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そのさんじゅうに

リシェ、口から茶を噴射後に泣く

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 間接キス程度であんな反応する?とスティレンは首を傾げた。リシェはパンを食べ終えると、口内の水分が足りずがたりと席を立つ。
「何さ、リシェ。どこ行く気?」
「お前が牛乳を飲み尽くすから飲み物を買いに行くんだ」
「………」
 廊下には飲み物の自販機がある。ちょうどリシェ達の教室から出るとすぐに設置されていて、出ればすぐに戻って来れた。
 再び席に着こうとするリシェ。
 すると、クラスメイトの数人がこちらにそろそろと近付いてきた。
「あっ、あの、リシェ君」
「?」
 やけに彼らはそわそわしていた。
「ね、君らは付き合ってるの?さっきの先輩は何?」
 どういう意味なのかと聞けば、タイプも全く違う三人なので気になったらしい。
 何だ、そんな事かとスティレンは鼻を膨らませた。
「あれはただのリシェの同室相手。ま、押しかけだけどね。毎度毎度こいつにしつこいから、俺が変な事をされないようにこいつを見てやってるのさ。じゃなきゃ悪い虫がベタベタついてくるからね」
 その割には払っているような気はしないけどなとリシェはペットボトルの蓋を開き茶を口に含む。
 少年達はリシェとスティレンを交互に見ながら「君達は?」と問う。
「え?俺ら?」
 ぐびぐびと茶を飲むリシェ。
 彼の向かい側で、スティレンはリシェをちらりと見た後で「俺らは付き合ってんのさ」と言い出した。同時にリシェは口に含んでいた茶を思いっきり吹き出してしまう。
 うわあああっ!と真正面でそれを食らったスティレンは叫び声を上げた。
「ちょっと!!何すんのさ、リシェ!!ふざけないでよ!もうっ、汚いなああ!」
 リシェはタオルハンカチで口を拭きながら「いや、悪かった」と無機質な謝り方をした。
「お前がふざけた事を言うからつい」
「はぁああ!?どっちがだよ、それ貸しな!美しい俺の顔が台無しじゃない!!だからお前は野蛮なんだよ、野蛮人!!」
 スティレンはリシェからハンカチを強引に引ったくり、教室の後ろにある手洗い場へ急いだ。
 少年達は呆気に取られている。
「付き合ってるのに野蛮人呼びするんだ…」
「いや、あれはただの従兄弟だ。あいつは自分以外の人間は全部野蛮人に見えるから気にしない方がいい」
「や、野蛮人…」
「とにかくあいつは面倒臭い奴だから付き合うなら話を全部聞き流せ。構うだけ無駄だ」
 リシェはリシェで、ぼろくそにスティレンを落とす。
 本人が自分を褒め過ぎている分、代わりに彼に対して駄目出しをしているかのようだった。
「じゃあ、リシェ君はほとんど聞き流してるんだ?」
「いや、俺はほとんど聞いていない。あいつの自慢話は」
「ええ…」
 しばらくすると、スティレンが苛々した顔で戻って来る。リシェのハンカチを押し付けて憮然としながら返すよと言った。
「ああ、水浸し」
「お前が悪いんだろ!」
 リシェは渋々ハンカチをポケットに戻した。
「リシェ」
「ん?」
「俺に何か言う事は?」
「さっき謝っただろ」
 聞いて無いよ!とスティレンは怒る。
「はあ、もうムカつく。ちょうどいいから俺らの関係教えたげる。だからあんたらはリシェに唾つけちゃダメだよ?」
 スティレンは少年らに意味深な笑みを見せた後、リシェに手を伸ばして頭から引き寄せ深く唇にキスをした。
 わっ、と周囲が騒めく。
 リシェも何が起きたか分からずに目を丸くするが、ぬるりと舌が入り込むと同時に我に返った。
「は…っあ…」
 わざと見せつけるようにスティレンは少年達を挑発的に流し目をした後、目を閉じてリシェの唇を貪る。しばらく堪能した後、ようやくリシェを解放する。
 へにゃりと体の力を失うリシェ。
「…ね?俺らはこんな事をしてるの。だからくれぐれもちょっかい出さないでよね」
 あ…ああ…と返事に詰まる中。
 リシェはゾクゾクする体を押さえながら「何をするんだド変態!!」と怒鳴った。
「何って、先に俺が唾付けといたの。ラスにも先に手を出されないようにね。お前は感度が高いからキスだけでもイキそうになるけど、早めにマーキングしとかなきゃ」
「犬かお前は!!」
 半泣きになるリシェは顔を真っ赤にして叫ぶと、スティレンは可憐な顔にそぐわない舌打ちをする。
「この俺に対して犬とは何なのさ!」
「お前は犬だ!!」
 えぐえぐとしゃくりあげながら罵声を放つリシェが妙に可愛く見えた。
 昼休み終了のチャイムが鳴ると、生徒達はそれぞれの席に戻り始める。先程の生徒も戸惑いながら散り散りに席に戻って行く最中、スティレンは泣くリシェを呆れた目で見た。
 体はドスケベなくせに、と。
「本当、耐性無いよねお前は」
「うるさい、ド変態!!」
 どっちがだよと溜息をつく。
「こうなれば、俺が直々にお前を鍛えるしかないよね。少しは耐性付けた方がいいよリシェ?そのうち機会を見て、たあっぷり可愛がってあげるから」
 仕方無いなあ、と彼は妖しく栗色の垂れ目を細め、舌を見せて微笑む。彼は外見が良すぎる為に、余計妖艶に見えてくるのでやたら怖い。
 …何でこんな奴ばかり自分に懐いてくるのだろう。
 リシェは全身に悪寒を走らせ、「いらない、必要無い!」と泣きながらふるふると首を振っていた。
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