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そのろくじゅうに
当たり付き自販機の確変
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毎度のように長い休み時間になるたびにリシェを屋上に引っ張り出そうとしてくるラスは、この日も彼を求めて教室へとやって来た。
「先輩!一緒にご飯の時間ですよ!」
どう見てもネクタイの色からして先輩はラスの方なので、周囲の生徒達はその会話が異質なものに聞こえてくる。
しかも転入生のリシェに対してそのようなことを言ってくるので、この二人の間に何か深いものがあるのだろうと勘ぐられていた。
「もう!何なのあんたは!そもそも年からしてこいつが先輩な訳ないでしょ!?」
周囲の生徒達の疑問に応えるかのように、スティレンはラスに向けて言った。
そんなスティレンの声をあっさりとかわすように「俺にとっては先輩なんだもん」とやたら爽やかにラスは微笑んだ。
「大体、先輩呼ばわりされてお前もいいの、リシェ!?年上に年上扱いされてるようなものじゃない!」
先日購入したコッペパンを鞄から出しているリシェは無表情のまま。キーキー怒り続けているスティレンを見上げ、不思議そうに首を傾げて何?と気の抜けた様子を見せていた。
何気に怒っているのはスティレンだけ。
「ほらぁ、先輩だって全然気にしてないみたいだし。突っかかってくるのはスティレンだけだよ」
じゃあ行きましょうか、とラスはリシェに話しかけると、彼も無言で席から立ちあがる。
「飲み物も買いたい」
「分かりました、じゃあそこの自販機で買ってから上に行きましょうね」
リシェもリシェで、別に満更でもない様子が余計苛立ってしまう。
そもそも何故彼は反論しないのだろう。反論するのがとにかく面倒臭いのだろうか。彼の性格上、呼び方はどうでもいいのかもしれないがスティレンには引っかかるものがあった。
「待ちな!俺も行くんだから!」
こいつに抜け駆けされてはたまったものではない。二人を追いかけ、廊下のすぐ傍にある自販機までくっついていく。
リシェとラスは教室を抜けた先の自販機の前で飲み物を選んでいた。
いつの間にかその自販機は新しいベンダーになっていて、気前良く当たり付きになっていた模様。数字が四つ揃うともう一本というものになっていた。
「へえ」
新品のベンダーを見回すラスは、一新された中身を確認して「飲み物も少し変わったんだ」と呟く。
「俺も買っておこう」
お金を投入し 、ラスはお茶のボタンを押した。押すと同時に数字が回り、四つの数字が抽選されていく。
結果、外れ。
まあこんなものだよねえと苦笑する横で、リシェもお茶のボタンを押した。そこでもやはり外れだった。
「そんなに当たるもんじゃないじゃない。俺も買おうっと」
「お茶を買うの?」
「一番無難でしょ。昼に甘いジュースなんて飲みたくないし」
スティレンも続けて同じお茶のボタンを押した。
ピロピロと数字が抽選されていくと、三文字目は合致する。
そして四文字目。
7777、というデジタルの数字が揃った。
「わ!見て見て!揃ったじゃん!さっすが俺!この機械、分かってるじゃない!」
「えぇえ 、凄いな。もう一本貰えるじゃない」
ラスがおめでとうと言って笑う横で、リシェも物珍しそうに7の羅列を眺めていた。
早めに押しておかないと終わっちゃいそうだよねと再びお茶のボタンを押す。再度抽選。
「さすがに二度目はないよねぇ」
あははと笑うスティレンだったが、今度は1111と揃う。
「は」
押した本人が驚いていた。
「うへええ!当たるもんだねえ、二度目!?」
「えぇえええ、凄くない俺!?儲け儲け!」
リシェはぽかんとした顔でスティレンを見た。そして得意げにまたコーヒーのボタンを押す。再度抽選開始。
次はさすがにね、と笑っていると3333の表示。
先に購入していたラスはペットボトルのお茶を飲んでいたが、その数字を見てつい軽く噴き出していた。
「…っげほっ!!げほっ!!」
「な、何これ!?俺凄くない!?こんな事ってある!?」
驚きすぎて噴き出したラスはせき込みながら信じられない様子で数字を見ていた。
空腹に耐えきれずにリシェはコッペパンの袋を開けてその場で食べ始める。
「ストック分にはいいかもだけど」
嬉しい悲鳴を上げつつ、またお茶のボタンを押す。
数字が回転をし、表示されたものは。
『8888』
思わずスティレンは隣でパンを無表情で頬張るリシェの頭をぱしんと叩いていた。
「痛い!!何をするんだ!」
「いや、夢じゃないかと思ってさ」
「俺で試すな!!」
ここまで延々と当たるという事などあるだろうか。
そこから二回続けたものの、やはり当選となって飲み物も持てなくなってきた。
「いい加減終われよ」
リシェも次第にうんざりしてきた様子。
「仕方ないだろ!俺の運が良すぎるんだから!」
これで昼休みが終わってしまう。ラスもついに昼ご飯をその場で食べる始末だ。
「じゃあお前が押しなよ、リシェ!どうせ当たるんだから!」
「もう…」
スティレンに促され、パンをもぐもぐと頬ばるリシェはまたお茶のボタンを押した。
結果、5556という数字が記されてしまう。
ようやく自販機の確変が終了したようだ。
「あ、終わった」
安堵するような顔をするラスだったが。
「…何終わらせてるんだよ!!」
スティレンはリシェの耳をぎゅううっと思いっきり引っ張り上げる。
「お前が押せって!お前から言い出したんだろうが!!終わって欲しくなかったらお前がやればよかったのに!痛い!」
あまりにも理不尽だ。
自分から押せと言ったくせに何怒ってるんだ、とリシェは逆に怒鳴っていた。
「先輩!一緒にご飯の時間ですよ!」
どう見てもネクタイの色からして先輩はラスの方なので、周囲の生徒達はその会話が異質なものに聞こえてくる。
しかも転入生のリシェに対してそのようなことを言ってくるので、この二人の間に何か深いものがあるのだろうと勘ぐられていた。
「もう!何なのあんたは!そもそも年からしてこいつが先輩な訳ないでしょ!?」
周囲の生徒達の疑問に応えるかのように、スティレンはラスに向けて言った。
そんなスティレンの声をあっさりとかわすように「俺にとっては先輩なんだもん」とやたら爽やかにラスは微笑んだ。
「大体、先輩呼ばわりされてお前もいいの、リシェ!?年上に年上扱いされてるようなものじゃない!」
先日購入したコッペパンを鞄から出しているリシェは無表情のまま。キーキー怒り続けているスティレンを見上げ、不思議そうに首を傾げて何?と気の抜けた様子を見せていた。
何気に怒っているのはスティレンだけ。
「ほらぁ、先輩だって全然気にしてないみたいだし。突っかかってくるのはスティレンだけだよ」
じゃあ行きましょうか、とラスはリシェに話しかけると、彼も無言で席から立ちあがる。
「飲み物も買いたい」
「分かりました、じゃあそこの自販機で買ってから上に行きましょうね」
リシェもリシェで、別に満更でもない様子が余計苛立ってしまう。
そもそも何故彼は反論しないのだろう。反論するのがとにかく面倒臭いのだろうか。彼の性格上、呼び方はどうでもいいのかもしれないがスティレンには引っかかるものがあった。
「待ちな!俺も行くんだから!」
こいつに抜け駆けされてはたまったものではない。二人を追いかけ、廊下のすぐ傍にある自販機までくっついていく。
リシェとラスは教室を抜けた先の自販機の前で飲み物を選んでいた。
いつの間にかその自販機は新しいベンダーになっていて、気前良く当たり付きになっていた模様。数字が四つ揃うともう一本というものになっていた。
「へえ」
新品のベンダーを見回すラスは、一新された中身を確認して「飲み物も少し変わったんだ」と呟く。
「俺も買っておこう」
お金を投入し 、ラスはお茶のボタンを押した。押すと同時に数字が回り、四つの数字が抽選されていく。
結果、外れ。
まあこんなものだよねえと苦笑する横で、リシェもお茶のボタンを押した。そこでもやはり外れだった。
「そんなに当たるもんじゃないじゃない。俺も買おうっと」
「お茶を買うの?」
「一番無難でしょ。昼に甘いジュースなんて飲みたくないし」
スティレンも続けて同じお茶のボタンを押した。
ピロピロと数字が抽選されていくと、三文字目は合致する。
そして四文字目。
7777、というデジタルの数字が揃った。
「わ!見て見て!揃ったじゃん!さっすが俺!この機械、分かってるじゃない!」
「えぇえ 、凄いな。もう一本貰えるじゃない」
ラスがおめでとうと言って笑う横で、リシェも物珍しそうに7の羅列を眺めていた。
早めに押しておかないと終わっちゃいそうだよねと再びお茶のボタンを押す。再度抽選。
「さすがに二度目はないよねぇ」
あははと笑うスティレンだったが、今度は1111と揃う。
「は」
押した本人が驚いていた。
「うへええ!当たるもんだねえ、二度目!?」
「えぇえええ、凄くない俺!?儲け儲け!」
リシェはぽかんとした顔でスティレンを見た。そして得意げにまたコーヒーのボタンを押す。再度抽選開始。
次はさすがにね、と笑っていると3333の表示。
先に購入していたラスはペットボトルのお茶を飲んでいたが、その数字を見てつい軽く噴き出していた。
「…っげほっ!!げほっ!!」
「な、何これ!?俺凄くない!?こんな事ってある!?」
驚きすぎて噴き出したラスはせき込みながら信じられない様子で数字を見ていた。
空腹に耐えきれずにリシェはコッペパンの袋を開けてその場で食べ始める。
「ストック分にはいいかもだけど」
嬉しい悲鳴を上げつつ、またお茶のボタンを押す。
数字が回転をし、表示されたものは。
『8888』
思わずスティレンは隣でパンを無表情で頬張るリシェの頭をぱしんと叩いていた。
「痛い!!何をするんだ!」
「いや、夢じゃないかと思ってさ」
「俺で試すな!!」
ここまで延々と当たるという事などあるだろうか。
そこから二回続けたものの、やはり当選となって飲み物も持てなくなってきた。
「いい加減終われよ」
リシェも次第にうんざりしてきた様子。
「仕方ないだろ!俺の運が良すぎるんだから!」
これで昼休みが終わってしまう。ラスもついに昼ご飯をその場で食べる始末だ。
「じゃあお前が押しなよ、リシェ!どうせ当たるんだから!」
「もう…」
スティレンに促され、パンをもぐもぐと頬ばるリシェはまたお茶のボタンを押した。
結果、5556という数字が記されてしまう。
ようやく自販機の確変が終了したようだ。
「あ、終わった」
安堵するような顔をするラスだったが。
「…何終わらせてるんだよ!!」
スティレンはリシェの耳をぎゅううっと思いっきり引っ張り上げる。
「お前が押せって!お前から言い出したんだろうが!!終わって欲しくなかったらお前がやればよかったのに!痛い!」
あまりにも理不尽だ。
自分から押せと言ったくせに何怒ってるんだ、とリシェは逆に怒鳴っていた。
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