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そのよんじゅうきゅう
ぼっちスティレンと清掃の彼
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…あいつら、俺を差し置いてどこに行ったのさ!
ぐぬぬと施錠された寮の部屋の前でスティレンは苛立つ。恐らくラスがリシェを引っ張り出したのだろうが、何故こちらに何の許可も無く出て行ってしまうのだろう。
一人でぷりぷりと怒りながら彼らが戻ってくるのを待っていると、寮の廊下の清掃をしていた青年がこちらをじいっと見ている事に気がついた。
スティレンは青年に気付くと、ぶっきら棒に「何さ」と声を上げる。
「何をしているのかって?こいつらが戻って来るのを待ってるんだよ。悪い?大体、俺がリシェと同室になりたいから待ってくれってあんたらに言ったのにさ、いきなり横からラスがねじ込まれてくるんだもん。酷くない?人の話聞いてないよね、最初からさあ」
喋っていて段々苛々してくるのを自分でも感じる。
今更言っても仕方ない事を訴えてもどうしようもないのは分かっているくせに。
一方の青年の方は、へえと無表情にスティレンに言葉を返すと「それは残念だったね」と分かった風な態度を示した。
「事務の方も押し切られた感じだったからね。向こうはどうしても同室になりたいって言い張っていたからやむなく変更したみたいだし。そんなにあの転入生が気に入ったの?」
「気に入るも何も、俺はあいつの従兄弟なんだけど!あいつをほっぽりだしておくと変なのが寄り付いてくるから監視しないといけないんだよ!現にもう変なのが張り付いてるし!冗談じゃないよ、何で赤の他人に同室の席を譲る形になる訳?その辺はあんたらが融通してくれて当然だろ!」
青年は表情を全く変えないままでスティレンに近付いた。
何なのさと彼はムスッとする。相手は身長も自分より頭一つ分高く、顔を上げないと目線が合わないのが気に入らない。
「何だよ」
「君はとても寂しがり屋のようだね」
「は?」
突然何を言い出すのかと怪訝そうに眉を寄せた。
「見た感じではずっとここに張り付いてるようだし。とにかく暇を持て余してるんだろう」
「暇じゃないし!」
むかっとしながらスティレンは躍起になって反論する。
一方的に怒り出す彼を、相手の青年はスルーするように「今日は休みだからいつ帰ってくるか分からないだろうね」と無機質に返していた。
感情をあまり出さないタイプなのか、その言葉がやけに冷たく感じる。緩いウェーブがかった髪の、ひょろっとした優男風なのに。
「うるっさいなぁ!!俺が好きで待ってるんだからほっといてよ!」
「そう。ならいいけど」
さかさかと箒で周囲を掃き清め、彼はそっけない顔のまま「暇ならたまにはこっちに付き合って貰おうかと思っていたのに」と意味不明な事を言い出した。
当然、スティレンは「はあ?」と問う。
青年は「寮生棟から離れた所に職員専用の宿舎がある。気が向いたら僕の部屋に来るといい」とスティレンの耳元に優しく囁いた。
どういう意味なのかと彼を見返す。
「大体、部屋に行って何をするのさ。俺、あんたの名前すら知らないし!」
「僕はソレイユ。ちゃんと部屋の表札に書いてあるから。ソレイユ=ラース=ヴェルサボルトってね。君は見た感じ怖いもの知らずな所がありそうだから、大丈夫だろうしね」
清掃の彼はそう言うと、スティレンにふふっと魅惑的な笑みを浮かべる。それまで笑う事などなかったのに、やけにそれが印象的に見えてしまった。
そこで初めてスティレンは動揺してしまう。
「な…何をするつもりなの?」
「さあ…何かなあ。まあ、君次第だけどね。別に食う訳じゃないから大丈夫だよ。食って欲しいなら食うけど」
「なら行く訳ないでしょ!?」
ソレイユはふっと吹き出すと、「君は多少の事ではびくともしなさそうだから言ったんだよ」と言うと、夜の暇な時で構わないよと立ち去ってしまった。
…また廊下にぽつりと一人になる。
怖いもの知らず?びくともしない?
意味が分からないとスティレンは立ち尽くし、一体何をされるのかと無性に気になってしまった。
ぐぬぬと施錠された寮の部屋の前でスティレンは苛立つ。恐らくラスがリシェを引っ張り出したのだろうが、何故こちらに何の許可も無く出て行ってしまうのだろう。
一人でぷりぷりと怒りながら彼らが戻ってくるのを待っていると、寮の廊下の清掃をしていた青年がこちらをじいっと見ている事に気がついた。
スティレンは青年に気付くと、ぶっきら棒に「何さ」と声を上げる。
「何をしているのかって?こいつらが戻って来るのを待ってるんだよ。悪い?大体、俺がリシェと同室になりたいから待ってくれってあんたらに言ったのにさ、いきなり横からラスがねじ込まれてくるんだもん。酷くない?人の話聞いてないよね、最初からさあ」
喋っていて段々苛々してくるのを自分でも感じる。
今更言っても仕方ない事を訴えてもどうしようもないのは分かっているくせに。
一方の青年の方は、へえと無表情にスティレンに言葉を返すと「それは残念だったね」と分かった風な態度を示した。
「事務の方も押し切られた感じだったからね。向こうはどうしても同室になりたいって言い張っていたからやむなく変更したみたいだし。そんなにあの転入生が気に入ったの?」
「気に入るも何も、俺はあいつの従兄弟なんだけど!あいつをほっぽりだしておくと変なのが寄り付いてくるから監視しないといけないんだよ!現にもう変なのが張り付いてるし!冗談じゃないよ、何で赤の他人に同室の席を譲る形になる訳?その辺はあんたらが融通してくれて当然だろ!」
青年は表情を全く変えないままでスティレンに近付いた。
何なのさと彼はムスッとする。相手は身長も自分より頭一つ分高く、顔を上げないと目線が合わないのが気に入らない。
「何だよ」
「君はとても寂しがり屋のようだね」
「は?」
突然何を言い出すのかと怪訝そうに眉を寄せた。
「見た感じではずっとここに張り付いてるようだし。とにかく暇を持て余してるんだろう」
「暇じゃないし!」
むかっとしながらスティレンは躍起になって反論する。
一方的に怒り出す彼を、相手の青年はスルーするように「今日は休みだからいつ帰ってくるか分からないだろうね」と無機質に返していた。
感情をあまり出さないタイプなのか、その言葉がやけに冷たく感じる。緩いウェーブがかった髪の、ひょろっとした優男風なのに。
「うるっさいなぁ!!俺が好きで待ってるんだからほっといてよ!」
「そう。ならいいけど」
さかさかと箒で周囲を掃き清め、彼はそっけない顔のまま「暇ならたまにはこっちに付き合って貰おうかと思っていたのに」と意味不明な事を言い出した。
当然、スティレンは「はあ?」と問う。
青年は「寮生棟から離れた所に職員専用の宿舎がある。気が向いたら僕の部屋に来るといい」とスティレンの耳元に優しく囁いた。
どういう意味なのかと彼を見返す。
「大体、部屋に行って何をするのさ。俺、あんたの名前すら知らないし!」
「僕はソレイユ。ちゃんと部屋の表札に書いてあるから。ソレイユ=ラース=ヴェルサボルトってね。君は見た感じ怖いもの知らずな所がありそうだから、大丈夫だろうしね」
清掃の彼はそう言うと、スティレンにふふっと魅惑的な笑みを浮かべる。それまで笑う事などなかったのに、やけにそれが印象的に見えてしまった。
そこで初めてスティレンは動揺してしまう。
「な…何をするつもりなの?」
「さあ…何かなあ。まあ、君次第だけどね。別に食う訳じゃないから大丈夫だよ。食って欲しいなら食うけど」
「なら行く訳ないでしょ!?」
ソレイユはふっと吹き出すと、「君は多少の事ではびくともしなさそうだから言ったんだよ」と言うと、夜の暇な時で構わないよと立ち去ってしまった。
…また廊下にぽつりと一人になる。
怖いもの知らず?びくともしない?
意味が分からないとスティレンは立ち尽くし、一体何をされるのかと無性に気になってしまった。
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