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そのさんじゅうご

泣き落とし

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 これから、とは。
 スティレンは怒りのあまり顔を真っ赤にしてリムジンに近付いた。
「あんたもあんただよ!人の目が付きやすい所で、誤解を招くような事を口走らないでくれる!?」
 目的の相手がやってくるなり、サキトは満面の笑みでスティレンを迎え入れる。
「スティレーン!待ってたよぉ。うふふ、僕は君が居ない間、君のその綺麗な顔が屈辱で歪む想像ばかりしてたの。羞恥心と屈辱感でいっぱいのさぁ」
 彼は白い肌をピンク色に染め、うっとりした顔でスティレンに言った。逆にスティレンは非常にドン引きし、真っ青な顔を隠そうともしない。
 …このドS野郎が!!
 そう罵ってやりたいが、相手の立場が強過ぎて反抗しにくい。
「ね、ね、スティレン。次は君をねっ、ぎちぎちに縛り上げてくすぐってあげたいの。君の為に真っ赤で丈夫なのを用意したげるからさぁ、おねがぁい」
「いっ、嫌です!!大体何で俺があんたに付き合わなきゃいけないんですか!」
「言ったでしょ?君は今まで僕が相手した中でも一番耐久力があるの。あの時だって沢山我慢してくれたじゃない。最終的には君が折れたけど。僕はねぇ、君が必死に我慢してる顔を見ると凄く体が熱くなって興奮しちゃうんだぁ…その高慢な顔がねっ、はあっ…僕の手で蕩けるようなねっ、顔になると…はあっ、もうっ、堪らなっ」
 はあはあと何故か呼吸を荒げながらサキトは恍惚感に溢れた表情を見せる。物凄く愛くるしい顔なのに、それを台無しにするくらいの変態的に見えてしまい、勿体無い。
 リシェは困った顔をしてスティレンを見上げる。
「俺を使って変な妄想をしないで下さい!」
「…お前、何か変な関係でも持ったのか?」
 彼がこんなになるまで変になるとは思えず、リシェはついスティレンに問う。彼は「そんな訳ないだろ!」と激怒した。
「したよぉ?もう、スティレンってば。前回はね、僕がスティレンに跨がってお馬さんごっことかしたのさ。その時のスティレンったら激しかったなあ…揺さぶられて興奮したのか少しずつ固くなっ」
「……ちょっと!!変な事言わないでよ!!」
 動揺するスティレンはサキトに掴みかからんばかりに言葉を遮った。
「じゃあ戻ってきてくれるぅ?」
 首を少し傾け、サキトはスティレンに問う。
「じゃないと毎回ここに来て君としてきた事を喚くから」
「してないし!!勝手な妄想で、変な事を言うのやめてくれない!?」
 拒否され、サキトは可愛らしい顔をううっと歪める。
 ぽろぽろと涙を零し「酷いよ」と泣き出した。
「僕はスティレンが好きなだけなのにぃ。そんなに嫌がる事なんてないじゃない。君が居ないから寂しいだけなんだよう」
 あーあ、泣かせたぁ…とリシェは非難の目をスティレンに向けた。ググッと詰まるスティレン。
「そんなつもりは無いし!ああ、もう!ムカつくなあ!何なの、俺は戻る気は無いって言ってんのに!」
「君は勝手にこっちに行っちゃうからっ、ぐすっ…僕はやっと好きな子見つけたって、思ってたのにぃっ…ひっく、ひっく」
 リシェはついスティレンに向けて軽蔑の眼差しを送っていた。スティレンはそれに反応し、つい彼をぽこんと殴る。
 あ痛っ!と喚いた後、まるで子供のように「うわー!!」と泣き出すリシェ。
「痛いー!!」
「酷いー!!」
 泣き喚く二人を交互に見た後でスティレンは苛立ち叫んだ。
「鬱陶しいな!!あんたらみんな馬鹿じゃないの!?」
 頭をばりばりとかきむしり、スティレンは仕方無いなあ!と吐き捨てるとサキトのリムジンの後部座席の扉を開けた。
 するとサキトは泣き止む。
「へ?」
 彼は仏頂面で乗り込むと、「一時間だけなら付き合ったげる」とサキトに告げた。
「言っとくけど、俺はあんたの変な趣味に付き合う気は一切無いからね!軽くお茶をする程度なら付き合ってあげてもいい。その代わり、変な真似したら速攻で帰るから!」
 妥協案を受け、ぐすりとサキトは手の甲で涙を拭き取るとがらりと表情を変えてスティレンにぽふりと抱きつく。
 現金な奴だ。
「スティレンっ★嬉しいっ♪」
 懐く彼を面倒そうに見ながら、スティレンは舌打ちした。サキトはスティレンに抱きついたまま、運転手に「車出して!」と命じる。
 主人の合図と共に、白いリムジンは校舎前からさっさと走り出していた。先程の喧騒から、再び通常の光景に戻される。
「うわー!!痛いー!!」
 残されたリシェはそのまま、痛みに泣いていた。
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