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そのじゅうきゅう

【私の】嫉妬【オーギュスティン】

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 今日もどうにか無事に終わった、とオーギュスティンはトレードマークの眼鏡を外し、軽く目元をマッサージする。
 放課後の職員室はこれから部活に動いたり、個人的な事務作業やらに追われる教師らの姿があった。
 頭の中で自分が次にやる事を整理しつつ、卓上の整頓をしていると、向かい側から視線を感じた。
「…何ですか?」
 向かい側は丁度体育教師であるヴェスカの席。
 ガタイが良く、黙っていても目立つので遠くからでもすぐに分かる。しかも毎回毎回何の用事も無いのに注目してくるのだ。
「いや、眼鏡無い方がいいなあって思って」
 コンタクトにしたら?といらないアドバイス込みで彼は言ってきた。
「眼鏡着けないと目つきが悪いと言われます。だから眼鏡を着けているんです」
「そうかなぁ。取った方がイケメンっぽくない?」
 オーギュスティンの目は切れ長で細めだった。そのせいで怖いと印象付けられ、人から近付き難いと言われがちなのだ。
 ヴェスカはそんな彼の事情を知るはずもなく、軽々しくイケメンっぽいと口に出す。
「別に周りからの評価は気にしてませんので」
「ほー!そんな事言って。モテるんでしょー?」
 …うるさい…。
 オーギュスティンは面倒そうに軽く溜息を吐いた。
「ここでモテても仕方ないでしょう。私は忙しいんです。溜まってる作業をしないと…あなたは部活か何かでしょう。私に構ってる暇は無いと思いますけど?」
「その暇を見てあんたにちょっかいをかけてんだけど。この時間が俺にとって大切なんだよ」
 はい?とオーギュスティンはヴェスカを怪訝そうに見返す。全く彼は動じず、にんまりと子供のような笑みを向けてきた。
 それはあまりにも無防備な笑みだ。
 不意に懐かしさを感じたが、それが一体何なのか分からない。
「あなたに構っている暇は無いんですよ私は。あなたも早く次の仕事に」
「結婚してくんない?」
 オーギュスティンの言葉を遮る形で、ヴェスカはとんでもない事を言い出していた。あまりにも理解の範疇を超え過ぎていて、オーギュスティンの動きが停止する。
 同時に周辺の職員らも止まっていた。
 ヴェスカだけ全く普通。
「早く仕事行きなさい」
 繰り返しオーギュスティンはヴェスカに言った。
「結婚してよ、オーギュスティン先生」
「頭でも打ったんですか」
 冗談にも程がある。
 あしらうようにヴェスカに言いながら、あくまで冗談を言うなと軽く突き放した。
 二人は冗談を言い合っているのだろうと会話の流れを読み取り、固まっていた職員らは散った。しかしヴェスカだけはむっとしながら「打ってねぇよ」と膨れる。
 そんな中、職員室に現れた用務員の姿が見えた。
「頼まれた観葉植物の栄養剤を持って来たぞ」
「あら、ありがとう。良かったわぁ、無くなってたから早く栄養をあげないとって思っていたのよ」
「また無くなったらいつでも頼むといい」
 何故か横柄な物言いをしている彼だが、女性職員にはやたら人気のある用務員だった。
 受け渡しを済ませた後、彼はこちらをちらりと見ると無表情のまま近付いてくる。
「ファブロス君」
 オーギュスティンは彼に声をかけるも、当の本人はヴェスカの席に立ちおもむろに瓶詰をドスンと置いた。
「お前にはこれだ」
「え!?な、何!?」
 突然のプレゼントに、ヴェスカは瓶詰を手に取って眺める。しかしその中身が何なのかを知った瞬間、彼は悲鳴を上げていた。
「いやああああぁああああぎゃあああああ!!!」
 そしてその場から脱兎の如く逃げ出してしまう。
 オーギュスティンは不審そうにファブロスに何ですか?と聞いた。
「私は地獄耳なのだ。よりによって私のオーギュスティンに軽々しく求婚しおって」
 手を伸ばし、その瓶詰を手に取った。
 そして「ううっ」と呻き声を上げる。よくこんなに虫を詰めたものだと感心した。
 しかも狭い瓶の中でまだ蠢いているのだ。虫への嫌悪感があまり無いオーギュスティンでも、気色悪さを覚えてしまう。
 そして仏頂面のファブロスに告げた。

「これは流石に悪戯にしては気持ち悪いし、良くないから止めなさい…」
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