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そのさんじゅういち
ラス、間接キス如きで死ぬ程喜ぶ
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先輩、ご飯ですよ!といつもの如くラスはリシェの居る一年の教室へやってきた。どう見てもラスが年上なのだが、リシェがその呼び方やめろと苦虫を噛み潰したような顔で訴えても「でも俺の先輩ですから!」と止める気配も無い。
当然、周りの生徒達は一体何なのかと訝しむ。
まるでラスがリシェの舎弟のようにも見えてしまい、何の上下関係なのかと疑問を感じるのだ。
そこへリシェに続くようにしてクラスに入ってきたスティレンも混ざると訳の分からない関係が完成してしまう。
「また餌付けしに来て!こいつは俺のなんだから邪魔しに来ないでよ!」
「先輩は売店チャレンジ失敗するんだから俺が先回りして先輩のご飯を買ってくるんだよ。何が悪いっていうんだ」
ラスが主張する通り、四時間目の授業が終わると同時に、昇降口の売店には沢山の生徒らが殺到する。一番有利なのは一階側に教室のある三年生で、一年であるリシェは売店に向かうにも時間的に不利な環境だった。
しかも見た通り、彼は百五十八センチという身長に小柄な体型。成長期真っ只中の二、三年生とは体格の違いもある。勝ち目が無く、仕方無く牛乳パックのみになる時もあるのだ。
最悪食堂という手もあるが、やはりそこでも上級生が陣取っていて一年は肩身の狭い思いをしてしまう。一年生はまず食堂には寄り付かなかった。
「食べ物でこいつを釣る気?」
「ならあんたが先輩のご飯を買いに行く?あの人混みの中で二人分買うのは難易度高いよ」
リシェを取り囲むようにしてラスとスティレンはお互いに火花を散らす。リシェは無表情で席に座りながら牛乳パックにストローを差し込んでいた。
「先輩っ!屋上行きましょう!」
「二人きりになんかさせないよ!どうせ変態的な事をするに決まってるんだからね!俺はお前の恋愛ルートのフラグを片っ端からへし折っていくから!」
「先輩と同室になった段階で、もうフラグを立ちまくりなんだけどなあ。いくらあんたが折ってもそれ以上に立たせてやるんだからあんたには勝ち目は無いよスティレン?どう転がろうと俺と先輩は最終的にハッピーエンドに行く予定なんだからね」
机の上にはラスが買ってきた数種類のパンが置かれていた。リシェは無表情のまま慣れたように中を物色すると、焼きそばパンを見つけて勝手に封を開けていた。
一口食べると、噛みごたえのあるしっとりとしたパン生地とたっぷりの焼きそばのソース味が口内に広がる。
うんん、と唸りながらリシェは無表情から嬉しそうな顔に変化した。そしてしっかりとその分の代金をラスのポケットに投入する。
「やっぱり惣菜パンは焼きそばパンだな」
むぐむぐと頬張る彼を、ラスは不意に見下ろした。そこでようやくリシェが食事をしている事に気付いた。
「…もう食ってるし!!」
屋上でいちゃつきながら食べたかったラスはショックを受けた。そしてスティレンも、リシェがラスの持ち寄った食べ物に普通にありついている事に対しムカッとする。
「何食ってんだよ!」
「いや、目の前にあるから…」
代金払ってるし、と悪びれない。
「上で食べたかったのに!もう!パン一つにつきキス一回ですよ先輩!!」
「ポケットに代金入れたのに」
「代金なんていらないんです!キスしてくれれば!」
リシェは面倒そうに眉を寄せると、食べていた焼きそばパンを「ほら」と彼の口元に寄せた。
んぐ、とそれを口にする。
「一応口がついた」
ラスはもぐもぐとパンを噛み、ごくりと飲み込む。
「返せ」
そして再びパンを口に含んだ。
「せん…ぱい、先輩?」
「リシェ!何間接キスしてんのさ!ムカつく!!俺は!?ねえ、俺はっ!?」
ああ、うるさい…と牛乳パックを差し出すと、スティレンはふんと引ったくりストローで吸い上げる。全て飲み終わると「全部飲んだ!」と得意げに言った。
一方でラスは間接キスに感動し、顔を真っ赤にしながらよろめいている。
「先輩っ、先輩と…かっ、間接キスしちゃっ…ああっ、かっ、間接っ」
スティレンは「何?」と眉を寄せる。
がくがくと震え、口を手で覆いながら後退りするラスは、茹でダコみたいに真っ赤になり卒倒寸前になっていた。
「先輩とキスしたああああぁあ!!先輩とぉぉぉ!イヤッフゥウウウぁああああああん!!!!」
他の机に軽くぶつかりながら、彼は歓喜の叫びを上げて教室を飛び出してしまう。
リシェはぽかんと口を開けたまま、彼が去った出入口を見つめる。何なのだろう。
一方で、間接キスだけであんなに舞い上がるなんて…とスティレンも呆気に取られていた。
当然、周りの生徒達は一体何なのかと訝しむ。
まるでラスがリシェの舎弟のようにも見えてしまい、何の上下関係なのかと疑問を感じるのだ。
そこへリシェに続くようにしてクラスに入ってきたスティレンも混ざると訳の分からない関係が完成してしまう。
「また餌付けしに来て!こいつは俺のなんだから邪魔しに来ないでよ!」
「先輩は売店チャレンジ失敗するんだから俺が先回りして先輩のご飯を買ってくるんだよ。何が悪いっていうんだ」
ラスが主張する通り、四時間目の授業が終わると同時に、昇降口の売店には沢山の生徒らが殺到する。一番有利なのは一階側に教室のある三年生で、一年であるリシェは売店に向かうにも時間的に不利な環境だった。
しかも見た通り、彼は百五十八センチという身長に小柄な体型。成長期真っ只中の二、三年生とは体格の違いもある。勝ち目が無く、仕方無く牛乳パックのみになる時もあるのだ。
最悪食堂という手もあるが、やはりそこでも上級生が陣取っていて一年は肩身の狭い思いをしてしまう。一年生はまず食堂には寄り付かなかった。
「食べ物でこいつを釣る気?」
「ならあんたが先輩のご飯を買いに行く?あの人混みの中で二人分買うのは難易度高いよ」
リシェを取り囲むようにしてラスとスティレンはお互いに火花を散らす。リシェは無表情で席に座りながら牛乳パックにストローを差し込んでいた。
「先輩っ!屋上行きましょう!」
「二人きりになんかさせないよ!どうせ変態的な事をするに決まってるんだからね!俺はお前の恋愛ルートのフラグを片っ端からへし折っていくから!」
「先輩と同室になった段階で、もうフラグを立ちまくりなんだけどなあ。いくらあんたが折ってもそれ以上に立たせてやるんだからあんたには勝ち目は無いよスティレン?どう転がろうと俺と先輩は最終的にハッピーエンドに行く予定なんだからね」
机の上にはラスが買ってきた数種類のパンが置かれていた。リシェは無表情のまま慣れたように中を物色すると、焼きそばパンを見つけて勝手に封を開けていた。
一口食べると、噛みごたえのあるしっとりとしたパン生地とたっぷりの焼きそばのソース味が口内に広がる。
うんん、と唸りながらリシェは無表情から嬉しそうな顔に変化した。そしてしっかりとその分の代金をラスのポケットに投入する。
「やっぱり惣菜パンは焼きそばパンだな」
むぐむぐと頬張る彼を、ラスは不意に見下ろした。そこでようやくリシェが食事をしている事に気付いた。
「…もう食ってるし!!」
屋上でいちゃつきながら食べたかったラスはショックを受けた。そしてスティレンも、リシェがラスの持ち寄った食べ物に普通にありついている事に対しムカッとする。
「何食ってんだよ!」
「いや、目の前にあるから…」
代金払ってるし、と悪びれない。
「上で食べたかったのに!もう!パン一つにつきキス一回ですよ先輩!!」
「ポケットに代金入れたのに」
「代金なんていらないんです!キスしてくれれば!」
リシェは面倒そうに眉を寄せると、食べていた焼きそばパンを「ほら」と彼の口元に寄せた。
んぐ、とそれを口にする。
「一応口がついた」
ラスはもぐもぐとパンを噛み、ごくりと飲み込む。
「返せ」
そして再びパンを口に含んだ。
「せん…ぱい、先輩?」
「リシェ!何間接キスしてんのさ!ムカつく!!俺は!?ねえ、俺はっ!?」
ああ、うるさい…と牛乳パックを差し出すと、スティレンはふんと引ったくりストローで吸い上げる。全て飲み終わると「全部飲んだ!」と得意げに言った。
一方でラスは間接キスに感動し、顔を真っ赤にしながらよろめいている。
「先輩っ、先輩と…かっ、間接キスしちゃっ…ああっ、かっ、間接っ」
スティレンは「何?」と眉を寄せる。
がくがくと震え、口を手で覆いながら後退りするラスは、茹でダコみたいに真っ赤になり卒倒寸前になっていた。
「先輩とキスしたああああぁあ!!先輩とぉぉぉ!イヤッフゥウウウぁああああああん!!!!」
他の机に軽くぶつかりながら、彼は歓喜の叫びを上げて教室を飛び出してしまう。
リシェはぽかんと口を開けたまま、彼が去った出入口を見つめる。何なのだろう。
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