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そのろくじゅう
運転手クロスレイの才能の無駄遣い
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週始めの初登校。
行くのが面倒だなあ、とスティレンは憂鬱な気分になりながら校舎へと向かっていた。相変わらずリシェは早めの登校で、待つ事を知らないので後でみっちり怒ってやろうと考える。
一緒の部屋ならそんな事でいちいち目くじら立てなくても良かったのにと悔やむが、今更そう思ってももうどうしようもないのだ。
小さな通路を抜け、正面入口に出る。
「………」
入口付近に、また白いリムジンが横付けされているのを視界の端に捉えるなり、スティレンは見なかった振りでそのまま下を向き先を急いだ。
あいつ、また来てるし!
その可憐な外見には全く似つかわしくない舌打ちをしつつ、苛々しながら昇降口まで急ぎ足で進んでいくが、相手はスティレンを見るやハンターのようにその姿を捉えて声を張り上げてきた。
「スッティレーン!!また来てあげたよ!ねえ、スティレン!!」
顔も見ていないのに何故自分が分かるのか。
確かに、自分はどの誰よりも美しくオーラがあるとは思っているが、そこまで神々しいものなのだろうか。
自分ほど超越した存在はそうそういやしないだろう。
彼は他人が聞けば眉を顰める自意識過剰っぷりを心の中で爆発させながらそろそろと声のした方向を振り返った。
「うふふ、やったぁ。おはよう、スティレン。こっちに来て!」
相変わらず白いリムジンの後部座席から身を乗り出し、小悪魔の表情を振りまくサキトはスティレンに言った。
はあ、と溜息をつき観念したようにスティレンはリムジンに近付く。朝の忙しい時間に、何故いちいち無駄な事をしたがるのだろうか。黙って自分の通う学校で大人しくすればいいのにと思わずにはいられない。
「なんなんですか」
「うっふ、ねえスティレン。また薄い本を持ってきたの。だからね、どうにかして試してみたいの。だから協力して欲しいなぁって★」
彼はそう言うなりコレクション化している例の薄い本をぴらっと見せてきた。
中身はカラーで肌色部分と白い部分、そして所々に黒く修正されている部分があちこちに見受けられる。前回見た時よりも酷く過激な描写となっていた。
スティレンはめちゃくちゃ嫌そうな顔をする。
「俺がそんな事をすると思いますか!」
「僕はして欲しいよぉ?」
きょとんとした顔をして彼は可愛らしく顔を傾けると、目をきらきらさせて「したいの!」と言い出す。
「おかしいでしょ!そもそも、何でそれを描いた人が俺の事を知ってる訳!?すっごく怖いんだけど!まさかいちいち情報をその人に垂れ流してるんじゃないだろうね!?」
想像すると非常に怖くなってきた。
しかしサキトは、「知ってるよぉ」と悪びれもせずに言い出す。
「だって、僕の目の前に居るもの。君の顔を知っていて、僕のファンで応援してくれる子」
「は!?」
彼はにこにこしながらリムジンの中の後部座席と運転席側を隔てたスライド式の小窓を開けた。スティレンは呆気に取られてその様子を眺める。
サキトは満面の笑みで、リムジンの運転席に向けて声をかけていた。
「ねっ、僕のファンで応援してくれてるよねぇ★クロスレイ!」
スティレンはズカズカとリムジンの運転席へと走った。そこにはスーツ姿のガタイのいい男が頼りなさそうに笑い、「はい、サキト様!」と答える。
あの汁だくの美少年の絡みの薄い本をお前のようなガチムチ男が描いて、このバカを喜ばせていたのか!とスティレンは目眩を覚えてしまった。
どう考えてもその手のものは描けそうにない純朴そのものの外見をしているくせして。
「さ、サキト様の為なら俺は何でも」
こいつは。
いくら何でもしてあげるにしても、限度があるだろう。無駄に綺麗な本を作ってあげるのも、才能の無駄遣いだと何故分からないのか。
「童貞みたいな顔して…!そんなに言うなら自分とご主人様の絡みでも描いてな、このド変態!!」
スティレンは運転手の男に対し、ありったけの侮蔑を込めて怒鳴っていた。
行くのが面倒だなあ、とスティレンは憂鬱な気分になりながら校舎へと向かっていた。相変わらずリシェは早めの登校で、待つ事を知らないので後でみっちり怒ってやろうと考える。
一緒の部屋ならそんな事でいちいち目くじら立てなくても良かったのにと悔やむが、今更そう思ってももうどうしようもないのだ。
小さな通路を抜け、正面入口に出る。
「………」
入口付近に、また白いリムジンが横付けされているのを視界の端に捉えるなり、スティレンは見なかった振りでそのまま下を向き先を急いだ。
あいつ、また来てるし!
その可憐な外見には全く似つかわしくない舌打ちをしつつ、苛々しながら昇降口まで急ぎ足で進んでいくが、相手はスティレンを見るやハンターのようにその姿を捉えて声を張り上げてきた。
「スッティレーン!!また来てあげたよ!ねえ、スティレン!!」
顔も見ていないのに何故自分が分かるのか。
確かに、自分はどの誰よりも美しくオーラがあるとは思っているが、そこまで神々しいものなのだろうか。
自分ほど超越した存在はそうそういやしないだろう。
彼は他人が聞けば眉を顰める自意識過剰っぷりを心の中で爆発させながらそろそろと声のした方向を振り返った。
「うふふ、やったぁ。おはよう、スティレン。こっちに来て!」
相変わらず白いリムジンの後部座席から身を乗り出し、小悪魔の表情を振りまくサキトはスティレンに言った。
はあ、と溜息をつき観念したようにスティレンはリムジンに近付く。朝の忙しい時間に、何故いちいち無駄な事をしたがるのだろうか。黙って自分の通う学校で大人しくすればいいのにと思わずにはいられない。
「なんなんですか」
「うっふ、ねえスティレン。また薄い本を持ってきたの。だからね、どうにかして試してみたいの。だから協力して欲しいなぁって★」
彼はそう言うなりコレクション化している例の薄い本をぴらっと見せてきた。
中身はカラーで肌色部分と白い部分、そして所々に黒く修正されている部分があちこちに見受けられる。前回見た時よりも酷く過激な描写となっていた。
スティレンはめちゃくちゃ嫌そうな顔をする。
「俺がそんな事をすると思いますか!」
「僕はして欲しいよぉ?」
きょとんとした顔をして彼は可愛らしく顔を傾けると、目をきらきらさせて「したいの!」と言い出す。
「おかしいでしょ!そもそも、何でそれを描いた人が俺の事を知ってる訳!?すっごく怖いんだけど!まさかいちいち情報をその人に垂れ流してるんじゃないだろうね!?」
想像すると非常に怖くなってきた。
しかしサキトは、「知ってるよぉ」と悪びれもせずに言い出す。
「だって、僕の目の前に居るもの。君の顔を知っていて、僕のファンで応援してくれる子」
「は!?」
彼はにこにこしながらリムジンの中の後部座席と運転席側を隔てたスライド式の小窓を開けた。スティレンは呆気に取られてその様子を眺める。
サキトは満面の笑みで、リムジンの運転席に向けて声をかけていた。
「ねっ、僕のファンで応援してくれてるよねぇ★クロスレイ!」
スティレンはズカズカとリムジンの運転席へと走った。そこにはスーツ姿のガタイのいい男が頼りなさそうに笑い、「はい、サキト様!」と答える。
あの汁だくの美少年の絡みの薄い本をお前のようなガチムチ男が描いて、このバカを喜ばせていたのか!とスティレンは目眩を覚えてしまった。
どう考えてもその手のものは描けそうにない純朴そのものの外見をしているくせして。
「さ、サキト様の為なら俺は何でも」
こいつは。
いくら何でもしてあげるにしても、限度があるだろう。無駄に綺麗な本を作ってあげるのも、才能の無駄遣いだと何故分からないのか。
「童貞みたいな顔して…!そんなに言うなら自分とご主人様の絡みでも描いてな、このド変態!!」
スティレンは運転手の男に対し、ありったけの侮蔑を込めて怒鳴っていた。
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