異世界学園の中の変な仲間たち

ひしご

文字の大きさ
上 下
19 / 101
そのじゅうはち

誤解

しおりを挟む
「そのナマコ野郎っていうのやめてくれない!?個人的にすっごく不愉快なんだけど!」
 彼は本気で嫌がっている様子でリシェに怒鳴るが、ふんと吐き捨てるようにナマコ野郎はナマコ野郎だと返した。
「名前もろくに知らないのに人様の靴箱にナマコを入れてくるような奴だ。お前の名前はナマコ野郎に決定だ。そのうち妖怪化するに違いないんだ。分かったか、ナマコ野郎」
「ちょっと、段々意味が分かんなくなるからナマコ野郎って言うのやめて。繰り返し言われると本当にナマコ野郎が何なのか混乱しちゃう。大体インパクトあるんだよ、なんだよナマコ野郎って。ほんとお前はセンスが無いよね」
 無表情なリシェが延々と言う横で、スティレンも次第に意味が分からなくなってきたのか同じようなフレーズを連呼する。
「それならお前が俺の代わりにこいつからナマコを入れて貰えばいいのだ。俺は嫌だぞ、ナマコ野郎が持ってきたナマコの差し入れなんて」
「ちょっと!本気で言ってるの!?俺だって嫌だよ、冗談じゃない!俺のお気に入りの靴がナマコだらけになるとか想像するだけでおぞましい!彼が好んでナマコをお前にプレゼントしてやるんだからありがたく頂戴しな!」
「あーーーー!!!もう、うるさい!!!さっきから何なの、ナマコナマコって!!僕の名前はナマコ野郎じゃなくてシエルって名前なんだけど!全く掠りもしてないし!しつこいんだよ、ナマコばっかり連呼して!鬱陶しいな!!」
 ようやくその生徒は自分の名を名乗った。
 リシェは無表情のままで黒い袋を覗き込むと、四匹位の粋のいいナマコを見下ろしながら「お前がナマコだから言っているんだ」と全く気にせずに返事をした。
 どうやら彼の中ではシエルが名乗ろうが、その一目を引く容姿を持とうが完全にナマコ野郎と定着してしまったようだ。
「んで、何でこいつの靴箱にこんなものを入れようと思った訳?面識も無いんでしょ?」
「………」
 本筋にようやく入り込むスティレンだったが、シエルはそっぽを向いて無言になる。
「俺はお前なんか知らないぞ。何で俺の靴箱に予告してナマコを入れようと思ったんだ」
「…だって、僕の大好きな先生にちょっかい出してたから」
「はぁん?」
 しばらく間を置いた後に、ようやくシエルは小さく声を出す。それに反応するスティレンは、つい変な声で返事をしていた。
 そして、ははっと小馬鹿にしたような笑い声を放ち「こいつがぁ?」と改めて聞き直した。
「こいつが先生にちょっかい出すと思うぅ?」
「してたよ!保健室に行ってたじゃないか、そこで見たんだもん窓から!あれはお前だったろ!」
 スティレンはちらりとリシェに目を向けた。
 まぁ、行ってたけどと眉を寄せる。
「あれはハトに襲われて怪我したから行ってきただけで、特に何も」
 …無かったとは言い切れない。
 どうやらシエルが気になっている先生というのはあのロシュという保健医の事のようだった。
 まぁ確かにモテそうな雰囲気だったなと思いながら、不意にリシェは心のどこかでもやもやするのを感じてしまう。
「なぁに、単に妬いてただけなの?くっだらないねえ。もっと違う何かかと思ってた」
 思った事はすぐに言葉に出してしまうスティレン。シエルは下らないって何だよ!と怒り出す。
「ず、ずうっと好きだったんだから!いきなりぽっと出の奴なんかに取られたくないし!お前なんか絶対レナンシェ先生のタイプじゃないし!!」
 ………ん??
 彼の話が何かおかしい。
 新キャラの名前に、リシェとスティレンはお互いに顔を見合わせた。
「レナンシェ先生って誰?」
「ロシュ先生じゃなくて?」
 二人の言葉に、シエルは丸く大きな目で「え?」と逆に問う。
「保健医の先生ってロシュ先生でしょ?何でレナンシェ先生ってのが出てくる訳?」
「え?ええ…?で、でもよくレナンシェ先生は保健室に入り浸ってたから…背格好も似てたし…」
 先程の勢いとは違って、急激にしおらしくなっていくシエル。リシェは人間違いじゃないのかと冷たく言った。
「そ、そんな」
 人間違いで呪われそうになりナマコを靴箱に入れられそうになっていたのかとリシェは溜息を漏らすと、困惑する彼に無情に告げた。
「おい、お前の靴箱はどこだ」
「え?」
「靴箱。腹が立つからお前の靴箱にこのナマコを入れてやる」
 こんな下らない事で、しかも人間違いという結果に苛立ったリシェは、ナマコの袋を持ったままシエルの靴箱を探し出そうとした。彼は慌てて「やめてよ!」とリシェを止めようとする。
 スティレンにもどうにかしてよと訴えるが、彼も拍子抜けしてしまい、リシェの暴走を止める気にもなれずにいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

当て馬系ヤンデレキャラになったら、思ったよりもツラかった件。

マツヲ。
BL
ふと気がつけば自分が知るBLゲームのなかの、当て馬系ヤンデレキャラになっていた。 いつでもポーカーフェイスのそのキャラクターを俺は嫌っていたはずなのに、その無表情の下にはこんなにも苦しい思いが隠されていたなんて……。 こういうはじまりの、ゲームのその後の世界で、手探り状態のまま徐々に受けとしての才能を開花させていく主人公のお話が読みたいな、という気持ちで書いたものです。 続編、ゆっくりとですが連載開始します。 「当て馬系ヤンデレキャラからの脱却を図ったら、スピンオフに突入していた件。」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/239008972/578503599)

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

処理中です...