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そのにじゅうろく

スカイフィッシュ

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 翌日。
 ラスはぼんやりとしながら準備をしているリシェを見ていた。夜に撮り溜めしたリシェの写真の選別に時間をかけていたのだが、撮った写真の半数以上に不可思議な物に邪魔されていたのだ。
 辛うじて何枚かちゃんとしたものが残されていて、綺麗な映りをしているのをしっかり壁紙にしておいた。
 リシェはネクタイを締めながら、ぼんやりしているラスに「着替えないのか?」と問う。
「え?…ああ、着替えるけど…」
 毎日かかさず行う髪のセットですら億劫だ。
「寝てないのか?」
「はあ、まあ…」
 写真に写っていたものが気になり過ぎて、ラスは頭を悩ませていた。なんであんなものに邪魔されるのだろうかと。
 まさかこの部屋に居るのだろうか。
「先輩」
「?」
「この部屋、何か居たりとかします?」
「は?」
 入室から一日目で不満を言うのかとリシェは不愉快そうに顔をしかめた。
 別に何もないけど、と返す。
「そうですよねえ…何だろう、何であんなに写るんだろう」
「言っている意味が分からないけど何が言いたいんだ?」
 正直に話せば絶対に引かれてしまうと思う。
 いやしかし、これは不思議に思っても仕方ない。
「あのう、引かないで下さいね先輩。俺、昨日先輩の寝顔撮りまくったんです。可愛くて…鼻血が出そうな位ドツボに入って」
「気持ち悪いな!!」
 ほらあ、やっぱり引く…とラスは傷付いた。
「いや、本題はそれじゃなくて。先輩を写した画像にほとんど不思議なやつが映り込むんですよね…ほら、こういうの」
 まるで汚れた物を見るような目を向けられ、心が折れそうなのを耐えながらラスはリシェに画像を見せた。
 嫌そうに彼はそれを眺める。
 しばらくして、「ああ」と呟いた。
「あれか、スカイフィッシュか」
「………」
 めちゃくちゃ軽い感じで答えてくる。何故そんなに慣れたように言うのだろうか。
 しかも謎の生命体じゃないか、と。
「な、何でそんなあっけらかんとしてるんですか」
「昔、奴を踏み潰した事があったんだ」
「え?」
「何かやけに足元が目まぐるしいなと思って軽く右足で踏んづけてみたら」
 見えるものなんだ…と黙って聞く。
「変なヒレみたいなのが沢山のやつが死んでた」
「………」
「あれから仲間みたいなのがたまに出てくるけど、別に害も無さそうだし」
 やけに写真に映り込むって事は意外に恨まれているのではないかと思うんだけど…と不安になる。
「まあ、写真にこれだけ映り込むんなら後で殺虫剤を買ってきてやる。据え置きタイプのやつ」
「えええ…」
 まるで夏の風物詩の蚊のような扱いに、ラスは脱力しそうになる。ラスの気持ちとは違い、リシェは完全に慣れている様子だった。
 リシェは鞄を持ち出すと「じゃあ先に行ってるからな」と言い残しさっさと出て行ってしまった。
 殺虫剤でいけるものなのかと疑問だが、あの様子だと寄せ付けない意味ではありなのかもしれないと無理矢理納得せざるを得ない。
 とりあえず、壁紙に出来る物が確保出来ただけでもありがたい。
 しかし画像を見せた時のこちらを軽蔑するリシェの表情は、寝付けず疲れていたラスのメンタルを著しく削ってしまった。
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