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そのろくじゅうよん

アクセとキスと電波受信

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 ラスは突然リシェに言い出した。
「お揃いで!何かが!欲しくないですか!?」
 お祓い済みで返却されたクマのぬいぐるみを抱き、リシェは無表情で「いらん」と返す。クマは相変わらずリシェに纏わりつくようにへばりついている(ように見える)。
 むう、と頰を膨らませるラス。
「俺は欲しい!先輩とお揃いの何かが欲しいのです!!むしろ先輩が欲しい!!」
 必死のラスを無視し、リシェはぬいぐるみをひたすら構い続けていた。
「先輩っ!」
「うるさいなあ」
 しつこいラスに対し、リシェは面倒臭そうに呟いた。クマは相変わらず彼の腕の中でふにょふにょと蠢いている。
 リシェの前にぺたりと座り込み、ひょいとクマを奪い取ると「欲しくないんですか!?」と訴えた。
「いらん」
「俺は先輩とお揃いの何かを毎日身につけたいんですよ!」
 まるで完全な恋人気分のような言い方だ。
 リシェはラスを見上げ、眉を寄せる。
「何かって、なんなんだ」
「えっと…例えばアクセとか。色違いで同じのを毎日身につけたら、いつでもお互いの事を思い出せるじゃないですか」
「俺はそんなに暇じゃない」
 ぷい、とリシェはラスを拒否するように顔を逸らした。揃いで何かが欲しいと訴えてられても、リシェはその類のものは面倒で身につけない性格だ。
 無くしそうだし。
「暇を見つける余裕を作って下さいよ!俺の事を思う余裕くらいあるでしょう!」
 ラスは悲痛な声を上げた。
「何で俺がお前の事を思わなきゃいけないんだ。特に思う事なんて」
 追い撃ちをかけるような言葉を話すにつれて、向かい合っているラスの表情は次第に泣き出しそうになっていく。
 それを目の当たりにするリシェ側はたまったものではない。
「…そんな顔をするな!」
「だって、先輩が冷たいんだもの!」
 リシェにとっては普通の事なのに、ラスには冷たいと思われてしまうのか。面倒過ぎて、リシェはつい溜息を吐いた。
「俺はアクセサリーを着ける趣味なんか無い。大体、お前はそれだけごちゃごちゃと着けておいてまだ足りないと言うのか?」
 確かに、数種類のピアスやらネックレスやら指輪やらを日替わりで着けているので、もう充分だろうと思われてしまう。
 ラスは自分の身なりを改めて見ると、途端に冷静になって「そりゃそうだ」と思い直した。
「えっと、じゃあ…」
 彼は色々考えた結果、自分が身に付けていたネックレスを外すとリシェに「これ着けて下さい」とにっこり笑いながら言った。
 彼には珍しく華美なものではないシンプルなデザインのネックレス。シルバー製の小さな羽根が真ん中で揺れている。
「後でお揃いのを俺が買うから」
「毎日着けなきゃいけないのか」
「リングとかブレスレットだと先輩邪魔だって嫌がるでしょ…」
 どうしてもラスは着けて欲しいらしい。
 これで嫌がれば、彼は泣くかもしれない。リシェは心底面倒な奴に引っかかってしまったと心の中で嘆いた。
「着けてあげます、先輩」
 ラスはリシェの首にそれを着けてやると、彼の服の中にネックレスを入れた。
 着けさせる段階でお互いの顔同士が近くなり、ラスはついどきりとする。リシェはラスを見ながら困った顔を見せて「近い」と言う。
 長い睫毛と大きな瞳、小さな鼻に柔らかそうな唇。見ようによっては完全に美少女なリシェを、今こうして間近で眺められる優越感がラスを支配する。
「…せんぱい」
「何だ?」
 湧き上がってくる心の奥の熱を滾らせ、ラスはリシェの頰に触れた。
「キス、したい」
「は?」
「キスしていい?」
「ダメだ」
 即拒否される。しかし、ここまで押して引き下がれない。ラスはリシェを引き寄せると、ぎゅうっと抱きしめた。
 うわあ!と悲鳴を上げながら離れようともがくリシェ。ラスはすかさず彼の頭を押さえ、逃げられないように自分の胸元にその身を固定した。
 ドキドキする。恐らく、リシェにもそれがバレているはずだ。こんなに強引にしているのに、腕は震えているのだから。
「離せったら!やだっ、や…」
 一方でリシェも慌て、ラスの腕から逃れる為に躍起になっていた。
「キスさせてくれたら離してあげる」
 我ながら無理矢理だと思う。でも、彼が欲しい。
 リシェの大きな瞳が震え、ラスを捉えた。
「ふざけ、る、なっ」
「ふざけてなんかないもん。俺は、先輩が好きなの。好きな相手が凄く近くに居るのに、何もしない訳にはいかないでしょう?」
 逃げ場の無いリシェはううっと呻き、押し迫るラスの胸元でもがいた。少し気を許せばすぐにこれだ、と呆れながら首を振る。
 彼の指がリシェの顎を掴んだ。
 あっ、と声を上げるリシェに顔を近付けながら「先輩、好き」と甘く囁く。
「だっ…だめだっ、てば…っ」
「好き」
 二人の影が完全に重なろうとしたその時。
 甘い雰囲気を木っ端微塵にする来訪者の殴り込みの声が飛び込んだ。しかもわざとらしい言い方で。
「邪魔するよ!!!」
 ばしーん!と扉が激しく開かれた。
「うわああああ!!」
 いかにも寸前を狙ったかのように、スティレンがずかずかと部屋に入ってきた。ラスの動きが止まったのを見計らって、リシェは彼から逃げるように離れる。
 危なかった、とドキドキする胸元を押さえながら。その側でショックを受けるラス。
「何やら怪しい電波を受信したのさ!」
「電波って何だよ、折角いい所だったのに!!」
「この俺を出し抜いてリシェにちょっかいをかけるなんて甘いんだよ!これからもいい雰囲気になったらことごとく邪魔してやるんだからね!」
 もう少しだったのに完全に水を差され、ラスは「あんまりだ!」と嘆いた。スティレンは勝ち誇ったようにふふんと得意げに笑う。
「キス位いいじゃないか!」
「嫌だね、許さないよ!この馬鹿は俺のなんだからね!変な虫が居たら徹底的に妨害してやる!」
 一方、何もしていないのに馬鹿扱いをされ、リシェはムカッとしたものの、従兄弟の空気の読めなさに救われて内心ホッとしていた。
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