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そのはちじゅうさん

本当は実技がしたい

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 すみませんすみませんと謝りながら、ラスはリシェが欲しがっていたココアを作ってカップを持っていく。かなり沸騰していたので相当熱いが、じきに冷めていくだろう。
 リシェは礼を言ってそれを受け取ると、あついあついと言いながら机に一旦置いた。
「先輩」
「ん?」
 先輩ではないのに、ラスの自分に対する呼び方に慣れたせいなのか自然に反応してしまった。
「分からない事とかあれば…俺で良かったら教えますよ」
「………」
 意外な彼の申し出に、リシェは目を丸くした。
 ラスはほらっ、と慌てながら会話を続ける。
「一応、学年が上だからっ…」
 そのくせ先輩呼びをしてくるのか、と心の中で突っ込んでしまった。
「そうか。得意なのは何だ?得意な教科」
「得意なのですか?一応理数系とか…あとは」
「理数系か。分からなかったら聞こうかな。あとは?」
 更に込み入った事を聞いてみるリシェに、ラスは急にもじもじとしながら俯く。それを目の当たりにしたリシェは、きょとんとした顔を向けた。
 かあっと赤面しながら「そんな事を聞いちゃうのですかぁ」とやけに意味深に言い出した。
「何が言いたいんだお前?」
「ほ、ほら、得意っていうか、そのぉ…ぜひとも先輩が相手になって欲しいなあって」
「はあ?」
 分かってるくせに!と勿体ぶるように彼は照れ笑いする。何なのかさっぱり話が読めないリシェは、「何なんだ」と呆れた。
 たまに面倒になるなと話を切り出した事を後悔する。
「得意なのは、ほら。保健体育とか!!」
 …ああ、そうか。
 リシェは張り切って答えてきたラスを無視し、再び机に向かい宿題の続きを始めた。ラスはリシェに無視しないで下さいよ!と声を張り上げる。
 頰を赤らめながら恥を忍んで言ったのに、と。
 どこが恥を忍んでなのか分からないリシェはそれは別に教えなくていいと彼を突き放した。
「いや、そのうち先輩は俺と実技しますから!!」
 何故か決定事項にさせられ、リシェは再びラスに向き合い怒り出した。勝手に相手にされても迷惑な話だ。
「するか!!馬鹿!!」
「いや、しますって!ちゃんと段階は踏みますから!絶対先輩は俺を好きになる予定ですもん!」
 …意味が分からない。
 むしろこんなに断言するなんて、やはりこいつは危ない奴なのではないだろうかとすら思えてくる。
「先輩は未経験ですから不安でしょうが、必ず優しくしますから!ですから安心して下さいっ!」
「普通に怖いから真顔でそんな事言うな!!むしろ俺に近づくな、変態!!」
 むう、とラスは膨れる。
 まだリシェを完全にモノにするのはかなり時間がかかりそうだ。仕方無い、と彼は携帯電話を取り出すと「まあ、いいですよ」と呟く。
「しばらくは待ち受けの先輩の画像見てどうにかしますから」
 ちぇっ、と残念そうに言うと、携帯電話を手にしたまま洗面所へ向かった。
 リシェは「え?」と彼を見送る。
 どうにかするって。
 意味が分からない彼は、おもむろにトイレに向かった彼を追いかけた。
「どうにかするってどういう意味だ!!待ち受けの画像を使って何をするんだ!!開けろ馬鹿!!」
 壮絶な不気味さを感じながら、リシェは扉をバンバン叩き出した。すると奥に閉じこもっているラスは「実技出来ないんだから妄想するしか無いでしょー!?」と叫ぶ。
 全力で気持ち悪さを感じる。
 リシェは半泣きでやめろ!と言いながら扉を叩いた。
「う、うう…やだ…ほんとお前、気持ち悪い…」
 自分は一生こいつにまとわりつかれてしまうのかと悲しくなってきた。
 返事が返ってこない事に不安を抱く。
「おい、返事くらい…」
 しばらく音が聞こえなくなったかと思うと、やがて扉の奥から軽快なゲーム音がするのに気付く。
 リシェは「え?」と顔を上げた。
「ラス?」
「んー?」
「何してるんだ…?」
「何って、ゲームしてますよ」
 悪びれない彼の言葉に、リシェは脱力した。
「先輩、何を想像してたんですかぁ?いくら俺でも、先輩の前では先輩の画像で抜いたりなんかしませんよぉ」
 耳に入り込んでくる無機質なBGM。
 リシェはその泣き出しそうだった顔を今度はかああっと真っ赤させる。自分が何だか恥ずかしくなったのだ。
 そして更にリシェの怒りが増幅する。
 彼はわなわなと震えると、扉に向け思いっきり「お前なんか嫌いだ!!」と怒鳴りつけていた。
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