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そのななじゅう

ドゥフッ

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 一緒に焼肉食べに行くって言ったじゃないですかあああ!!と夜分遅くに部屋に戻ったリシェはラスに泣きつかれていた。
 満足そうなリシェは「お前、ずっとロシュ様と喋ってるから」と完全に定着してしまったロシュの名前を引き出して言い訳をする。
 そこは先生ではないのか。
 ラスは半泣きになりながら「様って何ですか、様って!」と小柄なリシェの体を揺さぶる。
「…?俺、様とか言ったか?」
「言いました!!まるで完全に体に染み付いたようにすらっすらとロシュ様って!」
 何故様付けになったのか、リシェにも自覚が全く無い。
「スティレンに電話しても出ないし!先輩の電話番号知らないし!!」
「だって面倒だから…同じ部屋だし」
 もし教えたりすれば延々と連絡が来そうだった。
 そうなればとにかく面倒になる。
「お、俺って面倒なんですか!」
「面倒」
 連絡する相手はなるべく最小限にしておきたいリシェは、誰でも連絡を取れるようにしたいというラスの気持ちは全く分からないようだ。
 頻繁に無駄話をするのは時間の無駄だと思う彼は「お前にそこまで付き合えないよ」とそっけなく言った。
「そんなあ、先輩!!」
「同じ部屋なんだからいいだろう」
「同じ部屋だからこそ必要でしょう!」
 あれこれ言いあっていると、リシェの制服のポケットから呼び出し音が鳴り響いた。ラスはええっと何故か悲鳴を上げる。
 先輩の番号を知ってるのは誰ですか!と喚くラスを無視し、リシェは携帯電話の画面を眺めた。
「…はい」
 心底面倒そうに応対した後、スピーカーモードに切り替えた。その瞬間、おかしげな会話が部屋中に響き渡る。
 やけに鼻息が荒い。
『やっと繋がったー!!ドゥフッ!俺の可愛いリシェ!!何回電話したと思っていたと思うのでござるかー!』
 ラスはその変な口調に思考が停止した。
『リシェ!?聞いているのですかリシェ!俺に何の断りも無くっ、学び舎を変えるのでは無いのでござるよ!ゴゥフッ』
 どうやら噎せたらしい。
 リシェはうんざりしたように迷惑そうな溜息をついた。しかし電話の声は続く。
『折角リシェの為に可愛いコスプレ衣装を見立てたのに!!家に居ないとはどういうつもりですか!!お兄ちゃんお怒りですよ!もう、プンプン!』
 そのあまりの内容と腹の立つ言い方に、リシェはたちまち機嫌が悪そうな表情を見せていた。
 お兄ちゃん?とラスは呟く。
『今どこに居るのか教えなさーい!見つけ次第お尻ペンペンの刑です!その後用意したコスプレ衣装を着るのです!分かりましたか!!分かったら返事を…』
 忌々しそうにリシェは電話を握り締め、相手側に対して憎しみを込めた口調で返事をした。
「うるさい、死ね!!!」
『お兄ちゃんに向かって死ねは無いです!!それはいくら何でも悲しみますよ!!ちゃんとお兄ちゃんを敬いなさ…』
 ぶちりとそこで電話を切ってしまう。
 はあはあと肩を震わせるリシェに対し、ラスはあまり連絡を取りたがらない理由が分かってきた気がした。
 さすがにこれは連絡したくなくなる。
「…うん…なんか、もういいです。先輩、無理に番号、聞きませんから…」
 ラスはリシェに対して、妙な同情心が湧いてしまった。
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