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そのよんじゅうご
深層意識
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ううんと呻き声を上げながら、オーギュスティンは自宅の寝室で寝入っていた。学校に近く、一人暮らしにしては広い設計の部屋を借りている彼は休日となれば半日は睡眠で費やしている。
白と黒を基調としているシックな部屋。
あまり飾り立てたくなくてカラフルさを欠いた結果、このようにある意味飾り気の無い部屋となっていた。
「それは食べ物ではありません…ヴェスカ…」
謎の夢を見てうなされているのだろう。
一人暮らしのオーギュスティンの部屋に、突如鍵を開けて入り込む二人組の姿。鍵を渡されているという事は、親しい仲なのだろう。
二人とも顔はそっくりだが、髪型が違うので判別はしやすい。一人は短くややトゲトゲした頭。もう一人はやや長く、ゆるふわなふんわりした髪型。
いずれもまだ子供のあどけなさがある。
「オーギュスティン、まーた寝てるのかあ」
「休みだもんね。疲れが溜まってるんだよ」
二人はそろそろと彼のベッドへ近付いた。
「ま、お陰で作業が捗るからねっ」
「今日はどんな事を話してくれるかなあ」
よっこいしょ、とトゲトゲ頭の少年はベッドの端に腰をかけると、ゆるふわ頭の少年の方は椅子を持ち寄りベッドの横に座った。
さあてと、とにこやかにゆるふわ頭はノートを開く。
「さ、始めるよぉ★」
その合図と共に、ううとオーギュスティンが呻いた。
わくわくと期待に満ちる二人。
オーギュスティンは一度眠るとなかなか目を覚まさないので、抜群の調査対象だった。しばらくすると、オーギュスティンはもそもそと眠りながら話し始める。
「何でカメムシを食べるんですか!」
意味不明な寝言を聞くと同時に、ゆるふわ頭の彼はさらさらとメモを取った。トゲトゲの方はぶふっと吹き出す。
「どんな夢見てるんだよ!」
「誰かがカメムシを食べようとしてるみたいね、ふふ」
二人はこうして休みのたびにオーギュスティンの寝言を聞き取りに来ているようだ。
その寝言がとにかく変なので、メモを取ってみたら楽しいのではないかと話していたのがそもそもの始まり。
ある日は「それはよだれかけです!」と言い、またある日は「鼻血が出るからやめなさい」と宥める言葉を放ち、別の日には「鉛筆を転がしても答えは出ませんよ」と妙に現実的な寝言を放つ。
日常生活に疲れている為か、やたらと言葉が出ていた。
「今日はレベルが高いな」
「メモのしがいがあるよぉ。んふふ、オーギュスティンったら可愛い寝顔して変な寝言ばっかり言ってるからね」
にこにこと笑いつつ、次の寝言を待った。
「ん…んん…だめです…だめですったら…」
やや色気づいたセリフに、二人は顔を見合わせる。
まさかエッチな寝言か、とドキドキして様子を見ていると、オーギュスティンはううと唸った。
「ふ…ああっ、んふ…うう」
悩ましげな寝言に、ゆるふわ君はああんと恍惚感に満ち溢れた声を上げていた。
「んもう、オーギュスティンったらエッチなんだからぁっ…いやらしい声を出しちゃいけないんだよう」
そう言いながらメモを取り続ける。
「ルシルはエロネタに敏感だよなぁ」
「ふーんだ。ルイユだって好きなくせにぃ」
先程の寝言からしばらくすると、ベッドから衣擦れの音が聞こえる。やがて「う…」とオーギュスティンはようやく目を開けた。
謎の気配を感じて彼は意識をはっきりさせると、何故か目の前に居る少年達に気付く。
がばりと体を起こし、切れ長の目を見開きながら「えっ!?えっ!?」と彼らを交互に見ていた。
「おはよ、オーギュスティン!」
「よう、オーギュスティン!やっぱ休みだと起きるの遅いなあ」
「いっ、いつの間に!?」
本人は知らなかったらしく、二人を見ながらかなり動揺していた。
「僕達ね、君から貰った鍵で休みの度にお邪魔して寝言のメモをしてたの。君の寝言楽しくて」
「な、な…何のために?」
可愛らしい顔立ちの双子は、同時に顔を見合わせるとやけに笑顔で「面白いから!」と言った。
かくりとオーギュスティンは脱力する。
「一番良かったのはね、『ああんやめて下さい、私そこ弱いんです!』っていうの!君の寝言の中で第一位だよ!」
「は…はああ!?そんな事を私は」
「言ってた!メモしてきたからね、ちゃあんと!」
たちまちオーギュスティンは顔を真っ赤にする。
知らぬとはいえ、何というセリフを吐いていたのだろう。情けなくて消えたい気分になった。
「あとはね、『私を苛めて下さいヴェスカ様!』…どういう事?」
その言葉に酷く反応し、オーギュスティンは「いやああああああなんなんですかそれは!!」と悲鳴を放った。
「知らないよぅ」
悪びれもせずゆるふわのルシルは首を傾げた。
恥ずかしさに顔を真っ赤にしながら、オーギュスティンは頭を抱えて「な、何でそんな事を…!私は意識の底ではあの人に苛めて欲しいって事なのか…!」とぐねぐねと悩む。
苦悩する彼の頭の中で、ヴェスカの「前世でヴェスカ様と呼ばせてた気がする」というドヤ顔を思い出す。
何であいつを!様呼びに!!
プライドの高い彼にはそれはとても耐えられない。
やけににやにやするトゲトゲ頭のルイユは、悩む彼を「隠れ変態の素質があるんじゃね?」とませた事を口走っていた。
白と黒を基調としているシックな部屋。
あまり飾り立てたくなくてカラフルさを欠いた結果、このようにある意味飾り気の無い部屋となっていた。
「それは食べ物ではありません…ヴェスカ…」
謎の夢を見てうなされているのだろう。
一人暮らしのオーギュスティンの部屋に、突如鍵を開けて入り込む二人組の姿。鍵を渡されているという事は、親しい仲なのだろう。
二人とも顔はそっくりだが、髪型が違うので判別はしやすい。一人は短くややトゲトゲした頭。もう一人はやや長く、ゆるふわなふんわりした髪型。
いずれもまだ子供のあどけなさがある。
「オーギュスティン、まーた寝てるのかあ」
「休みだもんね。疲れが溜まってるんだよ」
二人はそろそろと彼のベッドへ近付いた。
「ま、お陰で作業が捗るからねっ」
「今日はどんな事を話してくれるかなあ」
よっこいしょ、とトゲトゲ頭の少年はベッドの端に腰をかけると、ゆるふわ頭の少年の方は椅子を持ち寄りベッドの横に座った。
さあてと、とにこやかにゆるふわ頭はノートを開く。
「さ、始めるよぉ★」
その合図と共に、ううとオーギュスティンが呻いた。
わくわくと期待に満ちる二人。
オーギュスティンは一度眠るとなかなか目を覚まさないので、抜群の調査対象だった。しばらくすると、オーギュスティンはもそもそと眠りながら話し始める。
「何でカメムシを食べるんですか!」
意味不明な寝言を聞くと同時に、ゆるふわ頭の彼はさらさらとメモを取った。トゲトゲの方はぶふっと吹き出す。
「どんな夢見てるんだよ!」
「誰かがカメムシを食べようとしてるみたいね、ふふ」
二人はこうして休みのたびにオーギュスティンの寝言を聞き取りに来ているようだ。
その寝言がとにかく変なので、メモを取ってみたら楽しいのではないかと話していたのがそもそもの始まり。
ある日は「それはよだれかけです!」と言い、またある日は「鼻血が出るからやめなさい」と宥める言葉を放ち、別の日には「鉛筆を転がしても答えは出ませんよ」と妙に現実的な寝言を放つ。
日常生活に疲れている為か、やたらと言葉が出ていた。
「今日はレベルが高いな」
「メモのしがいがあるよぉ。んふふ、オーギュスティンったら可愛い寝顔して変な寝言ばっかり言ってるからね」
にこにこと笑いつつ、次の寝言を待った。
「ん…んん…だめです…だめですったら…」
やや色気づいたセリフに、二人は顔を見合わせる。
まさかエッチな寝言か、とドキドキして様子を見ていると、オーギュスティンはううと唸った。
「ふ…ああっ、んふ…うう」
悩ましげな寝言に、ゆるふわ君はああんと恍惚感に満ち溢れた声を上げていた。
「んもう、オーギュスティンったらエッチなんだからぁっ…いやらしい声を出しちゃいけないんだよう」
そう言いながらメモを取り続ける。
「ルシルはエロネタに敏感だよなぁ」
「ふーんだ。ルイユだって好きなくせにぃ」
先程の寝言からしばらくすると、ベッドから衣擦れの音が聞こえる。やがて「う…」とオーギュスティンはようやく目を開けた。
謎の気配を感じて彼は意識をはっきりさせると、何故か目の前に居る少年達に気付く。
がばりと体を起こし、切れ長の目を見開きながら「えっ!?えっ!?」と彼らを交互に見ていた。
「おはよ、オーギュスティン!」
「よう、オーギュスティン!やっぱ休みだと起きるの遅いなあ」
「いっ、いつの間に!?」
本人は知らなかったらしく、二人を見ながらかなり動揺していた。
「僕達ね、君から貰った鍵で休みの度にお邪魔して寝言のメモをしてたの。君の寝言楽しくて」
「な、な…何のために?」
可愛らしい顔立ちの双子は、同時に顔を見合わせるとやけに笑顔で「面白いから!」と言った。
かくりとオーギュスティンは脱力する。
「一番良かったのはね、『ああんやめて下さい、私そこ弱いんです!』っていうの!君の寝言の中で第一位だよ!」
「は…はああ!?そんな事を私は」
「言ってた!メモしてきたからね、ちゃあんと!」
たちまちオーギュスティンは顔を真っ赤にする。
知らぬとはいえ、何というセリフを吐いていたのだろう。情けなくて消えたい気分になった。
「あとはね、『私を苛めて下さいヴェスカ様!』…どういう事?」
その言葉に酷く反応し、オーギュスティンは「いやああああああなんなんですかそれは!!」と悲鳴を放った。
「知らないよぅ」
悪びれもせずゆるふわのルシルは首を傾げた。
恥ずかしさに顔を真っ赤にしながら、オーギュスティンは頭を抱えて「な、何でそんな事を…!私は意識の底ではあの人に苛めて欲しいって事なのか…!」とぐねぐねと悩む。
苦悩する彼の頭の中で、ヴェスカの「前世でヴェスカ様と呼ばせてた気がする」というドヤ顔を思い出す。
何であいつを!様呼びに!!
プライドの高い彼にはそれはとても耐えられない。
やけににやにやするトゲトゲ頭のルイユは、悩む彼を「隠れ変態の素質があるんじゃね?」とませた事を口走っていた。
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