68 / 101
そのろくじゅうなな
キュンとする瞬間
しおりを挟む
真剣になって雑誌を眺めているラスに、スティレンは「何でそんなに真面目に読んでるの?」と問う。
リシェは無言でラスから与えられた焼きそばパンをもしゃもしゃと食べていた。たまに喉元に突っかかるのか、ううんと呻き声を上げる。
体育の時間にひたすら走り続けていたせいで、彼は空腹を訴えてきた為に、あらかじめ用意していたパンをプレゼントしていたのだ。
アストレーゼン学園のいつもの放課後の屋上。
生徒達は部活動や帰宅の時間の中、何故か無意味に三人で集まって駄弁っていた。
ラスは「気になる相手に振り向いて貰う方法だってさ」とスティレンに説明する。
「雑誌の薄っぺらい記事を真に受ける訳?」
「薄っぺらいって」
そんな事無いだろ、と半ばムッとしながらラスはひたすら読んでいく。スティレンは背後から覗き込みながら「へえ」と興味無さげに眺めた。
「気になるあの子と二人っきり、こうすればキュンとくるかもっ?はっ、くっだらな」
「うるさいなあ」
馬鹿にしてくるなら覗かないでよ、とラスは不機嫌そうに言った。しかしスティレンはいいじゃないと続ける。
一方でリシェはパンを口にしながら自分の携帯電話を眺めていた。その様子は、いかにも今風の高校生の姿だ。
「外でのデートもいいけど、家デートで二人きりで映画鑑賞もオススメ★切なくなれる恋愛映画でしんみりする分、お互いの距離も近くなれそう!コメディも楽しさを共有出来て、話の枠が広がるよ★」
ラスの背後からスティレンは雑誌の文面を声に出して読み始める。
はん、と鼻で笑う。
「こんなんで距離近くなるかっての」
「それはスティレンがそう思うだけでしょ…」
「俺はこんなんでキュンとしないよ、くっだらないね」
「へえ…じゃあどんな時にぐっとくるの?」
雑誌を閉じ、ラスはスティレンに問う。
彼はふふんと得意げに笑い、そんなに簡単には落ちる訳ないじゃないと返した。
「ラスはどうなのさ。俺は言葉ではなかなか言い表せないよ。ただ、こういう雑誌みたいに簡単な事じゃコロッと転がらないね」
「俺はぁ、ほら。先輩の仕草全てだから」
ちらりとリシェを見る。
リシェはパンを食べ終え、ペットボトルのお茶を数口飲んだ後でほうっと一息ついた。飲み口から唇を離す瞬間を見ると、スティレンは複雑な気持ちになった。
小さな唇と、細い飲み口。
「…ね?先輩、可愛いだろ?」
スティレンはふるふると首を振る。
「所詮リシェじゃないか」
リシェはこちらをちらりと見た。
「何だ?」
「俺は先輩にキュンとくるって話をしてたんですよ」
リシェは眉間に皺を寄せた。
めちゃくちゃ嫌がってるじゃん、とスティレンは思う。不愉快そうな彼に近付くと「今からそれ食べると晩ご飯も食べれなくなるよ」と告げる。
「晩ご飯も食べるし」
そう言いのけて再びペットボトルに唇をつけて飲み始めた。
こくこくと喉を鳴らしながら水分補給をしていく。スティレンはそれをじっと見る。
リシェはその後、飲み口からまたすぽんと小さな唇を離した。
少しばかりお茶を軽く零した為に舌の先をちらりと見せた瞬間、スティレンの胸元がぎゅうううっと締め付けられてしまう。
「あっ…ふ!!」
思わず胸をかきむしってしまった。
ラスは彼の様子に首を傾け「どうしたの?」と問いかけた。スティレンはどくどくと脈打つ胸を押さえ、くるりと振り返る。
まさか、今ここでそんな現象に陥ってしまったなんて言えない。くだらないと馬鹿にして、簡単な事では転がらないと豪語していたのに。
スティレンはぐぐっと照れ臭さを押さえる表情を見せながら、ラスにむけて何でもない!と強気の言葉を投げつけていた。
リシェは無言でラスから与えられた焼きそばパンをもしゃもしゃと食べていた。たまに喉元に突っかかるのか、ううんと呻き声を上げる。
体育の時間にひたすら走り続けていたせいで、彼は空腹を訴えてきた為に、あらかじめ用意していたパンをプレゼントしていたのだ。
アストレーゼン学園のいつもの放課後の屋上。
生徒達は部活動や帰宅の時間の中、何故か無意味に三人で集まって駄弁っていた。
ラスは「気になる相手に振り向いて貰う方法だってさ」とスティレンに説明する。
「雑誌の薄っぺらい記事を真に受ける訳?」
「薄っぺらいって」
そんな事無いだろ、と半ばムッとしながらラスはひたすら読んでいく。スティレンは背後から覗き込みながら「へえ」と興味無さげに眺めた。
「気になるあの子と二人っきり、こうすればキュンとくるかもっ?はっ、くっだらな」
「うるさいなあ」
馬鹿にしてくるなら覗かないでよ、とラスは不機嫌そうに言った。しかしスティレンはいいじゃないと続ける。
一方でリシェはパンを口にしながら自分の携帯電話を眺めていた。その様子は、いかにも今風の高校生の姿だ。
「外でのデートもいいけど、家デートで二人きりで映画鑑賞もオススメ★切なくなれる恋愛映画でしんみりする分、お互いの距離も近くなれそう!コメディも楽しさを共有出来て、話の枠が広がるよ★」
ラスの背後からスティレンは雑誌の文面を声に出して読み始める。
はん、と鼻で笑う。
「こんなんで距離近くなるかっての」
「それはスティレンがそう思うだけでしょ…」
「俺はこんなんでキュンとしないよ、くっだらないね」
「へえ…じゃあどんな時にぐっとくるの?」
雑誌を閉じ、ラスはスティレンに問う。
彼はふふんと得意げに笑い、そんなに簡単には落ちる訳ないじゃないと返した。
「ラスはどうなのさ。俺は言葉ではなかなか言い表せないよ。ただ、こういう雑誌みたいに簡単な事じゃコロッと転がらないね」
「俺はぁ、ほら。先輩の仕草全てだから」
ちらりとリシェを見る。
リシェはパンを食べ終え、ペットボトルのお茶を数口飲んだ後でほうっと一息ついた。飲み口から唇を離す瞬間を見ると、スティレンは複雑な気持ちになった。
小さな唇と、細い飲み口。
「…ね?先輩、可愛いだろ?」
スティレンはふるふると首を振る。
「所詮リシェじゃないか」
リシェはこちらをちらりと見た。
「何だ?」
「俺は先輩にキュンとくるって話をしてたんですよ」
リシェは眉間に皺を寄せた。
めちゃくちゃ嫌がってるじゃん、とスティレンは思う。不愉快そうな彼に近付くと「今からそれ食べると晩ご飯も食べれなくなるよ」と告げる。
「晩ご飯も食べるし」
そう言いのけて再びペットボトルに唇をつけて飲み始めた。
こくこくと喉を鳴らしながら水分補給をしていく。スティレンはそれをじっと見る。
リシェはその後、飲み口からまたすぽんと小さな唇を離した。
少しばかりお茶を軽く零した為に舌の先をちらりと見せた瞬間、スティレンの胸元がぎゅうううっと締め付けられてしまう。
「あっ…ふ!!」
思わず胸をかきむしってしまった。
ラスは彼の様子に首を傾け「どうしたの?」と問いかけた。スティレンはどくどくと脈打つ胸を押さえ、くるりと振り返る。
まさか、今ここでそんな現象に陥ってしまったなんて言えない。くだらないと馬鹿にして、簡単な事では転がらないと豪語していたのに。
スティレンはぐぐっと照れ臭さを押さえる表情を見せながら、ラスにむけて何でもない!と強気の言葉を投げつけていた。
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
片桐くんはただの幼馴染
ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。
藤白侑希
バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。
右成夕陽
バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。
片桐秀司
バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。
佐伯浩平
こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる