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そのじゅうはち
ガム
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ある日の教室内、休み時間の最中。
リシェは血相を変えながら何かを探していた。
個人の机の中や自分の鞄、果ては制服のポケットまで必死に探している。そんな従兄弟の様子を黙って見ているスティレンは、騒々しさに「何なの?」と眉間に皺を入れて怪訝そうな顔で聞いた。
「俺が買ってきたはずのガムが無い」
「は?」
ガム如きで…とスティレンは呆れる。
その為に血眼になってあちこち探しているとは、と。
「落としたんじゃないの?知らないうちにさ…小さいじゃん、ガムなんて」
「そんな訳あるか…小さい事には小さいけど、連結してるんだぞ」
連結して長いんだから気付かない訳がない、という彼の持論。
「また買い直したら?探している時は出て来ないもんだよ」
「お前みたいに何から何まですぐ買えばいいとか。物を大事にしていない証拠だ。誰でもすぐ買えると思ったら大間違いだぞ」
手を動かし、リシェはギリギリと歯軋りして反論した。
彼は別に不自由な生活を強いられている訳でも無いと思う。スティレンはリシェの反論を聞きながら溜息を吐いた。ガム程度の金額を惜しむ位困っているのかと疑問に感じる。
「お前、仕送りの中で小遣いは貰って無いの?」
「貰ってはいる。ただお前と違ってあまり使いたくないだけだ」
この学校で宿舎を利用している生徒達のほとんどは、生活に困らない程度に仕送りなどの援助を受けて生活している。宿舎に入る生徒は大抵はいい所出のお坊ちゃんが多く、それほど不自由な暮らしはしていないはずだ。
それなのにリシェは、子供でも買える金額のガムを探しながら苛々していた。
「何で無いんだ」
これだけ隈無く探しているのに、と悲しそうな顔をする。
「諦めなよ。どうせどうでもいい時に出てくるよ」
「昨日買って後で食べようって思って楽しみにしていたんだぞ。それなのに無くなるって…」
「どこに入れたのさ、それ」
「ちゃんと鞄のポケットに突っ込んだんだ」
そりゃ残念だったね…と無表情で言いながら、スティレンは自分のポケットから何かを出してその包装紙を剥がし、おもむろに口に含む。
「また買えばいいんじゃない」
涙目のリシェを前に彼はもっしゃもしゃと食べ始めた。
「新発売の梨味でしゅわっとするタイプのガムなんだ。折角楽しみにしていたっていうのにまた買いに出なければいけないのか?大体ここから出るのすら面倒だっていうのに…」
「ふーん」
スティレンは嘆くリシェの話を聞きながら、興味無さそうに口を動かしていた。口内は梨の味が広がり、更にその中に含まれていた粉が広がった後でしゅわっとした爽快さを感じる。
何これ、甘っ…。
噛みながらそう思った。
「放課後行っても売ってるかどうか分からないっていうのに」
「あるでしょ、新発売なら普通に…」
もう一つ口に放り込む。
やはり梨の後に出てくる爽快感。炭酸でも入っているのかと思う位、爽快感があり咽せそうになった。
「…っていうかこれ、甘すぎ…」
ぼそりと呟くスティレンに、リシェはようやく気がつく。妙にこの周辺が梨の匂いに包まれている事にも。
リシェは眉を寄せ、スティレンに「…なあ」と声をかける。
「ん?何?」
「お前さっきから何食ってるんだ?」
「あ?…ああ、これ?その辺にあったガム」
そう言いながらポケットから開封済みのガムを出す。それはまさしく今リシェが探していた新発売のガムそのものだった。
目にするなり「あぁあああああああああ!!!」と叫ぶ。
「うるっさい!!何お前!?」
あまりの大声に、教室中の生徒達は一気にこちらに注目した。
「それだよ!!勝手に食いやがってお前!!」
「は!?お前の下に落ちてて空いてないから食べただけでしょ!何が悪いのさ!?」
「やっぱりお前か、返せこの野郎!!」
「はぁあああ!?ガム如きでみっともないんだよ!!」
可愛らしい顔の二人組がお互い口汚く罵倒しながら取っ組み合いを始める。教室内は殺伐とした空気が流れ始めるが、ちょうど同時に担任のオーギュスティンが教室の中に入ってきた。
二人の尋常じゃない様子に驚いた彼は止めなさい!とすかさず止めに入る。
「なんですかあなた達は!」
とりあえず引き剥がし、宥めながら問い質した。真面目な生徒が取っ組み合いをするなど珍しい。
はぁはぁと呼吸を整えた後、リシェは「こいつが」と口を開いた。
「俺のガムを拾って勝手に食いやがったんです。俺が必死に探してたのを真近で見ているくせに」
「俺はその場で落ちてたのを拾っただけなんですけど!?」
それぞれの理由を聞き終えたオーギュスティン。
ガムで取っ組み合いの争いをするとか小学生でもしないだろう。
「何ですかその理由は…」
あまりにも幼稚過ぎる原因だ。
「そこまで言うなら返してやるよ!」
怒るスティレンは、開封済みのガムをリシェの顔面にバチンと投げつける。うぶぁ!と声を上げてそれを顔面に受け取めると、それを引っ掴み「何だその態度は!!」と激昂した。
「勝手に人様のガムを盗み食いしたくせに!この盗っ人!盗聴魔!!」
やられっぱなしに我慢出来ない様子のリシェ。
「あぁあ、もうやめなさい。…全く、いい年して何やってるんです…」
とりあえず二人に自分の席に着きなさいと命じる。
どうにか騒ぎを治めつつ、オーギュスティンは今の子は本当に良く分からない事で喧嘩をするんだなと脱力した。
リシェは血相を変えながら何かを探していた。
個人の机の中や自分の鞄、果ては制服のポケットまで必死に探している。そんな従兄弟の様子を黙って見ているスティレンは、騒々しさに「何なの?」と眉間に皺を入れて怪訝そうな顔で聞いた。
「俺が買ってきたはずのガムが無い」
「は?」
ガム如きで…とスティレンは呆れる。
その為に血眼になってあちこち探しているとは、と。
「落としたんじゃないの?知らないうちにさ…小さいじゃん、ガムなんて」
「そんな訳あるか…小さい事には小さいけど、連結してるんだぞ」
連結して長いんだから気付かない訳がない、という彼の持論。
「また買い直したら?探している時は出て来ないもんだよ」
「お前みたいに何から何まですぐ買えばいいとか。物を大事にしていない証拠だ。誰でもすぐ買えると思ったら大間違いだぞ」
手を動かし、リシェはギリギリと歯軋りして反論した。
彼は別に不自由な生活を強いられている訳でも無いと思う。スティレンはリシェの反論を聞きながら溜息を吐いた。ガム程度の金額を惜しむ位困っているのかと疑問に感じる。
「お前、仕送りの中で小遣いは貰って無いの?」
「貰ってはいる。ただお前と違ってあまり使いたくないだけだ」
この学校で宿舎を利用している生徒達のほとんどは、生活に困らない程度に仕送りなどの援助を受けて生活している。宿舎に入る生徒は大抵はいい所出のお坊ちゃんが多く、それほど不自由な暮らしはしていないはずだ。
それなのにリシェは、子供でも買える金額のガムを探しながら苛々していた。
「何で無いんだ」
これだけ隈無く探しているのに、と悲しそうな顔をする。
「諦めなよ。どうせどうでもいい時に出てくるよ」
「昨日買って後で食べようって思って楽しみにしていたんだぞ。それなのに無くなるって…」
「どこに入れたのさ、それ」
「ちゃんと鞄のポケットに突っ込んだんだ」
そりゃ残念だったね…と無表情で言いながら、スティレンは自分のポケットから何かを出してその包装紙を剥がし、おもむろに口に含む。
「また買えばいいんじゃない」
涙目のリシェを前に彼はもっしゃもしゃと食べ始めた。
「新発売の梨味でしゅわっとするタイプのガムなんだ。折角楽しみにしていたっていうのにまた買いに出なければいけないのか?大体ここから出るのすら面倒だっていうのに…」
「ふーん」
スティレンは嘆くリシェの話を聞きながら、興味無さそうに口を動かしていた。口内は梨の味が広がり、更にその中に含まれていた粉が広がった後でしゅわっとした爽快さを感じる。
何これ、甘っ…。
噛みながらそう思った。
「放課後行っても売ってるかどうか分からないっていうのに」
「あるでしょ、新発売なら普通に…」
もう一つ口に放り込む。
やはり梨の後に出てくる爽快感。炭酸でも入っているのかと思う位、爽快感があり咽せそうになった。
「…っていうかこれ、甘すぎ…」
ぼそりと呟くスティレンに、リシェはようやく気がつく。妙にこの周辺が梨の匂いに包まれている事にも。
リシェは眉を寄せ、スティレンに「…なあ」と声をかける。
「ん?何?」
「お前さっきから何食ってるんだ?」
「あ?…ああ、これ?その辺にあったガム」
そう言いながらポケットから開封済みのガムを出す。それはまさしく今リシェが探していた新発売のガムそのものだった。
目にするなり「あぁあああああああああ!!!」と叫ぶ。
「うるっさい!!何お前!?」
あまりの大声に、教室中の生徒達は一気にこちらに注目した。
「それだよ!!勝手に食いやがってお前!!」
「は!?お前の下に落ちてて空いてないから食べただけでしょ!何が悪いのさ!?」
「やっぱりお前か、返せこの野郎!!」
「はぁあああ!?ガム如きでみっともないんだよ!!」
可愛らしい顔の二人組がお互い口汚く罵倒しながら取っ組み合いを始める。教室内は殺伐とした空気が流れ始めるが、ちょうど同時に担任のオーギュスティンが教室の中に入ってきた。
二人の尋常じゃない様子に驚いた彼は止めなさい!とすかさず止めに入る。
「なんですかあなた達は!」
とりあえず引き剥がし、宥めながら問い質した。真面目な生徒が取っ組み合いをするなど珍しい。
はぁはぁと呼吸を整えた後、リシェは「こいつが」と口を開いた。
「俺のガムを拾って勝手に食いやがったんです。俺が必死に探してたのを真近で見ているくせに」
「俺はその場で落ちてたのを拾っただけなんですけど!?」
それぞれの理由を聞き終えたオーギュスティン。
ガムで取っ組み合いの争いをするとか小学生でもしないだろう。
「何ですかその理由は…」
あまりにも幼稚過ぎる原因だ。
「そこまで言うなら返してやるよ!」
怒るスティレンは、開封済みのガムをリシェの顔面にバチンと投げつける。うぶぁ!と声を上げてそれを顔面に受け取めると、それを引っ掴み「何だその態度は!!」と激昂した。
「勝手に人様のガムを盗み食いしたくせに!この盗っ人!盗聴魔!!」
やられっぱなしに我慢出来ない様子のリシェ。
「あぁあ、もうやめなさい。…全く、いい年して何やってるんです…」
とりあえず二人に自分の席に着きなさいと命じる。
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