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そのごじゅうに
喚きの子守唄
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あの時の余韻が三日経過しても残るラスは、どこに行ってもにやにやしていて周囲から引かれていた。相当嬉しかったらしく、自らの唇に触れては勝手に赤面して顔が緩んでしまう。
酷い時は一人でんふ、んふふと薄気味悪い笑い声を出す始末。
放課後の校舎屋上。
結構な頻度で屋上に集まってしまうのは、よくリシェが一人の時間欲しさの為に足を踏み入れる為だ。だが今ではラスやスティレンが通ってくる。
リシェはそれが嫌で、屋上の倉庫の上で横たわり寝息を立てていた。それをあの二人は知らずに下で座り込み彼を待っている様子。
「はああ…ふあああ…」
スティレンはあまりの彼の薄気味悪さにドン引きしながら、何なのと眉をひそめる。
「さっきからそればっかり。いい加減キモいんだけど!何があった訳?」
「えええ?聞きたい?聞きたいの?」
どうしようかなぁ~?と言いたそうにするのが、やけに癪に障った。
そのやたらと勿体振る言い方に、更に短気なスティレンは苛立ってしまう。本当は言いたいんだろうが!と怒鳴り散らしてやりたいが、ここは自分が大人になるべきだろうと気を持ち直した。
自分はこいつらより大人になるべきなのだ。
こんなガキくさい奴らより優れているのだから、と。そして誰よりも美しいし。
「そんなににやにやしてると何かがあったんだろうって思うんだけど。周りから引かれてるの見えない?どう見ても変だよ」
「そっ、そうかなぁああ~!?んっふ、んふふふふふふ」
上擦ったラスの声。
スティレンは反射的に舌打ちした。
「だから!薄気味悪いんだってば!何があったのか言いな!!」
先程の冷静さは嘘なのか、スティレンはむかあっとなり怒鳴り散らす。
「先輩にぃ、うふふっ、キス…されちゃったあ」
浮かれたラスの言葉。
スティレンは「は?」と嫌そうに返した。
「寝ぼけてんの?あいつが他人にそうするはずないだろ」
「それがあ…んっふ、くふっ…本当なんだよねえ…ふふ、柔らかくてしっとりしてて最高」
「妄想が酷過ぎない?どうせゼリーか何かと勘違いしてるんでしょ。欲求が満たされないと妄想も激しくなる訳?」
きつめの言い方に、ラスは違いますうーと唇を尖らせる。言った所で信じては貰えないだろうとは思っていたが、やはりそうだった。
「なんなら先輩に聞いてみたら?先輩の反応で分かると思うよ。あの人体は正直だから」
「い、いやらしい言い方しないでくれない!?大体、あの根暗なリシェがあんたにキスするなんて有り得ないから!だってあのリシェだよ!?童貞が服着て歩いてるような奴が自分からキスするなんて無いから!ああ、絶対無いね!」
あのリシェだからいいのではないか、とラスは緩む表情を両手で押さえながら思った。あの時の事を思い出せば、リシェの可愛らしい顔が間近で見れたレア感だけでも得をした気分なのに口づけまでしてくれるなんて最高の幸運を貰ったようなものである。
一瞬だったものの、その後の彼の照れたような顔も可愛かった。
「何なの、ニヤニヤしないでよ!何かムカつくんだけど!!」
スティレンは半分言いがかりのようにラスに怒鳴る。何かムカつくとは怒る理由としては最低のレベルだが、そう言わずにはいられなかった。
「…てか、リシェ来ないんだけど!来たら問い詰めてやるんだから!リーシェー!早く来いっての!!あいつ、俺に携帯の番号教えてくれないんだよ!?信じらんない。後で強奪してでも聞かなきゃ」
「いや、それはスティレンがうるさいから教えてくれないんだよ…」
「…うっさいなあ!心配してやってるのに何が悪いのさ!早く来いっての、あの馬鹿は!」
下で喚くスティレンの声を子守唄にしながら、何も知らないリシェはうーんうーんと呻いて物置の屋根の上でうなされ続けていた。
酷い時は一人でんふ、んふふと薄気味悪い笑い声を出す始末。
放課後の校舎屋上。
結構な頻度で屋上に集まってしまうのは、よくリシェが一人の時間欲しさの為に足を踏み入れる為だ。だが今ではラスやスティレンが通ってくる。
リシェはそれが嫌で、屋上の倉庫の上で横たわり寝息を立てていた。それをあの二人は知らずに下で座り込み彼を待っている様子。
「はああ…ふあああ…」
スティレンはあまりの彼の薄気味悪さにドン引きしながら、何なのと眉をひそめる。
「さっきからそればっかり。いい加減キモいんだけど!何があった訳?」
「えええ?聞きたい?聞きたいの?」
どうしようかなぁ~?と言いたそうにするのが、やけに癪に障った。
そのやたらと勿体振る言い方に、更に短気なスティレンは苛立ってしまう。本当は言いたいんだろうが!と怒鳴り散らしてやりたいが、ここは自分が大人になるべきだろうと気を持ち直した。
自分はこいつらより大人になるべきなのだ。
こんなガキくさい奴らより優れているのだから、と。そして誰よりも美しいし。
「そんなににやにやしてると何かがあったんだろうって思うんだけど。周りから引かれてるの見えない?どう見ても変だよ」
「そっ、そうかなぁああ~!?んっふ、んふふふふふふ」
上擦ったラスの声。
スティレンは反射的に舌打ちした。
「だから!薄気味悪いんだってば!何があったのか言いな!!」
先程の冷静さは嘘なのか、スティレンはむかあっとなり怒鳴り散らす。
「先輩にぃ、うふふっ、キス…されちゃったあ」
浮かれたラスの言葉。
スティレンは「は?」と嫌そうに返した。
「寝ぼけてんの?あいつが他人にそうするはずないだろ」
「それがあ…んっふ、くふっ…本当なんだよねえ…ふふ、柔らかくてしっとりしてて最高」
「妄想が酷過ぎない?どうせゼリーか何かと勘違いしてるんでしょ。欲求が満たされないと妄想も激しくなる訳?」
きつめの言い方に、ラスは違いますうーと唇を尖らせる。言った所で信じては貰えないだろうとは思っていたが、やはりそうだった。
「なんなら先輩に聞いてみたら?先輩の反応で分かると思うよ。あの人体は正直だから」
「い、いやらしい言い方しないでくれない!?大体、あの根暗なリシェがあんたにキスするなんて有り得ないから!だってあのリシェだよ!?童貞が服着て歩いてるような奴が自分からキスするなんて無いから!ああ、絶対無いね!」
あのリシェだからいいのではないか、とラスは緩む表情を両手で押さえながら思った。あの時の事を思い出せば、リシェの可愛らしい顔が間近で見れたレア感だけでも得をした気分なのに口づけまでしてくれるなんて最高の幸運を貰ったようなものである。
一瞬だったものの、その後の彼の照れたような顔も可愛かった。
「何なの、ニヤニヤしないでよ!何かムカつくんだけど!!」
スティレンは半分言いがかりのようにラスに怒鳴る。何かムカつくとは怒る理由としては最低のレベルだが、そう言わずにはいられなかった。
「…てか、リシェ来ないんだけど!来たら問い詰めてやるんだから!リーシェー!早く来いっての!!あいつ、俺に携帯の番号教えてくれないんだよ!?信じらんない。後で強奪してでも聞かなきゃ」
「いや、それはスティレンがうるさいから教えてくれないんだよ…」
「…うっさいなあ!心配してやってるのに何が悪いのさ!早く来いっての、あの馬鹿は!」
下で喚くスティレンの声を子守唄にしながら、何も知らないリシェはうーんうーんと呻いて物置の屋根の上でうなされ続けていた。
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