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そのよんじゅう

スティレンは暗闇が苦手

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 俺はお前の為に神経尖らせてるんだからねとドヤ顔のスティレンは困った顔のリシェに言うが、頼みもしていないのにとつれない返事をする。
 背後のラスは相変わらずリシェを離さない。
 むしろ彼にひっつき、その感触に恍惚感を得ている様子だ。ちいっ、とスティレンはそれを見て苛立った。
「ちょっと、ラス!何断りもなくリシェに貼り付いてるのさ!!貼り付かないでくれない!?」
「えっ!?ええっ…」
 リシェはラスの中で蠢き、ようやく彼の腕から解放されると「みんな面倒臭いな」と独り言を呟いた。これだけ一ヶ所に面倒なタイプが揃えば、ぶつりと文句を言いたくなるのも理解出来る。
 しかしスティレンは「全くだよ」と腕を組みリシェに同意した。何故一番面倒臭い彼が他人事のように同調するのだろう。
「お前はお前で何で引っ付かれても拒否らないのさ?そこを付け込まれるんだよ、この変態に!」
「カラスにフンを落とされたから見てもらってたんだ」
「ふ、フン!?…お前、カラスにまで馬鹿にされてきたの?」
 リシェは顔面に直球をぶつけられたかのようなショックを受けてしまった。何もそこまで言わなくてもいいじゃないかと。
 ショックを受けるリシェを、ラスはまあまあと宥めながら再び彼を背後から抱き締める。
「その分、俺が可愛がってあげますし」
「だから抱き付かないでよ、変態!…やっぱり俺がこいつのルームメイトになるべきなんじゃないの!?リシェには悪い虫が付きすぎるんだ!」
 リシェにしてはスティレンも悪い虫の一部なのだが、彼はその事に全く気付いてないようだ。
「俺は別に一人でも良かったんだ。転入生はしばらく慣れるまで同室の奴を入れないって聞いてたのに、こいつが押し掛けてきたから」
 まるで抱き枕のようにすりすりと頬擦りをしてくるラスを、リシェは引き剥がそうとしながら愚痴を言った。
「早めに動かなきゃ先輩を取られちゃうし」
「リシェはあんたのものじゃないんだよ!全く!俺がこの部屋に入るべきだったのにさあ!」
 怒るスタミナが有り余っているのか、とにかくスティレンは良く怒り出す。リシェはラスの腕をうんうんと剥がしつつ「そういえば」とスティレンに言った。
 スティレンは何さと返す。
 怒らなければまだ可愛げのある顔立ちなのに、やたらヒステリックなので残念だ。
「治ったのか?」
「は?」
「治ったのか聞いているんだ。お前、夜中の暗い廊下に行きたくないってしょっちゅう言ってたしな。治ったのか?おねしょ癖」
 スティレンがリシェに豪速球をぶつけてくるならば、リシェは彼に対して巨大な鉄球をクレーンで打ち込んでくるレベルの暴露をする。
 その発言に、スティレンはかああっと顔を真っ赤にしてぷるぷると震え出していた。ラスも動きを完全にストップする。
「いっ…いつの話をしてるんだよ!!」
 慌てるスティレンはリシェに怒鳴った。
 その様子だとまだ治っていない風にも見えてしまい、ついラスも吹き出してしまう。
「スティレン、おねしょ癖があるんだ!その年で!!」
「そんな訳ないでしょ!?ばっかじゃないの!?」
 だって夜中暗いの嫌だって言うし…とリシェは困り果てる。それが妙なリアル感を与えてしまい、スティレンは更に激昂した。
「してないってば!!変な事言わないでよ!なっ、何なのその目はああ!そんな目で見るな!!もうっ、誤解させるような事を言うなってば!!」
 知らぬうちにラスはスティレンを小馬鹿にしたような目を向けていたらしく、彼は顔を真っ赤にしたまま慌てふためいていた。
 ぐぬぬと下唇を噛み、綺麗な顔を真っ赤にして涙目になる自信家のスティレン。
「してないしっ!!おっ、お…俺に謝れええっ!!リシェの馬鹿ぁあああああ!!!」
 彼はいたたまれず、そのまま部屋から飛び出してしまった。バターン!と勢い良く扉が閉まった後、遠ざかるスティレンの足音を聞きながらリシェはラスの腕を解く。
「あの様子だと答えを喋ってる気がするけど…」
「謝れと言いながら帰っていくのを初めて見た」
 どうやらまだ治らない様子。
「あまり指摘しない方が良さそうですね、先輩」
 言えば言うほど凹むだろう。
「寝る前に済ませておけばいいだけの話なのに」
 無表情のままのリシェの突き放した言葉に、ついラスは苦笑いした。
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