39 / 101
そのさんじゅうはち
ドMとドSの不毛な争い
しおりを挟む
他の職員達の姿も次第に無くなって来た夕方近く。
オレンジ色の夕焼けの光が職員室を包み込んだ頃、残っていた仕事がようやくひと段落つきようやくオーギュスティンは帰り支度を始める。
鞄に書類やペンケースを詰めていると、カラカラと扉が開く音がした。
「あー…疲れたぁ」
「おや…今終わったんですか、部活?」
やや乱れたジャージ姿のヴェスカが肩を揉みながら職員室に入ってきた。彼はオーギュスティンがまだ居残っていた事に驚き、ははあとにんまりと笑う。
片付けているオーギュスティンに近づきながら「まさか俺を待っててくれてた?」と問いかけた。
よく物事を前向きに捉える事が出来るものだと思いながら、そんな訳ないでしょ…と呆れる。
「仕事が溜まっていたので捌いていただけですよ…ってか、汗臭っ!!暑苦しいですね!」
近付くヴェスカ。
潔癖なオーギュスティンは、側にやって来たヴェスカに失礼な暴言を吐いた。
「仕方無ぇだろー!?汗だくで部活してたんだからさあ」
職員室にシャワーがあればいいんだけどなと膨れた。
「あんたもたまには運動してみるといい。この細い腕とか鍛えた方がいいぞ」
余計なお世話だと言いたくなる。
すぐ目の前に立ち、馴れ馴れしい態度でヴェスカはオーギュスティンの腕を取った。
何…と目を見開き驚いた顔を露わにするが、不躾な体育教師は気にもとめず「ふうん」と手触りを確かめてきた。
スーツの腕をがっちりと掴み上げ、まじまじとその細さを眺めると、おもむろにオーギュスティンの背中に空いた手を回して引き寄せてくる。
はっ…!?と息を飲み、相手を見上げると、双方の視線がぶつかり合う。
完全に抱き締められる形になり、オーギュスティンは変な違和感を覚えてしまい焦りを見せつつ抵抗する。
いとも簡単にヴェスカの腕に収まってしまった自分の間抜けさを呪いたくなった。
「んなあっ!?な、何ですか!?やめて下さい!」
「あんたは本当に危機感が無いなあ」
にこにこと無邪気な笑顔で密着してくるが、その目の奥には猛獣的な何かを感じさせてくる。
その一方で、オーギュスティンは必死に足掻き首を振りながら身を押し付けてくるヴェスカを引き離そうとしていた。
「誰か来たらっ、誤解されちゃいます!」
「おー、上等だ。バレたら気楽だろ?…でももうここには誰も来ねぇよ。遅いからな」
叫んでも誰も来ないぞ、と意味深な言葉をぶつける。
「う…離して下さいっ、変な気を起こさないで!やめなさいっ、やめ…!」
オーギュスティンを抱き締めたままヴェスカは彼の頭を優しく撫でてやると、急に髪を掴み強制的に上に向けさせる。
優しい手つきからの荒々しい仕草に、オーギュスティンは何故かぞくんと身震いした。
「あ…っ!はあっ、や、やめ」
「…ははあ、なるほどね。納得納得」
「え…っ?」
「あんた、凄いドMだろ?」
「は…っ?何を、言ってる」
ぞわりと体内の血が熱く循環していくのを感じた。そんな訳ないだろうと頭の中で否定する。しかしヴェスカは追い打ちをかけるかのように「嘘つけ」と囁いた。
「あんたは生粋のドMだ。現に俺の手つきでめちゃくちゃ感じてる風だからな。俺は底なしのSだから分かるんだよ。だってあんたみたいなのを可愛がりたくなるもん」
違うと言うものの、細かに震えるオーギュスティンの唇がそれを良く物語っていた。
「かっ…可愛がりたく、なるですって?」
「俺らは相性いいと思うよ?かーなーりしっくり来る。どうかなあ、自分で言うのもなんだけど俺相当あんたを満足させられると思うんだよ」
「………」
「いや、むしろ前世とかであんたをひいひい言わせてたような気がしてくる。ヴェスカ様とか呼ばれておねだりされてた気もするわ」
話を聞きながら、オーギュスティンはこいつは馬鹿な上にとんでもない妄想癖があるのかと混乱していた。
私がこいつを様付け呼びだと?ふざけているのか、と。
「そ、それは無いです。絶対、ない。あなたを様付けで呼ぶ位ならその辺の虫と結婚した方がましですから。無いですよ、あなたに私がへり下るなんて。おぞましい。よりによって何であなたなんかに」
めちゃくちゃ否定の言葉を返した。
ありったけ馬鹿にしながら。
「いいや、絶対!!俺はあんたをめちゃくちゃ抱いたね!前世で!!泣きながらヴェスカ様お願いしますって!夜な夜な抱いてくれってせがんでたはずだ!!」
「そんな訳ないでしょう!わ、私があなたにそんな馬鹿げた事を言うはずがない!無いです!絶対無い!地球が壊れようともあなたに頭を下げてなんて有り得ませんから!無理無理、いや無理!!」
お互い意見を譲らない。
絶対そうだっと断言するヴェスカと、それをひたすら否定するオーギュスティンの不毛な言い争いは、それから延々と続き日が落ちるまで続いていた。
オレンジ色の夕焼けの光が職員室を包み込んだ頃、残っていた仕事がようやくひと段落つきようやくオーギュスティンは帰り支度を始める。
鞄に書類やペンケースを詰めていると、カラカラと扉が開く音がした。
「あー…疲れたぁ」
「おや…今終わったんですか、部活?」
やや乱れたジャージ姿のヴェスカが肩を揉みながら職員室に入ってきた。彼はオーギュスティンがまだ居残っていた事に驚き、ははあとにんまりと笑う。
片付けているオーギュスティンに近づきながら「まさか俺を待っててくれてた?」と問いかけた。
よく物事を前向きに捉える事が出来るものだと思いながら、そんな訳ないでしょ…と呆れる。
「仕事が溜まっていたので捌いていただけですよ…ってか、汗臭っ!!暑苦しいですね!」
近付くヴェスカ。
潔癖なオーギュスティンは、側にやって来たヴェスカに失礼な暴言を吐いた。
「仕方無ぇだろー!?汗だくで部活してたんだからさあ」
職員室にシャワーがあればいいんだけどなと膨れた。
「あんたもたまには運動してみるといい。この細い腕とか鍛えた方がいいぞ」
余計なお世話だと言いたくなる。
すぐ目の前に立ち、馴れ馴れしい態度でヴェスカはオーギュスティンの腕を取った。
何…と目を見開き驚いた顔を露わにするが、不躾な体育教師は気にもとめず「ふうん」と手触りを確かめてきた。
スーツの腕をがっちりと掴み上げ、まじまじとその細さを眺めると、おもむろにオーギュスティンの背中に空いた手を回して引き寄せてくる。
はっ…!?と息を飲み、相手を見上げると、双方の視線がぶつかり合う。
完全に抱き締められる形になり、オーギュスティンは変な違和感を覚えてしまい焦りを見せつつ抵抗する。
いとも簡単にヴェスカの腕に収まってしまった自分の間抜けさを呪いたくなった。
「んなあっ!?な、何ですか!?やめて下さい!」
「あんたは本当に危機感が無いなあ」
にこにこと無邪気な笑顔で密着してくるが、その目の奥には猛獣的な何かを感じさせてくる。
その一方で、オーギュスティンは必死に足掻き首を振りながら身を押し付けてくるヴェスカを引き離そうとしていた。
「誰か来たらっ、誤解されちゃいます!」
「おー、上等だ。バレたら気楽だろ?…でももうここには誰も来ねぇよ。遅いからな」
叫んでも誰も来ないぞ、と意味深な言葉をぶつける。
「う…離して下さいっ、変な気を起こさないで!やめなさいっ、やめ…!」
オーギュスティンを抱き締めたままヴェスカは彼の頭を優しく撫でてやると、急に髪を掴み強制的に上に向けさせる。
優しい手つきからの荒々しい仕草に、オーギュスティンは何故かぞくんと身震いした。
「あ…っ!はあっ、や、やめ」
「…ははあ、なるほどね。納得納得」
「え…っ?」
「あんた、凄いドMだろ?」
「は…っ?何を、言ってる」
ぞわりと体内の血が熱く循環していくのを感じた。そんな訳ないだろうと頭の中で否定する。しかしヴェスカは追い打ちをかけるかのように「嘘つけ」と囁いた。
「あんたは生粋のドMだ。現に俺の手つきでめちゃくちゃ感じてる風だからな。俺は底なしのSだから分かるんだよ。だってあんたみたいなのを可愛がりたくなるもん」
違うと言うものの、細かに震えるオーギュスティンの唇がそれを良く物語っていた。
「かっ…可愛がりたく、なるですって?」
「俺らは相性いいと思うよ?かーなーりしっくり来る。どうかなあ、自分で言うのもなんだけど俺相当あんたを満足させられると思うんだよ」
「………」
「いや、むしろ前世とかであんたをひいひい言わせてたような気がしてくる。ヴェスカ様とか呼ばれておねだりされてた気もするわ」
話を聞きながら、オーギュスティンはこいつは馬鹿な上にとんでもない妄想癖があるのかと混乱していた。
私がこいつを様付け呼びだと?ふざけているのか、と。
「そ、それは無いです。絶対、ない。あなたを様付けで呼ぶ位ならその辺の虫と結婚した方がましですから。無いですよ、あなたに私がへり下るなんて。おぞましい。よりによって何であなたなんかに」
めちゃくちゃ否定の言葉を返した。
ありったけ馬鹿にしながら。
「いいや、絶対!!俺はあんたをめちゃくちゃ抱いたね!前世で!!泣きながらヴェスカ様お願いしますって!夜な夜な抱いてくれってせがんでたはずだ!!」
「そんな訳ないでしょう!わ、私があなたにそんな馬鹿げた事を言うはずがない!無いです!絶対無い!地球が壊れようともあなたに頭を下げてなんて有り得ませんから!無理無理、いや無理!!」
お互い意見を譲らない。
絶対そうだっと断言するヴェスカと、それをひたすら否定するオーギュスティンの不毛な言い争いは、それから延々と続き日が落ちるまで続いていた。
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる