上手い事スルー出来たら良いんですけど…」
リシェは恐怖のクリスマスを想像しながら「死ぬか生きるかの瀬戸際だな」と呻いていた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。


学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる