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そのにじゅうきゅう

君のアヘ顔が見たい

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 …あの根暗め、何で俺を待たないのかなあ。
 朝っぱらからリシェに対して苛々しながら寮から出たスティレンは、校舎へと向かう道を一人で歩いていく。
 別に自分が出るまで待ってくれと言った訳でも無いのだが、彼の頭では待ってくれて当然だと思っているようだ。
 それなのに声をかけずにさっさと先に学校に行ってしまう事がとにかく気に入らないらしい。
 こっちは準備もあるのだ。
 朝のシャワーを浴びて、髪をセットしてそこからこまかい身なりのチェック。優雅に朝ごはんを食べて、歯磨きして、最終的にまた自分の姿の確認。
 いかに自分が美しく保てるかを逐一確認しなければならない。その間、待つ位の余裕は無いのかと。
 本当使えないなと溜息を漏らす。
 正門入口に差し掛かると、他の生徒達が何やら物珍しそうにあるものを見ている。正門前に何かがあるらしい。
 何なのさ、と彼も気になりそこに近付くと、うぅっと軽く呻いた。
 登校していく生徒達の前を、まるで塞ぐかのように門前にベタ付けされた真っ白い高級車。普通の車よりも長いリムジンタイプのその美しい車は、スティレンには見覚えがあった。
 …何でここに来るんだよ!?
 見なきゃよかった、とそれを避けるかのようにスティレンは校舎へと急ごうとする。しかし彼の思惑を完全に無視し、明るく無邪気な少年の声がそこから飛んできた。
「スティレーン!」
 うぐっ、と息が詰まった。
 それでも無視しようとするが、その声は更に追いかけてくる。
「無視しないでよぉスティレン!」
「………」
 覚悟を決め、スティレンはゆっくりと白いリムジンに視線を配らせた。車の窓に乗り上げ、にこやかに笑ってこちらに手を振る少年の姿が見える。
 いかにもお金持ちの学校の生徒を思わせる真っ白な制服を身に纏う、どこか小悪魔的な少年が満面の笑みでスティレンを呼んでいた。
「…何でここに居るんですか」
 物凄く嫌そうな雰囲気を醸し出しながらその少年に問う。相手の少年は、ゆるふわな金色の髪と水色の綺麗な丸っこい瞳で「君に会いたかったからだよ」と優しげな顔で言った。
 ひどく胡散臭そうな顔でスティレンはああ、そうとだけ返す。
「んで、俺に会ってどうしようっていうんです」
 会いたかったと言ってくれる相手に対して失礼な態度を取り続けているが、相手は全く意に介さない様子で無邪気に笑い声を上げた。
「君が居ないと退屈で仕方ないんだよ。どうしてこんな貧民達の沢山居るとこに行っちゃうのさ。君のような子は僕らの学校に居るのが一番いいんだよ?」
 ならもう帰れ、と言いたいが。
 相手は自分よりも格式の高い家柄の出身の上に、前の学校の生徒会長だ。彼に逆らうととんでもない事が起きてしまう。今は違う学校に居るのだからそれほと影響は受けないものの、邪険にすると家同士の問題にもなってくる。
 この生徒会長の無茶ぶりを嫌というほど体験していたスティレンは、とにかく彼に関わりたくなかった。
「戻らないのぉ?」
「その予定はありません」
「ええ…戻ってよぉ。僕といちゃいちゃしたくないのぉ?」
 甘くねだるように彼は言う。
 したくないから言ってんだよ!と軽く舌打ちした。
「今なら僕の権限ですぐに戻せるよ?」
「絶対嫌です」
 さっさと帰れ!と言いたくなるのを押さえながらスティレンは彼を拒否する。
 こいつに塩を撒きたい、と思いながら「俺にはサキト様の相手は務まりません」とはっきり告げた。
 サキト様と呼ばれた少年はそれまで無邪気な顔をしていたが、ふふっと笑顔を見せた後でがらりと表情を変える。
 スティレンがよく目の当たりにしていた、年齢に不相応な妖艶な微笑み。ぺろりと舌を見せ、妙にいやらしい仕草でこちらを誘う目を向けてくる。
 今まで何人それに騙された事か。
「今までで一番、君が耐久性に富んでいたんだよ。それなのに逃げ出しちゃうなんてさぁ…僕は諦めないからね。暇があれば何度でも君に会いにいくよ。いつか僕のものになってくれるって信じてるからね」
 ぞわりと背筋が凍った。
 何故そこまで自分に執着してくるのだろう。
「おっ、俺は戻りませんから!!」
「だぁめ。僕はしつこいんだから。絶対君を僕のものにしてあげる。その高慢そうな顔を物凄く崩したいのが今の僕の夢なんだからぁ。僕の前で跪いて、みっともなくアヘ顔を晒してほしいんだよ。今日の所は帰るけど、また来るからね」
「う…!!」
 なんという悪趣味っぷりだろう。
 硬直するスティレンをよそに、車は颯爽と走り出していった。周囲は再び何事もなかったように時間が回る。
 車が見えなくなると、ようやく緊張感が途切れた。同時にふつふつと怒りが湧いてくる。
 あのガキ!!誰が戻るもんか!!
 悪魔的な笑みを思い出し、スティレンは綺麗にセットしてきた髪をかきむしっていた。
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