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そのななじゅうなな
孤独を好む者、意に反して騒きが忍び寄る
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とある日の昼休み。
アストレーゼン学園の中庭に設けられている噴水の縁に腰を掛けながら、リシェは一人でぼんやりと景色を眺めていた。
スティレンやラスの目をかいくぐり、ようやく一人でゆっくり出来る場所を見つけたのだ。一見目立ちそうな場所だったが他の生徒達に紛れるので割と目に付かないらしい。
ああ、何と平和なのだろう。
何げに目立つ場所もいいものだなと自由を実感する。毎日毎日騒がしいのに付き合うのもしんどいのだ。むしろ、彼らが勝手にくっついてくるのだからタチが悪い。
もくもくとパンを頬張る彼の横に、突如よっこらしょと声を出しながら腰を掛けてくる者が出現する。リシェはそれを見るなり、ええ…と心底嫌そうな顔を見せた。
「よっ、珍しいなリシェちゃん!」
いつもはジャージ姿のくせに、今日は珍しくスーツ姿の体育教師、ヴェスカ。
だらし無さそうなイメージだが、その体にしっかり合うようにオーダーメイドのものを身に付けているようで、無駄にそれが似合っていた。
こいつが隣に居れば意味無く目立つじゃないか、とリシェは瞬時に立ち上がったが「いやいや、何してんだよ」と腕を引っ張られて座らされてしまう。
「何かまずい事でもしたかあ?」
「してない。してないが目立ちたくないのだ、奴らに見つかってしまう」
「奴ら?」
何の事だとヴェスカは首を傾げた。
「俺は一人が気楽なんだ。それなのに奴らはいちいちそうさせまいと近付いてくる。やっと一人になれたと思っていたら今度はお前か」
「んんん?何かよく分からないけど追われてるのか?」
「追われてはいない。普通に一人が好きなのだ」
リシェは溜息を吐いた。
ヴェスカは手にしていた昼ご飯用のパンの封を開いてむしゃむしゃと食べながら「食うか?」と食いかけを寄越そうとしてきた。
「いらない。目立つから俺は離れるぞ」
「まあそう言うなって。不思議な事に、お前とはなかなか話しやすそうだって思ってたんだよ」
人の話を聞いてきたのか?とリシェは眉を寄せた。自分は目立たない場所に一人で休みたいのだ。それなのに、こいつはこちらを無視して自分の意見を通したいのだろうか。
リシェは俺は話す事なんか無いぞ!と怒る。
「何ていうんだろ?ほら、放っておけないオーラが出てるんだと思うんだよ。外見からしてそんな気がするんだよな、リシェちゃんは」
「俺は放っておいて欲しいのだ」
何故大して話をしていないヴェスカにまで言われるのだろうか。他の人間もべたべた引っ付いてくるし、煩わしいったらない。
リシェは頭を抱え、ぐねぐねと揺れる。
「俺は何か知らないうちに変な事を全員にしているのか」
苦悩している彼の横で、ヴェスカはバサバサと羽根を休めに来たらしい鳩数羽に自分のパンの餌付けを始めていた。
「みんなリシェちゃんが好きなんだろ」
「そんなはずは無い。俺は自分が知る限りでは何もしてないのだ。なのにいちいち構ってくる。寮の部屋だって、転入してしばらくは一人部屋でって説明されたのにいきなり相部屋に押し掛けて来るし。俺が何をしたって言うんだ」
餌付けをしているうちに、鳩は少しずつ増えてきた。ヴェスカも楽しくなってきたのか、「うは、凄げぇ」とリシェの話を聞きながら餌を撒き散らす。
「気付いたら周りは変態だらけだ。変な先生に変な事されるし、毎日気が休まった事なんかない。毎度毎度変な手紙は来るし、たまに靴箱に嫌がらせのようなナマコ入ってるし。何なんだこの学校は…」
頭を抱えているうちに、周りが猛禽類臭い事に気付いた。んあ?とゆっくりと頭を上げた瞬間、リシェはうわあああ!と悲鳴を上げて地面についていた足を上げる。
自分達を取り囲むように、大量の鳩が居た。
「凄えなこいつら、何か集団になってきたぞ。お互い示し合わせて来るんかなあ」
ヴェスカはニコニコしながらパンを千切っていた。鳩に襲撃経験を持つリシェはビクビク怯え、ヴェスカに「餌付けするな!!」と怒鳴った。
あまりの鳩の数に周りの生徒達も何だ何だと注目してくる。
「お前だろう、鳩を呼び寄せてるのは!俺は毎回毎回鳩から襲撃を食らってるんだぞ!」
「別に呼んでねえって、たまに餌を与える位でさあ。まさかこんなに来るなんて思わなかったし」
その時、一羽の鳩がリシェの肩に乗る。
ひっ、と怯える彼の頭に目掛け、鳩は軽めに突いてきた。
「ぎゃあ!!」
「リシェちゃん、鳩にまで好かれてんのか…」
「馬鹿言え!これが好いてる態度か!!食べ物じゃない、突くな!!」
抵抗し、手をばたつかせるリシェ。
鳩は揃ってバサバサと飛び去っていった。
見送りながらヴェスカは、泣きべそをかいているリシェに対し「いやあ、凄かった」と感動を述べる。
「鳩に懐かれるのもある意味才能じゃね?」
楽観的に捉えてくるヴェスカ。しかしリシェはそんな性格ではない。
才能だとしても全然嬉しくもないし、この無駄な才能を生かせる余裕も知能も無い。
「褒めているんだろうがちっとも嬉しく無い!俺の近くで二度と餌付けするな!!」
多分、ヴェスカが校内で餌付けするから学校に鳩が居るのだろう。
一人で休みたいのに、やはり休めない。
リシェはやはり泣きながら「俺は何て不幸なんだ」と自分の身に起きる出来事を嘆いていた。
アストレーゼン学園の中庭に設けられている噴水の縁に腰を掛けながら、リシェは一人でぼんやりと景色を眺めていた。
スティレンやラスの目をかいくぐり、ようやく一人でゆっくり出来る場所を見つけたのだ。一見目立ちそうな場所だったが他の生徒達に紛れるので割と目に付かないらしい。
ああ、何と平和なのだろう。
何げに目立つ場所もいいものだなと自由を実感する。毎日毎日騒がしいのに付き合うのもしんどいのだ。むしろ、彼らが勝手にくっついてくるのだからタチが悪い。
もくもくとパンを頬張る彼の横に、突如よっこらしょと声を出しながら腰を掛けてくる者が出現する。リシェはそれを見るなり、ええ…と心底嫌そうな顔を見せた。
「よっ、珍しいなリシェちゃん!」
いつもはジャージ姿のくせに、今日は珍しくスーツ姿の体育教師、ヴェスカ。
だらし無さそうなイメージだが、その体にしっかり合うようにオーダーメイドのものを身に付けているようで、無駄にそれが似合っていた。
こいつが隣に居れば意味無く目立つじゃないか、とリシェは瞬時に立ち上がったが「いやいや、何してんだよ」と腕を引っ張られて座らされてしまう。
「何かまずい事でもしたかあ?」
「してない。してないが目立ちたくないのだ、奴らに見つかってしまう」
「奴ら?」
何の事だとヴェスカは首を傾げた。
「俺は一人が気楽なんだ。それなのに奴らはいちいちそうさせまいと近付いてくる。やっと一人になれたと思っていたら今度はお前か」
「んんん?何かよく分からないけど追われてるのか?」
「追われてはいない。普通に一人が好きなのだ」
リシェは溜息を吐いた。
ヴェスカは手にしていた昼ご飯用のパンの封を開いてむしゃむしゃと食べながら「食うか?」と食いかけを寄越そうとしてきた。
「いらない。目立つから俺は離れるぞ」
「まあそう言うなって。不思議な事に、お前とはなかなか話しやすそうだって思ってたんだよ」
人の話を聞いてきたのか?とリシェは眉を寄せた。自分は目立たない場所に一人で休みたいのだ。それなのに、こいつはこちらを無視して自分の意見を通したいのだろうか。
リシェは俺は話す事なんか無いぞ!と怒る。
「何ていうんだろ?ほら、放っておけないオーラが出てるんだと思うんだよ。外見からしてそんな気がするんだよな、リシェちゃんは」
「俺は放っておいて欲しいのだ」
何故大して話をしていないヴェスカにまで言われるのだろうか。他の人間もべたべた引っ付いてくるし、煩わしいったらない。
リシェは頭を抱え、ぐねぐねと揺れる。
「俺は何か知らないうちに変な事を全員にしているのか」
苦悩している彼の横で、ヴェスカはバサバサと羽根を休めに来たらしい鳩数羽に自分のパンの餌付けを始めていた。
「みんなリシェちゃんが好きなんだろ」
「そんなはずは無い。俺は自分が知る限りでは何もしてないのだ。なのにいちいち構ってくる。寮の部屋だって、転入してしばらくは一人部屋でって説明されたのにいきなり相部屋に押し掛けて来るし。俺が何をしたって言うんだ」
餌付けをしているうちに、鳩は少しずつ増えてきた。ヴェスカも楽しくなってきたのか、「うは、凄げぇ」とリシェの話を聞きながら餌を撒き散らす。
「気付いたら周りは変態だらけだ。変な先生に変な事されるし、毎日気が休まった事なんかない。毎度毎度変な手紙は来るし、たまに靴箱に嫌がらせのようなナマコ入ってるし。何なんだこの学校は…」
頭を抱えているうちに、周りが猛禽類臭い事に気付いた。んあ?とゆっくりと頭を上げた瞬間、リシェはうわあああ!と悲鳴を上げて地面についていた足を上げる。
自分達を取り囲むように、大量の鳩が居た。
「凄えなこいつら、何か集団になってきたぞ。お互い示し合わせて来るんかなあ」
ヴェスカはニコニコしながらパンを千切っていた。鳩に襲撃経験を持つリシェはビクビク怯え、ヴェスカに「餌付けするな!!」と怒鳴った。
あまりの鳩の数に周りの生徒達も何だ何だと注目してくる。
「お前だろう、鳩を呼び寄せてるのは!俺は毎回毎回鳩から襲撃を食らってるんだぞ!」
「別に呼んでねえって、たまに餌を与える位でさあ。まさかこんなに来るなんて思わなかったし」
その時、一羽の鳩がリシェの肩に乗る。
ひっ、と怯える彼の頭に目掛け、鳩は軽めに突いてきた。
「ぎゃあ!!」
「リシェちゃん、鳩にまで好かれてんのか…」
「馬鹿言え!これが好いてる態度か!!食べ物じゃない、突くな!!」
抵抗し、手をばたつかせるリシェ。
鳩は揃ってバサバサと飛び去っていった。
見送りながらヴェスカは、泣きべそをかいているリシェに対し「いやあ、凄かった」と感動を述べる。
「鳩に懐かれるのもある意味才能じゃね?」
楽観的に捉えてくるヴェスカ。しかしリシェはそんな性格ではない。
才能だとしても全然嬉しくもないし、この無駄な才能を生かせる余裕も知能も無い。
「褒めているんだろうがちっとも嬉しく無い!俺の近くで二度と餌付けするな!!」
多分、ヴェスカが校内で餌付けするから学校に鳩が居るのだろう。
一人で休みたいのに、やはり休めない。
リシェはやはり泣きながら「俺は何て不幸なんだ」と自分の身に起きる出来事を嘆いていた。
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