70 / 101
そのろくじゅうきゅう
リシェは焼肉が食べたい
しおりを挟む
さあ寮に戻りましょうねとリシェを促したラスは、彼の手をしっかり取って校舎から寮への道を進んでいた。
それをスティレンが面白くなさそうに「子供じゃあるまいし」とぶっきら棒に言い放つ。一方でリシェは、先程ラスが放っていた焼肉ですよの言葉を期待し、その事ばかりを考えていた。
色恋より食欲らしい。
「うぇへへへ、先輩可愛い、先輩先輩」
こちらはこちらで手を繋いで脳が蕩けてきたのか、言語がおかしくなりつつある。それを見たスティレンは溜息を吐いた。
「まともなの、俺くらいじゃん…」
昇降口で靴を履き替えていると、お花畑状態な三人の背後から声がかかる。そしてその声は、ラスを正気に戻し感覚を研ぎ澄ませるには十分だった。
ぐるりと振り向き、不愉快そうな表情を見せる。
「おやおや」
落ち着いた大人の声の主は困った顔をした。
「私はただ声をかけただけなのにそんな怖い顔をしなくても…ええっと、ラス君?」
リシェの手を繋いでいるのを確認すると、彼…ロシュはぴくりと顔を引きつらせていた。
…私の!!リシェなのに!!
そう言いたいのをぐっと我慢する。
「何か用でもあるんですか?」
ラスはラスで、ここぞとばかりにリシェと手をしっかり繋いでいるのをアピールしていた。こんなに仲が良いのだというのを相手に見せつけてやらなければと。
にこやかに微笑むロシュ。
「つい仲良く歩いていましたから、微笑ましくてねぇ。まるで兄弟のように見えましたよ、ふふ」
「兄弟じゃなくて恋人ですけど」
ラスはロシュの言葉をムキになって訂正した。
殺伐としてくる雰囲気を余所に、リシェは焼肉…とひたすら個人的な妄想を巡らせていて心ここにあらずといった惚けた顔のままだ。
制服姿のリシェを見下ろしながら、ロシュは「へぇ」とラスの発言にぴくりと反応を見せる。
「恋人、ですか。この子はあなたと付き合っても構わないと?」
「う、うるさいなあ!俺は先輩と付き合いたいって何度も言ってるし!大体あんたには関係無いだろ!何なんだよ、先輩に対してしつこ過ぎるぞ!」
面倒なのに引っかかったなあとスティレンは腕組みしながらいがみ合う二人を交互に見ていた。
「リシェ、あなたは彼とお付き合いをしているのですか?正直に答えて下さい」
確認するべくロシュはリシェにそう話しかけたが、彼はぽかーんと口を開いたまま、全く関係無い事を口走った。
「焼肉」
完全にリシェは焼肉に意識が向いている。
ロシュは「へ?」と目を丸くした。
「俺は今から先輩と焼肉を食べるんだよ!邪魔しないでくれない!?」
「食べ物でこの子を釣らないで下さい!!」
「いつから先輩はあんたのものになったんだよ!」
不毛な争いを繰り広げている中、付き合っているスティレンは段々馬鹿馬鹿しくなってきた。彼は意識を焼肉に飛ばしていたリシェの手を「来な」と引っ張ると、その小さな体を自分に引き寄せる。
ふわりと風に揺れる黒い髪を優しく撫で、そっと両手でリシェを抱き止めながら「付き合ってらんないよ」と呟いた。
「リシェ、行くよ」
「?」
「着替えてから食べに行くんだよ」
「焼肉か」
「そう、焼肉。全くお前は食いしん坊だな」
このままリシェをかっさらって、二人だけで食べに行こうと考えたスティレンは靴をさっさと履き替えて校舎から出る。
「あいつはいいのか?」
「いいんだよ。ほっときな」
ご飯食べたいんだろ?と問えば、リシェはこくりと頷いた。
…俺だってこいつと二人っきりになりたいもんね。たまに出し抜いたってバチは当たらないさ。
さ、行くよとリシェを促して彼らを放置した。
その間、ラスとロシュはお互い火花を撒き散らしながら延々と言い争いを続けていた。
それをスティレンが面白くなさそうに「子供じゃあるまいし」とぶっきら棒に言い放つ。一方でリシェは、先程ラスが放っていた焼肉ですよの言葉を期待し、その事ばかりを考えていた。
色恋より食欲らしい。
「うぇへへへ、先輩可愛い、先輩先輩」
こちらはこちらで手を繋いで脳が蕩けてきたのか、言語がおかしくなりつつある。それを見たスティレンは溜息を吐いた。
「まともなの、俺くらいじゃん…」
昇降口で靴を履き替えていると、お花畑状態な三人の背後から声がかかる。そしてその声は、ラスを正気に戻し感覚を研ぎ澄ませるには十分だった。
ぐるりと振り向き、不愉快そうな表情を見せる。
「おやおや」
落ち着いた大人の声の主は困った顔をした。
「私はただ声をかけただけなのにそんな怖い顔をしなくても…ええっと、ラス君?」
リシェの手を繋いでいるのを確認すると、彼…ロシュはぴくりと顔を引きつらせていた。
…私の!!リシェなのに!!
そう言いたいのをぐっと我慢する。
「何か用でもあるんですか?」
ラスはラスで、ここぞとばかりにリシェと手をしっかり繋いでいるのをアピールしていた。こんなに仲が良いのだというのを相手に見せつけてやらなければと。
にこやかに微笑むロシュ。
「つい仲良く歩いていましたから、微笑ましくてねぇ。まるで兄弟のように見えましたよ、ふふ」
「兄弟じゃなくて恋人ですけど」
ラスはロシュの言葉をムキになって訂正した。
殺伐としてくる雰囲気を余所に、リシェは焼肉…とひたすら個人的な妄想を巡らせていて心ここにあらずといった惚けた顔のままだ。
制服姿のリシェを見下ろしながら、ロシュは「へぇ」とラスの発言にぴくりと反応を見せる。
「恋人、ですか。この子はあなたと付き合っても構わないと?」
「う、うるさいなあ!俺は先輩と付き合いたいって何度も言ってるし!大体あんたには関係無いだろ!何なんだよ、先輩に対してしつこ過ぎるぞ!」
面倒なのに引っかかったなあとスティレンは腕組みしながらいがみ合う二人を交互に見ていた。
「リシェ、あなたは彼とお付き合いをしているのですか?正直に答えて下さい」
確認するべくロシュはリシェにそう話しかけたが、彼はぽかーんと口を開いたまま、全く関係無い事を口走った。
「焼肉」
完全にリシェは焼肉に意識が向いている。
ロシュは「へ?」と目を丸くした。
「俺は今から先輩と焼肉を食べるんだよ!邪魔しないでくれない!?」
「食べ物でこの子を釣らないで下さい!!」
「いつから先輩はあんたのものになったんだよ!」
不毛な争いを繰り広げている中、付き合っているスティレンは段々馬鹿馬鹿しくなってきた。彼は意識を焼肉に飛ばしていたリシェの手を「来な」と引っ張ると、その小さな体を自分に引き寄せる。
ふわりと風に揺れる黒い髪を優しく撫で、そっと両手でリシェを抱き止めながら「付き合ってらんないよ」と呟いた。
「リシェ、行くよ」
「?」
「着替えてから食べに行くんだよ」
「焼肉か」
「そう、焼肉。全くお前は食いしん坊だな」
このままリシェをかっさらって、二人だけで食べに行こうと考えたスティレンは靴をさっさと履き替えて校舎から出る。
「あいつはいいのか?」
「いいんだよ。ほっときな」
ご飯食べたいんだろ?と問えば、リシェはこくりと頷いた。
…俺だってこいつと二人っきりになりたいもんね。たまに出し抜いたってバチは当たらないさ。
さ、行くよとリシェを促して彼らを放置した。
その間、ラスとロシュはお互い火花を撒き散らしながら延々と言い争いを続けていた。
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
片桐くんはただの幼馴染
ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。
藤白侑希
バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。
右成夕陽
バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。
片桐秀司
バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。
佐伯浩平
こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる