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そのきゅうじゅうご

ラスくんの同級生側の憂鬱②

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 友人であるラスを夢中にさせるのは一体どんな人物なのか。ノーチェは、とにかくその正体を突き止めなければ気が済まない。
 長めの休み時間…昼休みだと、彼が行きそうな場所は限られてくる。流石に一年の教室や上級生が集まる各々の教室には遊びには行かないはずだ。仮に知り合いの上級生の教室だとしても、長居はしないだろう。
 ならば体育館か屋上か。
 体育館は前に探ったが、彼の姿は見かけなかった。
「屋上だね、屋上」
 ノーチェは腕組みをしながら、ふふんと鼻で笑う。
「でもよぉ、あいつがどこにふらつこうが結局戻って来るんだから別に良くね?会う相手なんかどうでもいいじゃんか」
 ゲームのアカウント名を知られたベルンハルドはあくびを噛み殺しながらノーチェに言った。
「毎回だよ、毎回!誰なのかその顔を拝んでやらなきゃ。もしかしたら脅迫されてるかもしれないじゃないか」
 ラスの性格からして、脅迫されているというのは考えにくいとキリルは思うが、謎の正義感に燃え始めているノーチェには言わないでおいた。
 屋上へ向かう階段を上りながら、どんな奴なのだろうと頭の中で想像する。さすがにこの学校の中でそんなに強面の先輩など居るはずはないのだが、ラスが心酔するレベルならばかなりの男前か頼もしいタイプの屈強な感じなのだろうか。
 どう考えても、そんな人が居るのかと疑問だ。
 扉の前に立ち、ノーチェは鼻息荒くしながら「きっとここに居るはずだよ」と二人に告げる。
「てか、ラスに直接携帯にかけてさあ、今どこに居るか聞けば良くね?」
 回りくどいんだよとベルンハルドは眉を寄せた。だがノーチェはそういうのじゃなくてさと言い返す。
「俺は先輩とやらの顔を見てみたいんだよ」
「先輩、ねぇ…」
 まあ、見るだけ見ようかとキリルが屋上への扉を開けると、開放的な景色と同時に奥のフェンス付近に居る人影が目に映った。
 あ、居る!とキリルは声を上げる。
 向こうも三人。三人って?とノーチェは眉を寄せた。
 目を凝らして見てみると、彼は「あれ?」と疑問符を口走る。
「先輩なんて居ないじゃん」
「んああ?」
 ベルンハルドはノーチェの視線の先に居る三人に視線を向けた。
「てか、一年じゃね?ラス以外の二人」
「先輩は?」
「先輩ってか、むしろラスが先輩」
「はあ?」
 どういう事なのか。
 一人はラスと似たような背丈の、華やかな雰囲気を持つ少年。もう一人は小柄な黒髪の地味そうな少年で、二人とも一年生の目印である赤のネクタイを締めている。
「ラス!ラスー!」
 ノーチェは思うより先に体が勝手に動いていた。
 ラスはその声に驚いた表情を見せる。同時に、一緒に居る一年生二人も。
「あれ、ノーチェ…どうしたんだよ?」
 至って普通な様子でラスは問う。
 一方でノーチェは下級生二人をじろりと軽く睨んだら後、どうしたもこうしたも無いよと文句ありげに言った。
「最近付き合いが悪いと思ったらさあ…何なの、この一年生は?」
「んん?先輩とスティレンの事?」
 キリルとベルンハルドも近付き、謎の二人の一年生をまじまじと眺める。
「ちょっと、何なのさ。ラス、あんたの友達なの?」
 あまりにもじろじろと見られ、一年生の一人…スティレンは嫌そうな表情を浮かべていた。
 後輩の立場にしては随分偉そうにしている。ベルンハルドはスティレンに対して半ばムッとしながら態度について指摘する。
「一年の割には態度デカくね?」
「あんたらが俺らをじろじろと見るからでしょ」
 お互いの視線を絡ませながら、火花を散らす二人にラスはまあまあと宥めるように笑った。
「一年のタイしてるけどさ、スティレンは俺らと同じ年なんだよ」
「は?じゃあ何で…ああ、はあ。そっか。なるほど」
 留年でもしたのかと納得しようとするのを、スティレンは「俺が希望して一年で編入したんだよ」と返した。
「はい?」
 意味がわからず、キリルは変な声を上げてしまった。
 そんな事が可能なのかと。
「このリシェに悪い虫が付かないように見張らなきゃいけないんだから。むしろ既にくっついてるけどね」
 リシェと言われた黒髪の少年は、外野の喧騒を無視するようにパンをひたすら食べていた。
 遠くで見た感じでは全く気にならなかったが、近くで見るとかなり目を惹きつける容姿を持っている。小顔で目は大きく、睫毛も長い。女かと見紛う程に。
 ノーチェはこいつがラスの言う先輩か、と睨んだ。
 こいつがラスを誘惑しやがったんだなと腹の底から苛立っていたその時。
「可愛い」
 ぽそりと聞こえる低めの声。
「可愛い…悪戯したい」
 はっ!?と変な声が上がった。
「べっ…ベルンハルド!?何言ってんの!?」
 ベルンハルドのおかしくなった発言を受け、ノーチェは引き気味に叫ぶ。他人にあまり興味を向けないタイプの友人の異常に、キリルもあんぐりと口を開いていた。
 一方で、外部の声を全く聞きもしないリシェは牛乳をストローで啜り続けていた。
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