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そのはちじゅうろく

トップレベルナルシスト

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 ラスは屋上に持ち寄った雑誌を穴が開く程無言のままで熟読していた。
 一緒に居たスティレンは紙パックのお茶を飲みながら、いつもは退屈そうな顔でパラパラとページをめくっている程度の彼が何故そんなに夢中になっているのかと興味を持つ。
 それまでフェンス越しに下校する生徒らを見下ろしていたのを止め、地べたであぐらをかいているラスに「何か面白い記事でもあった?」と聞いてみた。
 そこでラスはようやく顔を上げると、ふにゃりと表情を緩めた。幼さがまだ残る彼の顔は、大人になりかけた少年の雰囲気をはっきりと振り撒いている。
「好きな相手を効率良く振り向かせる方法だって!」
「へえ…」
 彼の事だからリシェをどう落とすか考えているのだろうが、そうはいかない。一番彼を知っているのは従兄弟である自分なのだ。
 内心スティレンは鼻で笑いながら、彼が真面目に見ている雑誌の項目を覗き込む。
「悩める男子に捧ぐ、気になる女子へのアピり方。…ねぇ、ラス。初っ端から多分間違ってると思うよ」
「えっ」
「どうせあんたの事だからリシェに対してのあれだと思うけどさ。女子でもないし」
 対象が女子ならリシェ相手には効きそうもない。
 しかもゲーセンデートで彼女が欲しいぬいぐるみを取ってあげよう、とか映えるスポットでツーショットで写真を撮るとか、リシェは絶対喜んだりしない。
「あいつが好きな事、良く理解してる?あいつは生まれつきのしょうもない根暗で隠キャ属性なんだよ。他人が賑わう場所はあまり好きじゃない性格さ。じめじめして苔むした奴なんだから、華やかな場所に行くと蒸発するレベルなのさ。あいつへのプレゼントなんて、ペットボトルのキャップとかちり紙でもいい位だよ」
 あまりのぼろくそ加減に、ラスは困惑した顔をした。
「スティレン」
「何さ」
「ほんとに、先輩が好きなの…?」
 ずず、と彼はパックの中のお茶を吸い上げる。
「好きとかじゃなくてさ。あいつは俺が居ないと駄目なんだよ。俺が世話してやらなきゃいけないの。昔からそう決まってるからね。何ていうかな、手元に置いて離しちゃいけないタイプ」
 それは十分分かっているが。
 別にリシェはスティレンが居なくても自分の事は自分でやるだろう。
「じゃあさ、スティレンは世界で誰が一番好きなのさ?」
 その質問に、彼は決まってるでしょ?とさも当たり前のような顔をした。
「そんなの、この俺に決まってるでしょ?見てよ、この美貌。完全に王子様みたいな外見だろ?体型もすらっとしてて細身だし。俺以外に魅力に満ち溢れる人間なんてそうそう居ないと思うよ」
 先程のリシェと比較すれば、何故ここまで明らかに違いが出るのだろう。リシェは落とすだけ落として、自分は自画自賛のレベルをかなり超えている。
 とにかく彼は自分が大好きなのは理解出来た。
 ラスは聞くだけ野暮な気がして、「そっか」とにっこり笑うと、再び雑誌に視線を落とした。
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