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そのにじゅうさん
足癖
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やっぱり気に入ったんじゃないか…。
それからしばらく壺に入りっぱなしのリシェを前にラスは困りきっていた。ゆらゆらと揺れている大きなプラスチック製の壺の入れ物から、「うーん」と何かを考えている声がする。
この部屋に置かれても幅と大きさだけ取るのみで、実用性は無いと思う。もっと広い部屋ならば多少はインテリアとして使えるのかもしれないが。
「入るよ」
困り果てていた所で、ちょうどスティレンが扉を開けて室内に入ってきた。他人には自室に入る際にはノック位しろと激しく怒るくせに、自分が他人の部屋に入る時は遠慮無く勝手に入って来る。
自分はいいが他人は許さないという、身勝手この上ない性格だ。
ラスは室内に足を踏み入れるスティレンに、「見てよこれ」と話し掛ける。
「んん?何これ?」
いかにも怪しく、子供騙しのような作りをしている壺を眺める。
「先輩の実家から何かのお土産なんだってさ…先輩、気に入ったみたいで中に入ったまま出て来ないんだよ…」
依然として壺はゆらゆらしていた。
スティレンはへぇ…と壺の前に近付くと、何を思ったのか勢いを付けてそれを蹴りつけた。ボコン!!とプラスチックの凹む音が室内に響き、同時に中に居たリシェは憤慨しながら激しく揺れる。
「何だお前!!いきなり蹴飛ばすな!!足癖悪いな!!」
「あ、まだ入ってたんだぁ」
意地の悪い言い方をするスティレン。
「出て来ないって言ったじゃん…」
確実にわざとだというのが分かる。壺はゆらゆら揺れ、中から怒り狂うリシェの罵倒が聞こえてきた。
「普通いきなり蹴るか!?」
「えぇ…別にお前が居なくても俺は蹴っ飛ばしてたよ。何これ?って」
「山賊か何かか!?この野蛮人が!!」
学校内の廊下を歩くたび、他の生徒達の目線を奪ってしまうレベルの美少年同士の会話には到底思えない。見栄えだけは非常に良いのに実に勿体無いと思う。
実際一緒に歩いている同じ学年だろうが上級生だろうが確実に目を惹き付けるのだ。ある意味優越感を感じるものの、リシェは絶対に渡すものかと警戒してしまう。
黙っていれば非常に魅力的なのに。
「…うるっさ!根暗なお前にはちょうど良い住処じゃない。ずっとそこに居ればぁ?苔が生えてお似合いだろうよ」
スティレンはそう言いながら、室内を見回すとリシェの机にある書物を持ち出し壺の上…というより閉まり切った蓋の上に乗せ始める。
「あっ…何してるんだよ、スティレン」
「出れなくしてやろうかと思って。出たくなさそうだから」
ドサドサと上に乗せていくと、流石に違和感を覚えたのかリシェは壺の中から「おい」と声を上げた。
「何してるんだお前…何か乗せられてる気がする」
壺の動きが上からの重みで少しずつ収まってきた。
「どの位乗るのかなぁって思って。どうせお前、そこから出て来ないし」
教科書やら辞書やら、果てはリシェが個人的に図書館から借りてきた本をドサドサと乗せていく。乗せていくうちに結構な高さになった。
「…おい!!蓋が開けられないじゃないか!!余計な事をするな!!」
中から蓋を開けようと試みたらしく、リシェは更に怒りだした。
ラスは「もう…」と言いながら乗せられた書物を取り除いていく。
「俺がこいつの為に望むようにしてやっても、ラスが甘やかすから大して意味が無いじゃないさ」
完全に書物を取り除くと、リシェは蓋をスライドさせて開けた後でようやく顔だけ出現させる。
そして怒りに顔を真っ赤にしながら怒鳴ってきた。
「お前ら、俺を密閉して殺す気か!!」
自ら入ったくせに酷い言い草である。
ラスは苦笑しながら「いや、先輩がなかなか出て来ないから…」と宥めた。好きで入ったのに勝手に殺される気にならないで欲しい。
「被害者振んないでよ。自分で入ったくせにさ」
「蓋の上に物を乗せてくるな!!」
自ら密閉されにいってこれだ。
どうやら相当気に入ったらしいが、流石に大き過ぎて室内には置けない。ラスは「先輩」とリシェに言う。
「流石にこれは部屋には置けないですよ。寮側に引き取って何かに使って貰いましょう」
「…ちっ。それなら気が済むまでこの中に入る」
がぽん、と音を立てて再び蓋を閉めた。
ラスとスティレンは壺を前にお互い顔を見合わせる。どれだけお気に召したのかと。
スティレンは再び壺に激しく蹴りを入れると、リシェは「何だお前!!」と怒りの声を上げた。それでもスティレンはしれっとした顔をして再度壺を蹴飛ばす。
本当に足癖が悪い。もしかしたら育ちも悪いのかもしれない。
「え?俺じゃないよ。ラスがやったんだ」
「は!?お、俺じゃないです!!そんな訳ないじゃないですか!!」
それならこの野蛮人を止めろ!と揺れる壺。
「先輩が大好きなのに蹴るとか、出来る訳無いでしょう!」
いきなり罪を擦りつけられたラスは慌てて釈明する最中、スティレンは再びリシェが入る蓋の上に物を積み上げていた。
それからしばらく壺に入りっぱなしのリシェを前にラスは困りきっていた。ゆらゆらと揺れている大きなプラスチック製の壺の入れ物から、「うーん」と何かを考えている声がする。
この部屋に置かれても幅と大きさだけ取るのみで、実用性は無いと思う。もっと広い部屋ならば多少はインテリアとして使えるのかもしれないが。
「入るよ」
困り果てていた所で、ちょうどスティレンが扉を開けて室内に入ってきた。他人には自室に入る際にはノック位しろと激しく怒るくせに、自分が他人の部屋に入る時は遠慮無く勝手に入って来る。
自分はいいが他人は許さないという、身勝手この上ない性格だ。
ラスは室内に足を踏み入れるスティレンに、「見てよこれ」と話し掛ける。
「んん?何これ?」
いかにも怪しく、子供騙しのような作りをしている壺を眺める。
「先輩の実家から何かのお土産なんだってさ…先輩、気に入ったみたいで中に入ったまま出て来ないんだよ…」
依然として壺はゆらゆらしていた。
スティレンはへぇ…と壺の前に近付くと、何を思ったのか勢いを付けてそれを蹴りつけた。ボコン!!とプラスチックの凹む音が室内に響き、同時に中に居たリシェは憤慨しながら激しく揺れる。
「何だお前!!いきなり蹴飛ばすな!!足癖悪いな!!」
「あ、まだ入ってたんだぁ」
意地の悪い言い方をするスティレン。
「出て来ないって言ったじゃん…」
確実にわざとだというのが分かる。壺はゆらゆら揺れ、中から怒り狂うリシェの罵倒が聞こえてきた。
「普通いきなり蹴るか!?」
「えぇ…別にお前が居なくても俺は蹴っ飛ばしてたよ。何これ?って」
「山賊か何かか!?この野蛮人が!!」
学校内の廊下を歩くたび、他の生徒達の目線を奪ってしまうレベルの美少年同士の会話には到底思えない。見栄えだけは非常に良いのに実に勿体無いと思う。
実際一緒に歩いている同じ学年だろうが上級生だろうが確実に目を惹き付けるのだ。ある意味優越感を感じるものの、リシェは絶対に渡すものかと警戒してしまう。
黙っていれば非常に魅力的なのに。
「…うるっさ!根暗なお前にはちょうど良い住処じゃない。ずっとそこに居ればぁ?苔が生えてお似合いだろうよ」
スティレンはそう言いながら、室内を見回すとリシェの机にある書物を持ち出し壺の上…というより閉まり切った蓋の上に乗せ始める。
「あっ…何してるんだよ、スティレン」
「出れなくしてやろうかと思って。出たくなさそうだから」
ドサドサと上に乗せていくと、流石に違和感を覚えたのかリシェは壺の中から「おい」と声を上げた。
「何してるんだお前…何か乗せられてる気がする」
壺の動きが上からの重みで少しずつ収まってきた。
「どの位乗るのかなぁって思って。どうせお前、そこから出て来ないし」
教科書やら辞書やら、果てはリシェが個人的に図書館から借りてきた本をドサドサと乗せていく。乗せていくうちに結構な高さになった。
「…おい!!蓋が開けられないじゃないか!!余計な事をするな!!」
中から蓋を開けようと試みたらしく、リシェは更に怒りだした。
ラスは「もう…」と言いながら乗せられた書物を取り除いていく。
「俺がこいつの為に望むようにしてやっても、ラスが甘やかすから大して意味が無いじゃないさ」
完全に書物を取り除くと、リシェは蓋をスライドさせて開けた後でようやく顔だけ出現させる。
そして怒りに顔を真っ赤にしながら怒鳴ってきた。
「お前ら、俺を密閉して殺す気か!!」
自ら入ったくせに酷い言い草である。
ラスは苦笑しながら「いや、先輩がなかなか出て来ないから…」と宥めた。好きで入ったのに勝手に殺される気にならないで欲しい。
「被害者振んないでよ。自分で入ったくせにさ」
「蓋の上に物を乗せてくるな!!」
自ら密閉されにいってこれだ。
どうやら相当気に入ったらしいが、流石に大き過ぎて室内には置けない。ラスは「先輩」とリシェに言う。
「流石にこれは部屋には置けないですよ。寮側に引き取って何かに使って貰いましょう」
「…ちっ。それなら気が済むまでこの中に入る」
がぽん、と音を立てて再び蓋を閉めた。
ラスとスティレンは壺を前にお互い顔を見合わせる。どれだけお気に召したのかと。
スティレンは再び壺に激しく蹴りを入れると、リシェは「何だお前!!」と怒りの声を上げた。それでもスティレンはしれっとした顔をして再度壺を蹴飛ばす。
本当に足癖が悪い。もしかしたら育ちも悪いのかもしれない。
「え?俺じゃないよ。ラスがやったんだ」
「は!?お、俺じゃないです!!そんな訳ないじゃないですか!!」
それならこの野蛮人を止めろ!と揺れる壺。
「先輩が大好きなのに蹴るとか、出来る訳無いでしょう!」
いきなり罪を擦りつけられたラスは慌てて釈明する最中、スティレンは再びリシェが入る蓋の上に物を積み上げていた。
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